Another chapter5 Aqua side‐3
四人が身構えると同時に、男は剣を振り回すように攻撃してくる。
それをバラバラになるようにして避けると、男は最初にゼロボロスに狙いを定めて剣を振った。
「おらぁ!!」
「甘いっ!」
ゼロボロスが即座に『式』で強化した白と黒の炎を纏った腕をクロスさせ、受け止める。
この二人の押し合いの状況に、アクアはすぐに男に向かって走りこむ。
そんなアクアを見て、何と男は押し合いをした状態で魔法を放った。
「『ファイガ』!!」
すると、アクアの足元に炎が集まる。
これを見て、アクアは足を止めてキーブレードに冷気を集めた。
「『アイスバラージュ』!!」
周りに冷気が漂い、炎の集まる所に氷結が出来る。
そうして炎を打ち消すと、氷結はさらに大きくなって男を襲った。
「ぐっ…!!」
「連撃、行くよ!!」
男が怯んだのを合図に、ゼロボロスが足に力を込めて腕と同じように炎を灯すと大きく足を振り上げた。
「『双月斬脚・零』!!」
真空波を伴った連続蹴りを男に次々と繰り出すゼロボロス。
この攻撃を男は必死で歯を食い縛ってどうにか絶える。
だが、それで攻撃は終わらなかった。
「はぁっ!!」
「喰らえっ!!」
ゼロボロスが攻撃を終えたのを合図にウィドは『空衝撃』を出し、ルキルも『ダークブレイク』を放つ。
横と上からの攻撃に、男はニヤリと笑って剣を振り上げた。
「『朧晶夜』っ!!」
すると、男の足元からに闇のオーラが一気に噴き上げる。
上空にいたルキルは闇にオーラに巻き込まれて大きく吹き飛ばされてしまう。
しかも、ウィドの放った『空衝撃』も闇のオーラに当たった途端、まるで跳ね返るように返ってきた。
「がっ!?」
「くっ…!!」
ルキルは地面に叩きつけられ、ウィドはどうにか攻撃を回避する。
すぐにアクアがルキルの回復に向かうと、ゼロボロスは男を殴ろうと腕を振り被る。
しかし、振り下ろした拳を闇のオーラに当てた瞬間に反動が腕に返ってくる。
ゼロボロスは顔を歪ませて手を振り、すぐに男との間合いを取った。
「攻撃を跳ね返す技か……これじゃ、迂闊に攻撃出来ないね…」
「――方法は、あります」
その時、ルキルを回復させたアクアが呟く。
三人が注目すると、アクアは真剣な目をして口を開いた。
「ただし、私の攻撃ではアレを打ち破るので精一杯です。だから――」
「分かった。後は僕達で何とかする」
言葉の先を理解し、ゼロボロスが頷きながら言う。
それから二人を見ると、同じようにして頷く。
アクアは三人を信じ、キーブレードを構えて男に駆け込んだ。
「何をするか知らないが、無駄だ――」
「『マジックアワー』!!」
男が何かを言うと同時に、アクアはその場から消えて頭上から光を纏ってキーブレードを叩きつける。
すると、男に纏っていたオーラにピシリと罅が入る。
この光景に男が目を見開く。だが、アクアの攻撃は止まらない。
もう一度光と共に頭上からキーブレードを叩きつけると、硝子が割れるようにして闇のオーラが消えた。
「なにっ…!?」
男が驚いていると、気を溜めて待機していたゼロボロスが近づいた。
「はあっ!!」
男の間合いに入り、掌底に溜めた魔力を思いっきり放つ。
『迫撃零掌』で吹き飛ばされる男に、ウィドとルキルが素早く近づいた。
「ルキル、行きますよっ!!」
「ああっ!!」
互いに声を掛けると、二人は交差するかのように男を斬りつける。
さらに、斬りつけた際に足を止めると、二人は突きの構えを作った。
「この攻撃っ!!」
「見切れまいっ!!」
そして、二人は男の両側から迅速とも言える連続突きを放つ。
攻撃を終えるとバックステップで距離を取り、剣に風を纏わせ大きく振り被った。
「「『迅雨裂双破』っ!!!」」
そうして、二人は互いに大きな風の衝撃波を繰り出す。
その威力に、男の居た場所が吹き飛んで積もっていた雪と共に砂埃が舞った。
「やった…?」
アクアが不安げに呟く中、ゼロボロスが目を細める。
そこには、蹲っている男を守るように立っている人物が居た。
ウィドとルキルも再び剣を構えていると、その人は小さく呟いた。
「――危ない所だったな」
よく見ると、腰まであるストレートの長い茶髪に青の目に黒の眼鏡を掛けた青年だ。
服装は青いコートに黒のズボンに、腕や足などに黒いベルトを幾つも巻いている。
この青年が手に持つ武器に、アクアが目を見開いた。
「キーブレード!?」
青年の手には、所々が陽炎のように曲がった灰色のキーブレードが握られている。
アクアだけでなく新たな敵に他の人も驚いていると、助けられた男は何故か青年を睨み付けた。
「てめぇ…!!」
「フェン、そこまでにしておけ。さすがに四人を相手には辛いだろ?」
フェンと呼ばれた男は、黙り込むと拳を積もった雪に叩きつけた。
「くっそ…!! 俺だってキーブレードに選ばれれば…!!」
「そんな精神では、一生持てないな…――そう思わないか、キーブレード使いの少女?」
そう言って、青年はアクアに笑い掛ける。
まるで優しく子供に笑いかけるような青年の言葉に、アクアは警戒を緩めずに睨み付けた。
「…あなたの意見には賛成します。ですが、あなたも敵と言う事には変わりありません」
「そうだな…」
フッと笑い、若干顔を俯かせる。
それから顔を上げると、たまたま目の前にいたウィドと視線が合う。
何かに気付くように息を呑むと、青年は震えながら呟いた。
「お前…――まさか、あの人の“弟”なのか…?」
「あの人…?」
ゼロボロスが首を傾げていると、ウィドの目が大きく見開かれた。
「あなた……姉さんを知っているんですか…!?」
「「え?」」
突然の言葉に、思わずアクアとゼロボロスがウィドを見る。
すると、ウィドは青年に問い掛けるように叫んだ。
「教えてください!! 姉さんは何処にいるんですか!?」
このウィドの問いに、青年は何処か寂しそうに視線を逸らした。
「さあな……最後に会ったのは、遠い昔だ」
「それでも構いません!! 姉さんの事を一つでも――!!」
ウィドは必死で問い質すが、青年は背を向ける。
それと同時に、手を掲げて『闇の回廊』を開いた。
この光景に四人が驚く中、青年は背を向けながら言った。
「話す事は何も無い。行くぞ、フェン」
「待てぇ!!!」
ウィドはすぐに鞘に収めた柄を握り、青年に駆け込む。
そのまま間合いに入り、青年を斬り裂こうと剣を引き抜く。
だが、青年は最小限の動きでそれを避けると、手に持っているキーブレードでウィドの鳩尾を殴った。
「がはぁ…!?」
「先生!?」
カウンターを決められ、ウィドは大きく吹き飛ばされて雪の中に埋もれる。
すぐさまルキルが駆け寄ると、青年は顔を逸らしたままウィドに言った。
「――君の姉の事は残念だが教えられない。代わりに、俺の事を教えておこう」
そう言うと、四人に顔を向けた。
「俺の名はセヴィル。闇の住人であり…――キーブレードマスターへの道を捨てた者だ」
それだけ言うと、青年―――セヴィルは『闇の回廊』にフェンと共に入っていく。
その間、アクアは何もせずに険しい表情で闇が完全に消えるまで見送った。
「キーブレード、マスター…」
この言葉に、アクアは厳しい表情で顔を俯かせる。
キーブレードマスターは、キーブレードを使いこなし、この光の世界を守る者に送られる称号だ。
その道を捨てたと言う彼は、一体何者なのだろうか…?
「アクア!! 早くこの人の治療を!!」
考えに耽っていると、ゼロボロスが声を掛ける。
アクアは我に返ってウィドを見ると、未だにルキルとゼロボロスの傍で倒れている。
その状態で辛そうに呻いているのが耳に届き、すぐに回復する為に駆け寄った。