第一章 永遠剣士編断章「仮面/永遠/凛那」
神の聖域レプセキアの一室。
帰還してきたアバタールたち。そして、睦月が全身を勾玉から発せられた光の縄で動きを封じられていた。
「戻ってきたようね」
靴音を鳴らして、白と黒の色分けされたコートを着た仮面の女性がやって来た。アバタール以外の仮面をつけたリュウカたちは彼女に小さく会釈をした。
「あら、随分とボロボロね。アバタール」
「……さすがは永遠剣士と言ったところだ」
あえて答えずに縛り付けた睦月を蹴り飛ばして、彼女の元に差し出した。ごろごろと転がってきた睦月の姿を見て、仮面の女はくすくすと笑った。
睦月は唇を噛み締めながら、彼女を睨み据えた。彼女はアバタールに視線を促した。
「知らんぞ」
アバタールは嘆息交じりに睦月の縛り付けていた勾玉を解除した。
その刹那。睦月の右腕が黒く染まり巨大な砲身を仮面の女へと突きつけた。
「!!」
リュウカたちは臨戦態勢をとったが、既に遅かった。彼の砲身の砲口はもう彼女捉えている。
「ああ、心配しないで」
平然に片手をあげて、リュウカたちを宥めた彼女に睦月は怒りを更に露にする。
「……ほざけ……!!」
「そんなものおろしなさい。無駄な抵抗よ」
仮面の女が何もしないでいると、睦月の身体が悲鳴を上げた。砲身は霧散し、彼は力なく倒れた。
「―――さて、彼の永遠剣を食べないといけないし、色々と動きもとらないといけない」
倒れた睦月を彼女は抱きかかえた―――抱きかかえながらも睦月は抵抗をしようとするが、全く微動だにしない―――まま、去っていった。
「お前たち、ご苦労だった。負傷したものは治療を受けてもらえ……解散」
アバタールの指示で、リヒターたちも部屋を出て行った。彼自身も動こうとしたが、身体の力が想ったより回復していない。
そのためにその場に座り込んだ。勾玉を使い、治療のできる島へと転移することはできる。
「……機械兵士の方が楽か」
床をとんとんとたたくと、ずんぐりむっくりな機械兵士が現れ、アバタールを抱えて出て行った。
回廊を歩く仮面の女。抱きかかえられたままの睦月。
「……お前、何者なんだよ」
「名前は教えないわ。この見目通り『仮面の女』よ」
「くっ……お前が、ジェミニを……!」
「彼には少し手伝ってもらったよ。永遠剣も必要なパーツだから」
「なに…!」
「詳しい事は言わない。さあ、ついたわ」
仮面の女は質素に返して、暗闇の部屋に入った。
視界が暗い。間近に居るのに彼女の仮面もぼやけて見える。
「睦月と言ったわね。貴方も私の計画に手伝って頂戴」
「断るといえば?」
「『Sin化』ね」
「シン……か?」
聞いた事の無い言葉に戸惑う彼に、仮面の女は仮面の下から笑みを零した。
「ふふ―――」
突然、仮面の女は睦月を放り投げた。
転がり倒れた睦月は直ぐに起き上がって、永遠剣を抜いた。だが、視界は真っ暗。何も見えない。
「てめえ……何を…!」
「永遠剣をより優れたものにするには『同じ』モノを喰らえばいい。永遠剣士んが永遠剣士の剣を食らっても、食らわれたほうが生きる。
―――もう、言いたい事は解るわよね」
「っ!!」
暗闇の只中、睦月は全身に恐怖を感じた。
彼女のいう事がすべて事実、本当なら―――。
「お前、ジェミニの永遠剣も―――」
「今は貴方のを喰らうわ」
「――――!!」
その直後、睦月の悲鳴、絶叫が響き渡った。
そして、静まり返った後、部屋から出てきた仮面の女と、顔を仮面で覆われて出てきた睦月だった。
「ありがとう、睦月」
「……」
無言のまま、歩き去る彼を尻目に、仮面の女は次なる目的に思考をめぐる。
「さて、次は王羅たちね……ふふ、今度こそ」
*
神無宅。
王羅、ローレライとヴァイロンの仲間が来訪して数日が過ぎていた。
「遅れてすまなかった、王羅」
「心配しましたよ、刃沙羅」
この日、神無宅にやって来た長身の男――刃沙羅は王羅に深く一礼した。家主の神無は腕を組んで、刃沙羅を見据えながら、王羅に問うた。
「彼はお前の仲間か?」
「はい。ちょっと彼だけ別行動を取らせていたんです。報告してください」
「ああ。――既に心剣士、反剣士の何人かは特定できた」
頭を上げた刃沙羅が取り出したレポートと顔写真つきのものが数枚に、神無は結構な数の心剣士に驚いていた。
「世界広しってか」
「そう。俺の師匠もやられた」
「……毘羯羅ですね」
王羅が神無に見せた1枚のレポートと顔写真。
黒髪に、鋭い藍色の瞳、妙齢の若さに反しての無数の傷を顔に刻んだ女性が映っている。
「他にはどれどれ」
神無はレポートと顔写真を合わせるように並び替えていく。
「……これほどの人間を操って何をするつもりだ?」
「解りません……彼女が何かしようとしてるのは確かなだけ。そのために心剣士と反剣士を多く集める理由があるんです」
「?」
「永遠剣士はきわめて数が少ないんです。恐らく5人も満たないでしょう」
「5人も?!」
「だから、彼女は多くの心剣士、反剣士を操っているかと」
「なるほど……」
「――何の話をしてる」
部屋に割って入ってきた凛とした女性。
赤い絢爛な着物を着崩し、妖艶に胸元と肩を晒した姿に刃沙羅はあっと驚く。
「な、なんだコイツ! ゆ」
「言わせねえ!! ―――コイツは」
「明王凛那。神無、何の話をしている」
神無は部屋に入って来た凛那に一応、刃沙羅の持ってきた操られた心剣士たちの情報を話した。
「ふむ、大層な数だ。コレだけ居るなら、斬れば問題ない」
「おい…!」
刃沙羅の表情と声色が変わった。怒りの色。しかし、凛那は反省の顔ではなく、疑問の顔だった。
「? どうしたんだ」
「凛那、察しろよ」
「??」
「すまねえ、刃沙羅。コイツは『人』になったばかりで、人の常識がなっていない」
神無はそんな彼女に代わって詫びた。
だが、刃沙羅も唯怒っているわけじゃあなかった。彼が言った言葉に怪訝を抱いた。
「人になったばかり?」
「コイツは元々、親父の刀だ」
「……は?」
「改めて名乗ろう。我が名は『明王凛那』……彼の父、無轟の愛刀だ」
「……っ……?」
刃沙羅は唖然とした顔で王羅に視線を向ける。彼女は笑いながら頷いた。
「刀が、人……女に?」
「これだから世界は不思議に満ちている」
王羅は笑顔をこぼしながら、言った。彼女は旅人となった。心剣の力で不老になって、肉体を1度は変えた。
そんな彼女の生きる事の幸せの殆どが「不思議さ」だった。興味本位の固まりだ。
「……仮面の女とは1度は彼女と共に語り合ったけど、あれは夢幻なのかな」
遠い過去を想い浸るため息を零した王羅に、神無はそんな彼女の言葉に驚いた。
「なんだ、お前は知り合いなのか?」
「僕が狙われる理由も僕の心剣に興味が在るかららしい。いい迷惑だよ」
「ふむ……神無、何故、刃沙羅は怒っていたのだ?」
「……もういいよ、お前ら」
人となった刀『明王凛那』。
それは神無が蘇らせた強力な戦力の一つだった。
第二章心剣士編へ続く。
■作者メッセージ
とりあえず、第一章永遠剣士編はこれで終わりです。
NANAさんにバトンをタッチします。
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