Another chapter4 Sora&Terra side‐3
―――その頃、商店街では。
「ここが『レイディアントガーデン』か…」
「活気がありますね」
無事に『レイディアントガーデン』に辿り着いたテラ達は、鎧や乗り物を解除して商店街を歩いていた。
そうしてクウとレイアが興味ありげに辺りを見回している中、テラは眉を潜めている。
それに気付いたのか、隣にいた無轟が声をかけた。
「テラ、どうした?」
「いや…――十年前に来た時よりも、光が薄れている気がするんだ…」
「そうなのか?」
その言葉に、クウは聞き返してあちこち見回す。
そんなクウの隣では、レイアは不安そうにテラを見た。
「まさか、本当に闇が現れたんでしょうか…?」
「まだ分からない。とにかく、調べてみよう」
「それはいいが、どうやって調べるか――」
と、急に無轟の言葉が止まる。
テラとレイアが見ると、無轟は目を丸くしてある方向を見ている。
そこには、いつの間にか少し離れた場所で二人の女性に話し掛けるクウがいた。
「そこのレディ達、お暇でしたら俺とかるーく食事でもしませんか?」
「えっ? ねえ、どうする?」
「やめなさいよ。私達、忙しいので」
クウの誘いに一人が乗り気になるが、もう一人は警戒してその場を離れようとする。
この様子にも関わらず、クウは軽く苦笑を浮かべて声をかけた。
「まあまあ、そう警戒するなって」
「警戒してません!」
投げかけられた声に、女性はキッとクウを睨みつける。
当たり前と言えば当たり前の行動に、クウは頭を押えつつ何処か強気の笑みを浮かべた。
「…じゃあ、どうすれば信じてくれるんだ?」
その言葉に、女性も少しだけ警戒を解いて顔に手に当てて考え出した。
「そうねぇ……何もせずに、食事を全部奢ってくれるなら、信じてもいいけど?」
「いいでしょう。それぐらい、お安い御用です」
「本当でしょうね?」
「俺は美人の約束は守る主義ですから。…信じられません?」
スッと身を屈めて整った顔立ちを二人に見せつける。
これには今まで否定していた女性も頬を赤くして顔を逸らした。
「そ…そこまで言うなら、信じてもいいわ…!」
「じゃあ、そこの喫茶店でもがぁああああああああああああああっ!!?」
言葉の途中で、クウは大きな炎に飲み込まれた。
女性達が思わず離れていると、クウは全身が真っ黒になってその場に倒れる。
その後ろから、レイアが杖を握って笑顔で近づいていた。
「すみませーん。この人が迷惑掛けましたー」
「は、はぁ…」
「行きましょうか…」
何処か棒読みで話すレイアに恐れを感じたのか、二人はそそくさとその場を離れる。
それを見送ると、レイアは燃えカスとなって倒れているクウに怒鳴りつけた。
「クウさん!! いつもいつも何考えているんですか!!」
この二人のやり取りに、テラは顔を引く付かせてレイアに聞いた。
「い…いつも、こうなのか…?」
「クウさん、これでも重度のナンパ症なんです。…キチンとしてれば、かっこいいのに…」
最後の部分は聞こえないように小声で呟くが、テラは聞いていなかった。
彼が子供の頃はかなり冷めていた部分があった。それが、大人になってからは180度性格が変わっているのだ。驚くなと言うのが無理な話だ。
そうして驚くテラを他所に、クウは肩を押えながら立ち上がった。
「うぐっ…いいだろ、別に…」
あれだけすごい攻撃なのにダメージはそんなに無いのを見ると、ある程度レイアが手加減したのだろう。それか、彼がタフなのかだ。
あちこち服を叩いて汚れを払うクウに、無轟は腕を組んで溜め息を吐いた。
「お前も変わったな…――それとも、変わらざる終えない『何か』でもあったのか?」
「…オッサンには関係ねえだろ?」
そう言いながら、クウは背を向ける。
だが、一瞬見えた彼の黒き瞳には悲しみとも苦しみとも言える感情が混じっていた。
無轟は問い質すのを止め、未だに固まっているテラを正気に戻そうと肩を揺さ振った。
「おい、また巨大ハートレスが現れたらしいぞ」
「最近になって、また増えだしたよな…――何時になったらハートレスはいなくなるのやら…」
その時、二人の男性が会話しながら四人を通り過ぎる。
同時にようやく正気に戻ったのかテラが首を傾げて無轟を見た。
「ハートレス?」
「人の心を奪う、闇から生まれた魔物だ。確かに闇の影響はあるようだな」
「おや? お主は…」
無轟がテラの問いに答えていると、後ろから声を掛けられた。
振り返ると、そこには青い服を着た魔法使いのお爺さんが立っている。
この人物に、テラは驚きの表情を浮かべた。
「あなたは、マーリン!?」
「ほほっ、懐かしいのう……ふむ、過去から連れてこられたのか?」
「分かるんですか!?」
「何せ、わしの趣味は時間旅行でな。それぐらい分からんと魔法使いなどやっておれんわい」
マーリンは笑いながらそんな事を言うと、顎鬚を撫でで考えるように顔を上げた。
「それにしても、これで二人目じゃ。お主と同じ時間帯の過去から来た懐かしい顔触れに会うのは」
「俺と同じ…?」
マーリンの言葉に、テラだけでなくクウ達三人も耳を傾ける。
すると、マーリンは一つ頷いて続きを話した。
「うむ。確か、ソラ達と一緒にいたんじゃが…――ヴェンと言ってたな」
「ソラ? 誰だ、そいつ?」
クウが訝しげに聞いていると、テラの目が見開かれた。
「ヴェン!? それは本当ですか!?」
「まあ、家越しに聞いたから何とも言えんが…――気になるから追いかけてみるか? あっちに見える城の研究室に向かった筈じゃ」
「分かりましたっ!!」
それだけ言うと、テラは慌てたように城に向かって走り出す。
いきなり走り出すものだから、三人は反応が遅れてしまった。
「あっ、テラさん!! 一人じゃ危険です!!」
「くそっ、早く追いかけるぞ!!」
どんどんと離れていくテラに追いつこうと、クウ達もその場から走り去った。
ソラ達は曲がりくねった廊下を抜け、城の通路口に出る。
そうして階段を登ると、彼らの頭上から大きな何かが幾つも降って来た。
思わず四人が足を止めると、次々と落ちて来た五つのパーツ部分が合体していく。
「あれはっ!?」
ソラが驚きの表情を浮かべている間に、手や足のパーツ全てが胴体に組み合わさる。
そうして地響きを起こしながら着地すると、空から頭が落ちてきた。
さまざまなパーツで構成された巨大ハートレス―――ガードアーマーにヴェンはゴクリと唾を飲み込んだ。
「でかいな…」
「来るぞ!!」
レオンの声に、ソラ、ヴェン、ユフィはそれぞれに武器を構える。
それと同時にガードアーマーが手と足を振り回して襲い掛かって来た。
しかし、その攻撃を四人はバラバラになって避けた。
「遅いっての! それっと!」
「てりゃ!!」
すぐさまユフィが巨大な手裏剣を取り出して胴体に投げつけると、ソラもキーブレードを握って近くの右足を斬りつける。
手裏剣は胴体にぶつかりつつ、弧を描いて左手も巻き込んで斬りつけた。
「はぁっ!」
その間にレオンが飛び上がって急降下し、勢いよく左足にガンブレードをぶつけると同時に衝撃波に巻き込んだ。
レオンのこの攻撃に怯むも、ガードアーマーは唯一攻撃されていない右手を握りこむ。
「まだまだぁ!!」
だが、その攻撃はヴェンの一撃によって阻まれた。
右手を上に弾いて攻撃すると、さらに上空に飛ばして思いっきり地面に叩きつけた。
『エアリルスラム』を使って着地するヴェンに、ソラは笑顔で声をかけた。
「さっすがヴェン!!」
「よーし、あたしも負けてらんないね!!」
ヴェンの攻撃を見て、ユフィはさらにガッツを起こす。
今度は小さな手裏剣を幾つも投げつけると、レオンがガンブレードを下ろしてソラを見た。
「ソラ、俺達は――」
「魔法で援護、だろっ!?」
そう叫ぶなり、ソラはキーブレードに魔力を溜めて剣先をガードアーマーに向けた。
「凍れ!!」
「はあっ!!」
ソラが『ブリザガ』を発動させると同時に、レオンも手に魔力を集中させて『ファイガ』を繰り出した。
大きな冷気の弾と火球は動き回る両手にぶつかった瞬間、まるで掻き消されるように消滅した。
「魔法が効かない!?」
予想しなかった事態に、ソラだけでなくレオンも目を見開く。
その間にも、ガードアーマーは足を動かしてユフィを踏み付けようとした。
ユフィはすぐに避けるか、着地した際に発生した衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「きゃあ!!」
「ユフィ!?」
吹き飛ばされたユフィに、ヴェンが動きを止めてしまった。
これを見て、ガードアーマーが上空に飛び上がった。
見覚えのある攻撃のモーションに、ソラが慌てて声を上げた。
「ヴェン、上!!」
「うわぁ!?」
時は遅く、ヴェンの頭上からガードアーマーがバラバラになって落ちてきた。
辺りに砂埃が舞うと、その中から再びガードアーマーが合体する。
その足元では、五つのパーツに巻き込まれて大ダメージを受けたのかヴェンが苦しそうに倒れている。
この様子に、ソラはキーブレードを握り締めてガードアーマーを睨みつけた。
「こいつっ!!」
「ソラ、待て!!」
レオンが静止をかけるが、ソラは聞く耳を持たずガードアーマーに走り込む。
だが、突然手と胴体を回転させるとそのままソラに突進して来た。
「ぐぅ!?」
今までに無い攻撃に、ソラは防御出来ずにヴェンの傍に吹き飛ばされる。
そこを狙い、ガードアーマーは再び上空に飛び上がった。
レオンが駆け出すが、間に合わない――
「――ヴェンっ!!!」
突然の第三者の声と共に、巨大な球体が上空にいるガードアーマーにぶつかる。
すると、辺り一帯に巨大な爆発を起こし、ガードアーマーは地面に落下した。
攻撃のした方に四人が目を向けると、そこにはキーブレードで作られた巨大な砲台を持った一人の青年がいた。
「テラっ!?」
思わぬ登場に、ヴェンは驚きの表情を浮かべる。
その間にも、『アルテマキャノン』を使ったテラはキーブレードを元の剣の形に戻すとヴェンに近づいた。
「ヴェン、無事かっ!?」
「なんとか…っ!」
そう言ってヴェンは立ち上がろうとするが、さっきのダメージで足がふらついてまた地面に倒れる。
そんな中、レオンはテラを見て訝しげに首を傾げていた。
「あいつ…どこかで…?」
その時、ガチャリと組み合わさる音が響く。
見ると、ガードアーマーの左手と右足は無くなっているが、まだ戦う気があるのか右手を握りこんでいる。
テラがキーブレードを構えていると、上から影が差した。
「邪魔、すんなぁ!!」
その叫びと共に、胴体に黒い人影が蹴りを放った。
重力も合わせた上空からの蹴りに、ガードアーマーは再び崩れるようにバラバラになる。
『エアリル・アーツ』を放ったクウは間合いを取るように後ろにジャンプすると、空中で一回転してテラの傍に着地して睨み付けた。
「ったく、一人で突っ走るなよ!!」
「すまない」
二人がそんな会話をしていると、後ろからレイアと無轟が追いついてきた。
レイアは足を止めると、膝に手を置いて荒れた呼吸を落ち着かせる。
「はぁ、はぁ……クウさん! 置いて行かないでください!」
「ああ、悪い。それよりレイア、回復頼む」
「はいっ!」
クウの言葉に返事すると、レイアはすぐに負傷しているソラとロクサスの元に駆け寄る。
それを見送ると、クウは一歩踏み出して拳を握ってガードアーマーを睨みつける。
この様子に、テラは思わず首を傾げて口を開いた。
「クウ、キーブレードは使わないのか?」
そんなテラの言葉に、クウは顔を俯かせて小さく言った。
「……使えねえんだ。俺には、もう」
「え?」
「――そのうち教える」
目線を逸らしながら言うと、クウは片足を引く。
テラもこれからの戦いに集中するように、キーブレードを握り締めてガードアーマーを睨み付けた。
■作者メッセージ
夢さんと比べると、何とまあ少ないのだろか。後二回ぐらいでこの話は終わりですよ?
まあ、そこを考慮してアクア編も出す事にしたんですけどね。それが終わったら少しは執筆の量が多くなる…はず。
ここで一つお知らせを。リラさんの作品『賑やか過ぎる日常』で断章に登場するシャオの番外編がございます。興味のある方はどうぞ。
まあ、そこを考慮してアクア編も出す事にしたんですけどね。それが終わったら少しは執筆の量が多くなる…はず。
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