第一章 心剣士編第四話「訪問者」
神無の家。
家に駆け込んできたイオンたちを向かいいれ、ショックから倒れた紗那を寝室で寝かしつける。
そして、リビングで紗那以外の全員がソファーなどに腰をかけたり、壁にもたれたまま、神無はイオンの話を説明した。
「……仮面の女ね」
重々しい空気の中、口火を切った神無。
自分の息子、その友人、そして、その恋人まで傷つけた仮面の女に激しい怒りを燈すが、まるで状況をつかめていない事に代わりが無い。
歳の所為だろうか、燃え盛る怒りと同時に冷え切った冷静さが抑止するようになった。
「とりあえず、イオン。ありがとう」
「いえ……逃げる事しかできませんでした」
落ち込んでいるイオンに神無は責めずに肩をたたいて、気をしっかりとさせる。
「それでも、仲間を守った事に変わりは無いさ――気を落とすな。……さて、これからどうしたもんだか」
今回のショッピングモールにやってきていた仮面の女はこの世界にいる強い心剣士に興味を抱いていた。
そして、自分は此処にいることをアピールするために屋上の空間と時間を停止し、やって来るのを待つ。
しかし、何故だろう。選定をし、自らのものにして彼女は何をするのだろう。
問題は此処からだ。仮面の女は何処かへと去った。
「……」
「――諦めるのは速いですよ、神無さん」
「!」
声と共に一同が外の庭のほうへ向くと、外に黒い外套を纏った白髪の少女と灰色のコートを着た銀髪の男性、白衣の黒髪の女性が立っていた。
声の主たる少女の顔を覚えている神無は窓の鍵を開け、家へと招き入れた。
だが、残り二人に関してはイオンたちが更に驚いた様子で呼び止めた。
「王羅さん、何故……何故ソイツと!?」
「というか……アンタなんで生きてるの―――ローレライッ!!」
イオンは少女――王羅に問いかけ、アーファは銀髪の男性――ローレライを鋭く指差した。
ローレライ。
かつて、彼の仲間と共に『革命団(レヴォルシオン)』として複数の世界を無理矢理一つにし、昏迷を招いた男。
だが、彼はオルガとの対決で敗北し、その後死亡とオルガが話していることをアーファ達は知っていた。
「待って、皆」
王羅がローレライを両手を広げて庇った。
「今の彼はもう君たちの知っている敵、ローレライじゃないよ」
その顔は真剣そのもので、嘘をついている様ではなかった。
「信用できない。そこに居て、アンタもよ」
アーファはローレライと黒髪の女性に鋭く言い放つ、王羅がなだめようとすると、ローレライは彼女の方に手を置いて、首を振った。
「解りました、此処で結構ですよ」
「……王羅。何か知っているのか、仮面の女を」
一先ず、落ち着いたところを見計らって神無が王羅を招きいれ、神無は話を戻す。
彼女が自分たちに話した諦めるには速いという意味を。
「ええ。彼女の目的の一つ、『心剣士の洗脳』……」
「強い心剣士を狙っている、か。どうしてかは解るか?」
「いえ、それは僕にも。唯、彼女は稀少な反剣士と永遠剣士より多くの心剣士を集めるつもりでしょうね……。
かく言う僕も彼女に数度ほど襲撃を受けました」
「良く無事に此処まで逃げ果せたわね」
「途中、ローレライさんたちと一緒に共同戦線し、心剣士を狙っている事を知り、それで神月さんたちを思い出して此処まで駆けつけました」
「貴方が……」
イオンたちの疑惑の視線を受けるローレライは何も反論せずに黙る。
「ええ、彼とヴァイロンさんのお陰で窮地を何度も救われました。――問題は僕をまだ彼女が狙っていると言う事です」
「それもそうだな……じゃあ、まさか」
その意味は王羅が囮となって再び仮面の女を誘き出すと言う作戦であった。
「はい。神月さんたちを助けるには彼女をもう一度此処におびき出さなければならない。
その時が、絶好のチャンスです―――神無さん、皆さん。覚悟はありますか、彼女と戦う覚悟を、何より操られた神月さんたちと戦う覚悟を」
『!!』
その言葉の意味、重圧が神無たちにのしかかり、王羅のまなざしは鋭く彼らを見据えている。
「……」
答えに躊躇するイオンたち。神無は沈黙で返そうとした、その時だ。
「―――私は、戦える」
「! 紗那!?」
部屋に入って来た紗那が疲れきった表情で強く答えた。
駆け寄ったペルセフォネが彼女を支えに方を回す。そして、心配そうな顔で声をかけた。
「まだ休んでいないと……それに、神月たちと……自分の愛している人と戦うのよ?」
紗那は深く険しい顔でペルセフォネの介護を振り解いて強く一歩を踏み出して言い放つ。
「皆は、どうして迷うの? 苦しい気持ちはわかる、でも――自分の仲間があんな酷い目にあってるんだよ。本当に一番悔しいのは神月たちよ!!
私は……戦える。もし、今までの絆で躊躇うくらいなら……私は一人だけでも―――戦ってみせる!!!!! 王羅、私は仮面の女も、神月たちとも戦えるわ!!」
「紗那さん。その覚悟、しかと受け取りました……!」
深く頭を下げ、御礼を言う王羅。それを見た神無一家は苦笑の微笑みを浮かべあった。
「ったく、此処まで言われちゃあ父親も母親も黙っていられねえな。王羅、俺はこの歳でも戦えるぜ」
「私も現役ほどじゃないけど足手纏いにはならないようにするわ」
「アタシだって、お兄ちゃんの為に戦える……!」
「……イオン君たちはどうします?」
微笑みを向けながら問いかける彼女に、イオンたちも迷いを断ち切っている。
「僕も自分の責任を果たします。今度は僕たちで神月さんたちを助け出します」
「ええ、アイツの尻拭いくらい任せなさいよ」
「私も……戦う」
「―――話は決まったな」
ローレライは静かに呟き、ヴァイロンも微笑んだ。
王羅もうなずき返し、
「それじあ作戦会議をしましょう。――ローレライたちも入れてよろしいですんよね」
「……仕方ないね」
イオンたちは了承し、ローレライたちもリビングへと入る事ができた。
そして、王羅は作戦会議を始めたのであった。
仮面の女から神月たちを助け出す作戦を。