Fragment3「試練」
少年は両手に持った二つの剣を握り、一気に駆け込む。
それを素早く振るうが、ジャスが槍で防御した。
「スピードはなかなかですが……僕には効きませんよ?」
「どっ…りゃぁ!!」
すぐさま少年はぶつけたキーブレードを捻り、擦るようにして動かす。
そうして体制を少しだけ崩し、もう片方に持っていた光の長剣で上から振り下ろす。
ジャスは持っている槍を引き抜くようにして攻撃を避ける。少年はふらつくものの、片足を軸にして回った。
「『エアアーツ』!!」
風を纏った両手の武器を握りしめ、その場で回って衝撃波を発生させる。
だが、その衝撃波をジャスは槍で器用に防御する。
やがて攻撃をし終えた少年は、ある事に気づいて首を傾げた。
「ジャスさん、【ジャッジメント】使わないの?」
【ジャッジメント】。それは、ジャスティスが使う独自の魔法だ。
本来魔法と言うのは詠唱や魔力を必要とする。しかし、ジャスティスは詠唱はおろか、魔力を練りこむ時間を必要としない。要はキーブレードで魔法を発動するのと同じぐらいの動作で即席で発動が出来るのだ。
この少年の質問に、ジャスは眼鏡を軽く押し上げた。
「あなた如きに、わざわざ使う必要ないでしょう。それとも使って欲しいんですか?」
「ジャスさんの好きにすればいいよ…だってボクの『モード・スタイル』は、『スピード・モード』だけじゃないからね!!」
何処か自信ありげに宣言するなり、最初の変化のように両手を交差する。
同時に、少年の身体が光り出した。
「第一段階、チェンジ…――『パワー・モード』!!」
そうして光に包まれ、霧散する。
すると、少年は通常の二倍ほどの大きさのキーブレードを持って佇んでいた。
「大剣、ですか? 面白い能力ですね……まあ、その武器にあなたが振り回されなければいいのですが――」
ジャスが皮肉を混ぜて言っていると、少年が大きく跳躍した。
「『スタンブレード』!!」
電圧を纏ったキーブレードを、ジャスにめがけて大きく振り下ろす。
ジャスは受け止める事はせずに避けていると、少年の表情が若干歪む。
どうやら、防御させて電撃を武器を伝わせて麻痺を起こさせる作戦だったようだ。
「やれやれ、突っ掛かる事もしないとは……ちゃんと、父親特有の冷静さを受け継いでいるようですね」
怒りに見せかけての考えた攻撃に、ジャスは思わず彼の“父親”を思い浮かべる。
「そして…母親特有の強さも持っている、か…」
同時に彼の“母親”も思い出し、見えないように微笑する。
そして、ジャスは戦っている間にずれた眼鏡をかけ直して少年を見据えた。
「――少し、僕も本気を出しましょうか」
ジャスは睨みつけながら、指を鳴らそうと親指と中指をつけて少年へと伸ばす。
【ジャッジメント】の動作だと分かり、すぐさま少年が阻止しようと動いた。
「『エアリルブレイク』!!」
再びジャスへと跳躍し、一気にキーブレードを振り下ろす。
だが、ジャスは手を伸ばしたまま横に避けた。
―――パチン
「しまっ…!?」
聞こえた音に思わず少年が防御するが、何の攻撃も起きない。
その代わりに、ジャスが近づいて槍で横になぎ払った。
「はぁ!!」
「うわっと!?」
予想外の事に、少年は驚くがどうにか地面を転がって避ける。
そうして手をつけて座り込むように体制を立て直すと、驚いた表情でジャスを見た。
「【ジャッジメント】使うんじゃなかったの!?」
「誰が今使うなんて言いました? それに――」
そう言うと、再び少年に向かって手を伸ばす。
「使うのなら、こう言った状況で使いませんとね? ジャッジメント―――『ペナルティ・オブ・クリミジョン』」
その言葉と共に、ジャスが指を鳴らす。
すると、少年に向かって灼熱の炎が収縮される。
少年を軽く呑みこめるほどの炎が爆発する刹那、キーブレードを地面に叩きつけた。
「『ロックライズ』!!」
そうして叩きつけた場所から、少年を隠すほどの巨大な岩が突き出す。
同時に爆発が起きるが、突き出した岩を盾にして爆発と共に襲いかかる炎には直撃せずに済んだ。
攻撃を防いだ事に少年は安堵の息を吐く。直後、足元から地面から生える様に幾つもの細い黒い槍が突き出した。
「安心している暇はありますか?」
「くっ…!!」
ジャスを見ると、武器である槍を地面に突き刺している。
これが、ジャスティスの使う槍の一つ『ゲイボルグ』の能力だ。ゴムのように収縮自在で、その気になれば百以上も槍を枝分かれさせて相手を貫く事が出来る。
そうこうしている内に、外れて天へと向かった槍の矛先が一斉にこちらに戻るように向かって来た。
(どうしよう!? えっと、こう言う場合は…――そうだっ!!)
打開策が思いつくと同時に、少年は横へと回避する。
すると、槍達は地面スレスレで軌道を変えて少年を貫こうと一束になって襲いかかる。
それを見て、少年はキーブレードを握りしめた。
「――らぁ!!」
力強く一歩を踏みしめながら、思いっきり槍の先端に向かって投げつけた。
そうして束になった槍とキーブレードがぶつかると、辺り一帯に冷気の靄が弾けた。見ると、キーブレードと共に槍の先端は凍りついている。
『フリーズレイド』を出し終えた少年はすぐに利き手を光らせて氷の中にあるキーブレードをその手に戻す。
その様子を、ジャスはまるで何事も無いように見ていた。
「戦いにおいての戦略性や太刀筋は素人よりは上、と言った所ですね。まだまだ未熟な部分はありますが」
「たった一撃、攻撃を入れるだけなのに……ジャスさん、まったく隙がないよね…」
「戦いは何事も全力でするものです。例え相手が弱い雑魚でも、少しの油断で生死を分けますからね」
「どうせジャスさんからすれば、ボクは雑魚ですよ!……でもね」
そこまで言うと、両手をクロスしながら睨み付ける。
「ボクが雑魚でも……今ある力を最大限に生かして強くなる事は出来る!! 第二段階、チェンジ!! 『ウィング・モード』!!」
先程よりも身体を光らせるなり、霧散させる。
いつの間にか、少年は右が白で左が黒の双翼を纏っていた。キーブレードは消えており、代わりに両手と両足に白と黒の光を纏っている。
この変化にジャスが眉を顰めていると、少年は上空へと飛び上がった。
「耐えられる? 『エアリル・レイド』ォ!!」
翼を羽ばたかせ、上空からジャスに向かって一気に蹴りを放つ。
これにはジャスも槍を手放し、落ちてくる少年を避けた。
少年の蹴りが地面に当たり、衝撃波と共に砂埃が舞う。
「――かかったね」
「っ!?」
突然砂埃の中心にいた少年が笑うので、ジャスが息を呑む。
そこを狙い、少年は丸腰となったジャスに素早く拳を突き出した。
だが、聞こえたのは金属がぶつかる音だった。
「へっ?」
「――自在に能力を変化させる力はさすが、と言っておきましょう。それだけでさまざまな戦法が生み出されるのですから」
そう評価するジャスの手には、《白い槍》が握られている。
防がれた。そう理解出来た時には、ジャスは拳を弾き返していた。
「でも、それだけでは僕に傷をつけられない」
未だに思考が追いつかない少年に、ジャスは槍でなぎ払うように一閃する。
槍が当たる直前、少年は反射的に翼で防御した。
「がっ…!?」
どうにか防御するものの、思いっきり吹き飛ばされて地面へと叩きつけられる。
一閃を受け止めた翼から飛び散った羽が辺りに舞う中、ジャスは槍を下して首を傾げた。
「さあ、どうします? 次は――」
直後、地面に幾つもの爆発が起こる。
再び砂埃で辺りが見えなくなる中、空気を切る音が響いた。
「一撃で決める!! 『ナックル・フィスト』――!!」
その声と共に、少年がジャスにめがけて低飛行を行い顔面に拳をぶつけようとした。
だが、またもや防御されてしまう。それも、片手で。
速さも威力も十分な攻撃を目の前で防がれ、少年は目を丸くした。
「えっ…!?」
「飛び散った羽を地雷のように爆破させ目隠しを行い、真正面から素早く突っ込んで拳を叩きこむ。シンプルですが、意外にも読み取りにくい考えた攻撃ですが――」
“目の前”で握りしめた少年の拳を見ながら、ジャスは淡々と分析する。
と、ここで槍を消して片手を伸ばした。
「僕には効きません―――セット、『クリミジョン』」
そうして、指を鳴らす。
同時に、あの爆風が少年とジャスの間に起きた。
「げふっ…!!」
防御出来ず、少年は爆風と共に吹き飛ばされる。
転がるようにして再び地面に叩きつけられてる中、ジャスは平然とその場に立っていた。
そのまま、爆風で乱れた長い銀髪を後ろに掻き分ける。
「これで終わりですか? そんな事では、これは上げられませんよ」
「まだ、まだ…!!」
ジャスの言葉に、少年は両手を付けてよろよろと起き上がる。
この少年の様子に、ジャスは再び白い槍―――『グングニル』を具現化させて握りしめた。
(そう。それでいいんです…これから先の事に比べれば、これはまだ踏み台にすぎないんですから)
まだ未熟な彼を異世界に渡らせる。本来ならば己の正義に反する事だ。
だが、今回だけは特別…――いや、必ず行わなければならない。たとえ、異世界での戦いが過酷を強いるのを予想出来てもだ。
その為にも…決して、戦いの手を抜いてはいけない。
「シャオ君…――僕は本気で行きます。だからあなたも全力でかかりなさい。そうして、僕に一撃を当ててみなさい」
「ジャスさん…?」
ジャスの雰囲気が変わったのに気付いたのか、少年―――シャオは不思議そうに首を傾げる。
しかし、ジャスは無視するかのように眼鏡をかけ直し、シャオを見据えた。
(もし、ここで倒れたら…あなた達の“未来”は文字通り無くなるのですから)
■作者メッセージ
これにて、今回の私のターンは終了です。
それにしても、ようやく3DSの情報が出ましたね。ソラとリクはKH1をイメージしてかの衣装ですし、『すばせか』の主役《桜庭ネク》はゲストで出演ですし、あと…春に発売だそうです(オイ
今までずっと待ってたので嬉しいのですが、今後の執筆に影響が出ないとも限らないし…とりあえず、前向きに喜びましょう。
さて、次は夢旅人さんのターンです。また次のバトンで会いましょう。
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今までずっと待ってたので嬉しいのですが、今後の執筆に影響が出ないとも限らないし…とりあえず、前向きに喜びましょう。
さて、次は夢旅人さんのターンです。また次のバトンで会いましょう。