第二章 心剣士編第一話/第二話「嵐の前の静寂/布告」
仮面の女の一件、それらの情報を知る王羅たち『旅人』を神無の家で匿うこと数日。
敵の奇襲は無く、平穏の限りであった。しかし、気を緩める事も無く旅人たちは極力、家の中に居座り、今後の行動を何度も何度も話し合う。
「―――神無」
客室には神無を初め、王羅やローレライら旅人、飲み物を運んでいたツヴァイも含めて数名の多さ。その中、一人だけ異質さを漂わせた人物が居た。
燃える赤なる茜色の双眸、髪をした女性で彼女は割り込むように開口し、神無に声をかける。
「今から『例の特訓』だから家を出る」
「ああ。気をつけていけよ」
了承の返事を受け取った凛那は部屋を出、部屋の前に待機していた紗那、ヴァイ、アーファ、イオン、ペルフセフォネら5人と共に家を出て行った。
彼らを見送りからツヴァイが部屋へと戻り、王羅はにこやかに話しかける。
「凛那、さんでしたか。不思議な人……んー、刀? まあ―――製造者があの『伽藍』だからかな」
伽藍の名を呟く顔には複雑な顔を浮かべて、頬を掻いていた。
『器師』伽藍(がらん)。
旅人の中でも異様異質の旅人で、最初は自らを不老のために黒魔術に傾倒するが、様々な分野の技術を吸収する事があるために多種多様な才能を開花している鬼才。その鬼才に頼った一人が、王羅であた。
彼女―――彼はかつての体は病により寿命の限界を迎えていたが、伽藍の手により病は失せたが、どういうわけか『男から女』の体に弄くられた。その後、改めて改造を依頼したが体よく断れて終わった。
そして、明王・凛那は伽藍が作り上げた妖刀を越えた『魔刀』だった。炎産霊神の炎熱を堪え凌ぎ、制御下におくほどの耐熱硬度を逆に刀作りの際に炎産霊神の炎熱を常時利用して、完成したのが凛那であった。
「まさか人になるとは思わなかったがな」
思い返す事、王羅たちが家にやってきて、彼らを招きいれた深夜に遡る。神無の家には上階にそれぞれ兄妹の部屋や物置、下の階に玄関を初めにリビングや無轟の部屋と同じ雰囲気と構造をした客室ともう一つ狭めの客室、神無夫婦の寝室がある。
神無は無轟の客室へ入り、静かな足取りで飾られた刀に近づく。何年もの飾られたものだが、幾年月が過ぎても刀の美麗さは削がれずに冷厳と存在している。
「―――親父の遺言だ。次の担い手、神無としてお前を振るう」
無轟の遺言はいくつか存在している。その一つが彼が使用していた愛刀『明王・凛那』の相続だった。彼のために創られた刀を神無は柄を掴んだ。
溢れんばかりの熱が掌中を焦がす感覚に襲われる。唯一振るう事を許されているのは無轟だけなのだ。過去、この刀を無用心に触れた者は数週間の合間、呪いにも似た火傷に苛まれる。
「くっ、今の俺じゃあ……どうしようもないんだよ……頼むッ」
火傷を堪えながら必死な声で説得すると、痛みは引き、刀が赤く輝いた。
その輝きに眼を奪われ、視界を回復すると輝きはもうなかった。更には自分が掴んでいた凛那の感触も無い。手放したのかと周囲を探ろうとした。
だが、刀の姿は無く代わりに眼前に立つ姿に気づかされる。
「何やら騒がしいと思えば、神無――お前か」
「……凛、那?」
目の前に居る者――茜の髪、双眸をした女性に名を呼びかけると片笑みを浮かべ、頷き返した。
「―――まあ、協力してくれるってのは確かだ」
凛那への会話を一区切りしてから、神無たちはカルマの事件会議を再考する。
一方、凛那と一緒に出かけた紗那たちは町外れの廃工場で特訓をしていた。凛那が一人で紗那たちと戦うというのが特訓の内容だった。ペルセフォネは遅れてきたイオンと刃沙羅と共に特訓の様子を見ている。
そうして訓練が一先ず終了し、雑談へと話は移り変わっていた。
「神無からは事情は聞いた。少ない戦力を補うのは理にかなっている――だが、私は彼の剣として振るう事を拒んだ」
紗那たちの問い――なぜ仲間になったのか、人へとなったのか、に凛那は淡々と答えていた。
「拒んだ?」
「……我はあくまで無轟の刀だ。幾戦、自分と共に在ってきたのは彼だけだった。それを易々と掴まれるのは嫌なんだ」
凛然としていた凛那のどこか遠くを見る目は想いを宿している目だと3人は理解する。
「だから、モノに魂が宿り、『ヒト』と言う形になれたわけだ。ツクモガミというのか?」
「まあ……ヒトになるのって言う時点で奇跡だがな」
休んでいる凛那たちに歩み寄ってきた長身の男――刃沙羅と、イオン、ペルセフォネたちが来た。
「それじゃあそろそろ帰りましょう」
イオンの穏やかで、どこか疲れた声と共に特訓を終え、紗那たちは神無宅へと帰って行った。
神無宅・庭にて
「……まさか、向こうさんからやってくるとはな」
紗那たちが家に戻っているその間、神無宅に予想外の訪問者がやってきていた。モノクロの仮面を被った白と黒に分けられた衣装の女性―――王羅たちの表情で「確信」がついた。
仮面の女だ。
「ふふ、今は襲う気はないわ」
「なんですって?」
身構える中、女は両手を上げて無抵抗の意を示しながら言った。それでも細心の注意を払う神無たち。
「襲撃を布告するのよ。明日、真昼に空へと向かいなさい。特別な舞台を用意して待ってあげる」
「明日!?」
「ふふ、待ってるわ」
そう言って、彼女はふてぶてしく背を向けて歩き去っていく。それに追いかけようと、神無は動いていた。
「まて! おま――」
「……」
神無が彼女の肩を掴んで、動きを止めるも突如、その姿を「ぼんっ」と爆発するように煙に呑まれ、足元に小さな人型の紙が落ちた。
それを拾い上げ、彼は王羅に手渡した。
「何か残っているか?」
「いいえ、伝える為だけのモノでしょう」
受け取った王羅は首を小さく振ってはっきりと答えた。
「そうか―――明日か」
「明日…空に舞台を用意するといっていましたが、何をするつもりなのでしょう」
「わからねえが、こうなる事はかわらねえ。戦うしかねえのさ。
後で紗那たちにも伝えないとな。さて、―――ツヴァーイ! 『アレ』はあったかー?」
神無はため息を吐いて、直ぐに大声で妻にあるモノを探させていた。それを問いただすとツヴァイが小さな木箱を手に戻ってきた。
「『コレ』に何か、意味が在るの?」
「おうさ。ちょいと思い出してさ」
受け取った神無は懐かしそうに笑顔を浮かべながら、木箱の中にあるモノを取り出した。それに興味を抱いた王羅たちは顔を覗き込んだ。
「なんですか? それ?」
「そうです、思い出の品なんて……ふむ」
呆れていたローレライも中に入っていたモノを見て、息を呑んだ。神無はにやっと笑んで、取り出した。
「それは……?」
「指輪?」
彼が取り出したそれは竜を装飾された銀色の指輪。それも赤い宝石と蒼い宝石をはめられたそれは対をなしているものだ。
「双龍の指輪。俺に策在りだ」
その日の晩。戻ってきた紗那たちは宣戦布告の話を聞き終えて、各々緊張の糸に縛られている。
ヴァイの部屋ではアーファ、ペルセフォネがそんなに広いわけでもない部屋の中、休んでいた。
「明日、か」
急な事か、アーファは呆気な顔色で呟いた。
「うん…そうだね」
ヴァイは緊張しているからか、顔色が悪いとは行かないが変に青褪めている。
「……覚悟は、あの日に決めている」
ペルセフォネは静かに自身を落ち着かせ、ヴァイに視線を向けて言った。 あの日、それは神月たちが攫われてしまった日だった。その日から、彼女たちは強くなろうと、戦う覚悟を本物にするべく鍛えあった。
「分かってるよ。分かってる」
腑抜けた訳じゃなかった。怖気付いたわけでもない。
唯、この覚悟を「現実」のものとすることになった。
「絶対、取り戻す」
青褪めた顔色ながらもヴァイの言葉、瞳にペルセフォネは安堵の微笑みを浮かべて、彼女の背を摩った。
(紗那も大丈夫かな)
アーファは二人の様子を尻目に、あの報告で衝撃をヴァイと同じくらいに受けていた紗那を想っていた。もうあれから神月の部屋に籠もってしまっている。
神月の部屋。数日前の事件以来、この部屋には彼女しか出入りしない。
「……神月」
ベッドの片隅で身を縮めている紗那は小さく彼の名を呟いた。
「大丈夫」
あの日の言葉に嘘はつかない。
「負けない……絶対に」
心に強く誓いを立てて、彼女は力なく横たわった。瞼を閉じ、明日を迎えよう。取り戻す、いつもの明日、いつもの彼らのために。
一方、リビング。 王羅、刃沙羅、ローレライ、ヴァイロンたち旅人たちと、神無とツヴァイが明日での事を話し合っていた。
「で、どうやって空に向かうんだ。別に飛んでいけっていうならツヴァイとか俺も翼くらいは出せるが」
「その点には問題ないです。ヴァイロンは元々、竜なので運んでいきます」
神無の問いかけに、ローレライが礼節に答えた。そうか、と納得した彼は次の問題を口にした。
「じゃあ戦う面子は俺、王羅、刃沙羅、ローレライ、凛那、あとは紗那たちか」
「私はもうホント、戦線から離れすぎちゃったから足手纏いだから、足をすくわれるのも嫌だから此処で帰りを待つわ」
ツヴァイは苦笑を浮かべながら、皆に暖かい茶の入ったコップを用意して渡していった。
帰りを待つ、と言う不安を抱き続ける行為なれど彼女は気丈に苦笑を浮かべたことで耐えていた。
「おう」
神無は落ち込んでいるツヴァイに笑顔で慰めた。その一言は頼もしく、愛らしい。
「――で、みんなで行くべきか、少数で行くべきかは考えたが割り当てればいいさ。王羅と俺で仮面の女と戦う。
ほかの皆はアイツが連れているかもしれない操られたヒトたちを倒してくれ。保護すれば、洗脳をとく鍵にも方法が見つかるかもしれない」
神無はそういいきって、王羅たちに視線を向けた。
何か意見があるという事があるか問いただしている。だが、先に凛那にいっておくことがあった。
「凛那、分かってると思うがなるべく…」
「殺すな、だろう? お前が言っただろう、鍵だと」
「ああ。頼む」
「なら意見させてもいいか? ――王羅、いいのかよ」
刃沙羅は王羅に尋ねる。彼女はにこやかな微笑で返した。
「私と神無さんで彼女と戦うことですか」
「そうだ。いくら、アンタの考えがあってもな……」
「もし、王羅に危機となったらその時は俺が全力で逃す。それで、また別の世界で逃げればいい」
「てめえ……」
席を立ち、睨みすえる刃沙羅の鋭い眼つきにも表情を変えず、神無は答えた。
「俺を信じてくれ。最悪の事態になれば、俺が全力で王羅を逃がす」
「ちっ……」
参ったように座り込んで、黙り込むと王羅は神無に微笑みを返して、うなずいてくれた。
神無は頷き返して、時計を見やった。
「さて、明日に備えてしっかりと寝るか!」
神無たちは明日に備えて、部屋に戻って眠りについた。
敵の奇襲は無く、平穏の限りであった。しかし、気を緩める事も無く旅人たちは極力、家の中に居座り、今後の行動を何度も何度も話し合う。
「―――神無」
客室には神無を初め、王羅やローレライら旅人、飲み物を運んでいたツヴァイも含めて数名の多さ。その中、一人だけ異質さを漂わせた人物が居た。
燃える赤なる茜色の双眸、髪をした女性で彼女は割り込むように開口し、神無に声をかける。
「今から『例の特訓』だから家を出る」
「ああ。気をつけていけよ」
了承の返事を受け取った凛那は部屋を出、部屋の前に待機していた紗那、ヴァイ、アーファ、イオン、ペルフセフォネら5人と共に家を出て行った。
彼らを見送りからツヴァイが部屋へと戻り、王羅はにこやかに話しかける。
「凛那、さんでしたか。不思議な人……んー、刀? まあ―――製造者があの『伽藍』だからかな」
伽藍の名を呟く顔には複雑な顔を浮かべて、頬を掻いていた。
『器師』伽藍(がらん)。
旅人の中でも異様異質の旅人で、最初は自らを不老のために黒魔術に傾倒するが、様々な分野の技術を吸収する事があるために多種多様な才能を開花している鬼才。その鬼才に頼った一人が、王羅であた。
彼女―――彼はかつての体は病により寿命の限界を迎えていたが、伽藍の手により病は失せたが、どういうわけか『男から女』の体に弄くられた。その後、改めて改造を依頼したが体よく断れて終わった。
そして、明王・凛那は伽藍が作り上げた妖刀を越えた『魔刀』だった。炎産霊神の炎熱を堪え凌ぎ、制御下におくほどの耐熱硬度を逆に刀作りの際に炎産霊神の炎熱を常時利用して、完成したのが凛那であった。
「まさか人になるとは思わなかったがな」
思い返す事、王羅たちが家にやってきて、彼らを招きいれた深夜に遡る。神無の家には上階にそれぞれ兄妹の部屋や物置、下の階に玄関を初めにリビングや無轟の部屋と同じ雰囲気と構造をした客室ともう一つ狭めの客室、神無夫婦の寝室がある。
神無は無轟の客室へ入り、静かな足取りで飾られた刀に近づく。何年もの飾られたものだが、幾年月が過ぎても刀の美麗さは削がれずに冷厳と存在している。
「―――親父の遺言だ。次の担い手、神無としてお前を振るう」
無轟の遺言はいくつか存在している。その一つが彼が使用していた愛刀『明王・凛那』の相続だった。彼のために創られた刀を神無は柄を掴んだ。
溢れんばかりの熱が掌中を焦がす感覚に襲われる。唯一振るう事を許されているのは無轟だけなのだ。過去、この刀を無用心に触れた者は数週間の合間、呪いにも似た火傷に苛まれる。
「くっ、今の俺じゃあ……どうしようもないんだよ……頼むッ」
火傷を堪えながら必死な声で説得すると、痛みは引き、刀が赤く輝いた。
その輝きに眼を奪われ、視界を回復すると輝きはもうなかった。更には自分が掴んでいた凛那の感触も無い。手放したのかと周囲を探ろうとした。
だが、刀の姿は無く代わりに眼前に立つ姿に気づかされる。
「何やら騒がしいと思えば、神無――お前か」
「……凛、那?」
目の前に居る者――茜の髪、双眸をした女性に名を呼びかけると片笑みを浮かべ、頷き返した。
「―――まあ、協力してくれるってのは確かだ」
凛那への会話を一区切りしてから、神無たちはカルマの事件会議を再考する。
一方、凛那と一緒に出かけた紗那たちは町外れの廃工場で特訓をしていた。凛那が一人で紗那たちと戦うというのが特訓の内容だった。ペルセフォネは遅れてきたイオンと刃沙羅と共に特訓の様子を見ている。
そうして訓練が一先ず終了し、雑談へと話は移り変わっていた。
「神無からは事情は聞いた。少ない戦力を補うのは理にかなっている――だが、私は彼の剣として振るう事を拒んだ」
紗那たちの問い――なぜ仲間になったのか、人へとなったのか、に凛那は淡々と答えていた。
「拒んだ?」
「……我はあくまで無轟の刀だ。幾戦、自分と共に在ってきたのは彼だけだった。それを易々と掴まれるのは嫌なんだ」
凛然としていた凛那のどこか遠くを見る目は想いを宿している目だと3人は理解する。
「だから、モノに魂が宿り、『ヒト』と言う形になれたわけだ。ツクモガミというのか?」
「まあ……ヒトになるのって言う時点で奇跡だがな」
休んでいる凛那たちに歩み寄ってきた長身の男――刃沙羅と、イオン、ペルセフォネたちが来た。
「それじゃあそろそろ帰りましょう」
イオンの穏やかで、どこか疲れた声と共に特訓を終え、紗那たちは神無宅へと帰って行った。
神無宅・庭にて
「……まさか、向こうさんからやってくるとはな」
紗那たちが家に戻っているその間、神無宅に予想外の訪問者がやってきていた。モノクロの仮面を被った白と黒に分けられた衣装の女性―――王羅たちの表情で「確信」がついた。
仮面の女だ。
「ふふ、今は襲う気はないわ」
「なんですって?」
身構える中、女は両手を上げて無抵抗の意を示しながら言った。それでも細心の注意を払う神無たち。
「襲撃を布告するのよ。明日、真昼に空へと向かいなさい。特別な舞台を用意して待ってあげる」
「明日!?」
「ふふ、待ってるわ」
そう言って、彼女はふてぶてしく背を向けて歩き去っていく。それに追いかけようと、神無は動いていた。
「まて! おま――」
「……」
神無が彼女の肩を掴んで、動きを止めるも突如、その姿を「ぼんっ」と爆発するように煙に呑まれ、足元に小さな人型の紙が落ちた。
それを拾い上げ、彼は王羅に手渡した。
「何か残っているか?」
「いいえ、伝える為だけのモノでしょう」
受け取った王羅は首を小さく振ってはっきりと答えた。
「そうか―――明日か」
「明日…空に舞台を用意するといっていましたが、何をするつもりなのでしょう」
「わからねえが、こうなる事はかわらねえ。戦うしかねえのさ。
後で紗那たちにも伝えないとな。さて、―――ツヴァーイ! 『アレ』はあったかー?」
神無はため息を吐いて、直ぐに大声で妻にあるモノを探させていた。それを問いただすとツヴァイが小さな木箱を手に戻ってきた。
「『コレ』に何か、意味が在るの?」
「おうさ。ちょいと思い出してさ」
受け取った神無は懐かしそうに笑顔を浮かべながら、木箱の中にあるモノを取り出した。それに興味を抱いた王羅たちは顔を覗き込んだ。
「なんですか? それ?」
「そうです、思い出の品なんて……ふむ」
呆れていたローレライも中に入っていたモノを見て、息を呑んだ。神無はにやっと笑んで、取り出した。
「それは……?」
「指輪?」
彼が取り出したそれは竜を装飾された銀色の指輪。それも赤い宝石と蒼い宝石をはめられたそれは対をなしているものだ。
「双龍の指輪。俺に策在りだ」
その日の晩。戻ってきた紗那たちは宣戦布告の話を聞き終えて、各々緊張の糸に縛られている。
ヴァイの部屋ではアーファ、ペルセフォネがそんなに広いわけでもない部屋の中、休んでいた。
「明日、か」
急な事か、アーファは呆気な顔色で呟いた。
「うん…そうだね」
ヴァイは緊張しているからか、顔色が悪いとは行かないが変に青褪めている。
「……覚悟は、あの日に決めている」
ペルセフォネは静かに自身を落ち着かせ、ヴァイに視線を向けて言った。 あの日、それは神月たちが攫われてしまった日だった。その日から、彼女たちは強くなろうと、戦う覚悟を本物にするべく鍛えあった。
「分かってるよ。分かってる」
腑抜けた訳じゃなかった。怖気付いたわけでもない。
唯、この覚悟を「現実」のものとすることになった。
「絶対、取り戻す」
青褪めた顔色ながらもヴァイの言葉、瞳にペルセフォネは安堵の微笑みを浮かべて、彼女の背を摩った。
(紗那も大丈夫かな)
アーファは二人の様子を尻目に、あの報告で衝撃をヴァイと同じくらいに受けていた紗那を想っていた。もうあれから神月の部屋に籠もってしまっている。
神月の部屋。数日前の事件以来、この部屋には彼女しか出入りしない。
「……神月」
ベッドの片隅で身を縮めている紗那は小さく彼の名を呟いた。
「大丈夫」
あの日の言葉に嘘はつかない。
「負けない……絶対に」
心に強く誓いを立てて、彼女は力なく横たわった。瞼を閉じ、明日を迎えよう。取り戻す、いつもの明日、いつもの彼らのために。
一方、リビング。 王羅、刃沙羅、ローレライ、ヴァイロンたち旅人たちと、神無とツヴァイが明日での事を話し合っていた。
「で、どうやって空に向かうんだ。別に飛んでいけっていうならツヴァイとか俺も翼くらいは出せるが」
「その点には問題ないです。ヴァイロンは元々、竜なので運んでいきます」
神無の問いかけに、ローレライが礼節に答えた。そうか、と納得した彼は次の問題を口にした。
「じゃあ戦う面子は俺、王羅、刃沙羅、ローレライ、凛那、あとは紗那たちか」
「私はもうホント、戦線から離れすぎちゃったから足手纏いだから、足をすくわれるのも嫌だから此処で帰りを待つわ」
ツヴァイは苦笑を浮かべながら、皆に暖かい茶の入ったコップを用意して渡していった。
帰りを待つ、と言う不安を抱き続ける行為なれど彼女は気丈に苦笑を浮かべたことで耐えていた。
「おう」
神無は落ち込んでいるツヴァイに笑顔で慰めた。その一言は頼もしく、愛らしい。
「――で、みんなで行くべきか、少数で行くべきかは考えたが割り当てればいいさ。王羅と俺で仮面の女と戦う。
ほかの皆はアイツが連れているかもしれない操られたヒトたちを倒してくれ。保護すれば、洗脳をとく鍵にも方法が見つかるかもしれない」
神無はそういいきって、王羅たちに視線を向けた。
何か意見があるという事があるか問いただしている。だが、先に凛那にいっておくことがあった。
「凛那、分かってると思うがなるべく…」
「殺すな、だろう? お前が言っただろう、鍵だと」
「ああ。頼む」
「なら意見させてもいいか? ――王羅、いいのかよ」
刃沙羅は王羅に尋ねる。彼女はにこやかな微笑で返した。
「私と神無さんで彼女と戦うことですか」
「そうだ。いくら、アンタの考えがあってもな……」
「もし、王羅に危機となったらその時は俺が全力で逃す。それで、また別の世界で逃げればいい」
「てめえ……」
席を立ち、睨みすえる刃沙羅の鋭い眼つきにも表情を変えず、神無は答えた。
「俺を信じてくれ。最悪の事態になれば、俺が全力で王羅を逃がす」
「ちっ……」
参ったように座り込んで、黙り込むと王羅は神無に微笑みを返して、うなずいてくれた。
神無は頷き返して、時計を見やった。
「さて、明日に備えてしっかりと寝るか!」
神無たちは明日に備えて、部屋に戻って眠りについた。