第一章 心剣士編第一話「仮面の女」
今日は久しぶりに仲間と買い物の誘いを受けた神月と紗那。
仲間――オルガ、アーファ、菜月、イオン、ペルセフォネとショッピングモールで合流し、買い物を楽しんでいた。
だが、異変は直ぐに起きた。
「……?」
「どうしたの、神月」
ふと上を仰ぎ、怪訝な表情を見せた彼に不安そうに顔を覗き込んだ紗那に、神月は見上げたまま、
「上に―――何か、いる」
ショッピングモールの「上」から何かの力を感じ取った。
今まで戦ってきた敵と同等――いや、それ以上の力の鳴動を。
神月たちは買い物をやめて、屋上へと駆け上がった。
屋上へはエレベーターを使用する。
屋上には親子連れ――特に低年齢層の子供たちの為に用意された小さな建物、ゲームやらヒーローショーの舞台上などがある。
だから、エレベーターで上がっていけば、次第に音が聞こえてくる筈だった。それなのに、音は全く持って聞こえない。
エレベーターが開くと、そこは異質な空間に染め上げられていた。
「――なっ」
「何が起きてる……?」
エレベーターの外――一歩、踏み出せばそこは異界になっていた。
はしゃぐ子供、談笑していた母親、ヒーローショーの途中、戦隊が登場してポーズをとったまま―――動きを止めていた。
時間が止まっているのかと想うほどに。
こんな領域に踏み出せば、彼らと同じ様になるのではないかと踏み出せないで居た。
「! おい、向こうに誰かいる!!」
「え……」
動く人影を見つけたオルガは指を指して声を上げた。
皆が不安を抱く中、動く影はこちらへと近寄り、彼らの目から明確な姿が明らかになってくる。
黒に染まったコートに白の装飾を施し、かつんかつんと音を立てる長靴。
幽玄に靡く黒まじりの白髪、そして、その顔を隠すモノクロの無機質な仮面。
エレベーターの――神月たちの手前で立ち止まった人物――体つきから女性と見た神月。
オルガ、イオン、神月、菜月は紗那たちの前に立ち、仮面の女を睨みつける。
そして、にらみ合いにより、静寂しきった時―――。
「―――私の『力』を感じて此処に来たのね」
「! つまり、あんたが此処を……」
ぬくもりも感じない冷たい声を宿した仮面の女は興味深げに呟いた。
その言葉に反応した神月は小さく身構える。
仮面の女は構わず、答えた。
「此処で少し『試した』だけ。……そうしたら、見事に『力』のある者が此処に来た」
「……此処の人間はどうなっている」
「時間をとめているの。でも、あくまで時間だけだからこの状態で斬れば、死ぬわ。
『力』のある者――より純度のある『心』の剣士―――『心剣士』 は貴方たち3人ね」
「っ」
紗那が身を乗り出そうとするが、神月はそれを阻んだ。
それを見た仮面の女は肩を竦ませて、せせら笑うように言った。
「他にもいるみたいだけど、必要なのは貴方たち3人でいいわ」
今度は丁寧に、オルガ、菜月、神月の3人を数えるように指で指す。
その言葉に選ばれた3人は心剣を抜き取った。
今、彼女は手ぶらだが瞬時に何か仕掛けるのではないかと言う、不安と疑念から。
「ふふ、剣を抜いたと言う事は私と戦うということでいいかしら?」
「ああ……だが」
「ふっ。恐れる必要は無いわ。時間の影響は受けないから。――そして、貴方たちの為に、特別な場所に誘ってあげる」
そう言って、彼女の背後から闇が立ち上り、どこかへ通ずる扉――闇の廻廊が出現した。
そして、彼女はゆっくりと後ろ足で闇の廻廊に消えて行った。
「ど、どうするの神月? まさか…」
「戦うしかないだろうよ。イオン、お前は此処に居て、待ってろ。――もしもの時は、直ぐに逃げるようにしろ、いいな」
虹色に移ろう日本刀を抜き取り、小さく振り向いた彼はイオンに頼みごとを告げる。
イオンは小さく頷き、
「……そうならないように、して下さいよ」
と、念入りにいい付ける。
すると、菜月が笑顔で笑い、イオンの頭をくしゃくしゃになでつける。
「ははっ、そうするぜ。じゃあ、行こうか」
「気をつけて行こう。――アーファ、そんな顔しないで。な?」
「うるさい! 余裕ぶっこくな」
やれやれと、気強い彼女に苦笑を浮かべたオルガは先に行った2人の後を追う。
皆が見届ける中、神月たちは異空となった屋上から仮面の女が作った闇の廻廊を通り抜けていった。
それと、同時に廻廊は閉ざされた。