第三章 三剣士編第一話「出立/口論」
メルサータ、無轟宅の前にて。
集合地ビフロンスへ向かうメンバーと見送りするツヴァイたちがいた(起き上がれない面々には出立前に挨拶を済ませている)。既に黒龍として姿を変えているゼロボロスが鎮座し、額の上にはシンメイと凛那が座っている。
「――じゃあ、いって来る。無理とかするなよ、神月」
「……ああ」
神無は無理を強行しやすい息子に釘を刺し、神月は息子として素直に父親の言葉を了解した。
ゼツたちもゼロボロスの背に乗り、彼は飛翔した。
「……」
ヴァイロンは静かに彼を見つめている。誰もあえて彼女に声をかけない。ゼロボロスは小さく鎌首をむけ、笑う。
『何、また合流できるさ』
「うるさい、さっさと行け」
『やれやれ』
相変らず、自分には厳しい言葉で送り出す彼女の態度に嘆息したゼロボロスは上空へと飛んでいった。ツヴァイたちは遠くなるまで見送り、家に戻っていった。
それと同時に、銀色のノーバディ型の梟がゼロボロスの後を追いかけ、姿を消した。
タルタロス。ニュクスの塔の前。
アダムが具現化させ、無害に施した闇の回廊を用意していた。
「――それでは、皆さん、参りましょう」
「はい」
出立するメンバーの一人、皐月が頷く。他に、アビス、カナリア、チェル、シンク、ヘカテーが向かう。
見送りするのはチェルの妻であり、シンクの母ウィシャスと仲間の一人、悪魔アガレス、そして、フェイトが居た。
「いってらっしゃい、あなた、シンク、ヘカテーちゃん」
「ああ」
「いってきます」
「はい」
若々しい屈託の無い笑顔を浮かべる妻にチェルは平淡に言い、シンクは笑顔で返し、ヘカテーは物静かに頷いた。
フェイトはカナリアに優しく声をかける。
「迷惑をかけないようにね」
「うるせえ、そこまで喧嘩っ早くねえよ」
「アビス……」
「私は大丈夫。自分から選んだもの」
アビスはビフロンス出立メンバーに自ら名乗り出た。ジェミニの傍にいたいが、いるだけでは意味が無い事は理解している。
この数千年の間、それを幾度も味わってきた。己から行動を起こさなければ、世界はゆり動かない。皐月の心配する様子を吹き飛ばすように毅然と言い切った。
「では、参りましょう」
先頭をアダムが闇の回廊に入り、続いて皐月、アビス、カナリア、チェル、ヘカテー、シンクの順に入っていき、シンクが完全に姿を闇に鎮めると共に回廊は閉ざされた。
見送ったウィシャスとアガレスはチェルたちの無事を思いながら、フェイトと別れの一礼を済ましてかえって行く。フェイトは一人、情報の集っているニュクスの塔へと足を向けた。
(三剣、か)
この世界にもその情報の末端があればいいと思いながら、彼はニュクスの塔へと入っていった。
心剣世界。
心剣のように半透明、結晶のようなものでつくられた木々が生い茂る。その森の囲うように中央の部分は木々も生えず、たった一つの建物があるだけで、そこには十数人の男女が居た。
ある人物――仮面の女から狙われている為に、この異空間に集い、潜伏している―――神の血族―――『半神』たちだった。
そんな彼らは自分たちの故郷が、仮面の女カルマと逆賊アバタールによって、奪われるハメになったことから直ぐにでも行動を起こしたいとするが、その感情を抑え、時期を伺うべきと言う半神もいる。今、その口論がまた起きていた。
「―――いつまで、待たせるつもりだ! アルカナ……」
紅蓮のように赤い髪と青色の双眸、ほどよく焼けた肌、引き締まった体に白色の衣装に赤色の模様を走らせた服を着た女性が、男女の判別ができない中性的な容姿をした黒髪白服の男――アルカナが迫られていた。
迫っている彼女の名前はブレイズ。半神の中でも高い能力を持って生まれた『四属半神』と称される一人で、炎を司る。
だが、彼はいつもどおり、平常心のままに彼女を宥め説く。
「ブレイズ、我々で挑める敵ではないのだ。ディザイア、アーシャが見た仮面の女の実力はお前の『考えている』以上の事なのだ」
「……」
この場に居ない半神は、ベルフェゴル、ラムリテ、シュテン、ティオン、アルガだ。アイネアスとサイキはビフロンスでゼツたち待っている。
現状、多くの半神が敵となっている。無闇な行動は仮面の女に捕らえられ、ベルフェゴルたちのように従属されるであろう。
「それに、仮面の女は我々以外にも人間たちにも魔の手を広げている。その被害を受けた者達も立ち上がりつつあるんだ」
「……人間、だと……?」
発せられた言葉『人間』に、今すぐレプセキアへと向かうべき、戦うべきと意見を上げていた半神たちが一斉に鋭い視線でアルカナを見た。
彼らは神の血族『半神』としての誇りを持っている。それが時として人間たちを『見下している』のであった(当然、人間を同等視する半神もいるが数は少ない)。
そして、人間を見下す彼らは心のそこで思った。
『何故、人間のために待たなければならない?』
「―――ふざけるな、お前はそのために我々を此処に隠蔽し、時期を伺っていたと言うのか!!?」
「……当初は半神たちを集わせ、時期を伺った。だが、人間たちも同じく立ち上がり始めた。故に、共に戦えば戦力に」
「――信じろ、と?」
言葉を遮ったのはブレイズとは別の女性。
艶の在る茶色に靡く髪、聡明さを秘めた真剣な眼差しをした黄色の瞳に、肌の露出が少ない白服に橙色の模様が刻んでいる。
「っ……アレスティア」
ブレイズは先ほどの音声を落とす。アレスティアもまた『四属半神』のまとめ役、大地を司る女性だ。
穏やかさ・冷静に含んだ『鋭さ』のある眼差しに、彼は平淡に返した。
「お前達が疑ることは知っている。だから、此処に一部だけつれてくるように頼んだのだ」
「……ふむ」
アレスティアは眼鏡のブリッジを一押し、興味深げに言った。勿論、その反応は他の半神たちもいた。
が、アルカナたち即断実行を反対していた半神たちも不安げに彼を見据えている。集った不安の眼差しに彼は小さく振り返り、頷きで落ち着かせた。
「―――では、その人間たちはいつ来る」
薄紫の大槍を軽々と担いでいる褐色の肌、灰色の軽装と黒衣を着たの青年が問いただした。
名はアルビノーレ。秩序を司り、混沌を司るディザイアとは対極、相対する存在の半神。
「連絡では今日だ」
「そうか」
答えを聞いた彼は静かに納得し、大槍を下ろし、一言。
「―――実力を見定める」
「そのために一部だけ、と言った」
アルビノーレの言葉に、アルカナは動揺せずに言った。既にゼツ、アダムたちに『強い者たち』を連れて来いと頼んでいる。
アルビノーレを含めた半神たちを納得させるには戦わせて、屈服―――いや、理解してもらわなければならなかった。
「…そのためか」
ブレイズやアレスティアたちは目の色を変えた。まず『戦う相手』の切先が変わったことを理解した。
「だから待って欲しい。そして、戦って理解して欲しい、『ヒト』の強さを。―――ああ……後、戦って判断したい奴だけでいい」
アルカナも過去にゼツたちと戦った事がある。あの頃、自分もブレイズたち同様に人間を見下していた。だが、今は違う。
ゼツたちと言う信頼における者達と出会えた事を心から喜び、こうして、協力してくれる彼らにはすまないと思っていた。
だからこそ、今がその時なのだ。半神の心にある見下す心を無くす方法(チャンス)は、今しかない。
■作者メッセージ
私も特別編みたいなのを考えていましたが、それは後にします。もしかすると、「最初から無かった」となるかも…w
予定としては三剣士編に断章を間に埋め込もうと思います。
予定としては三剣士編に断章を間に埋め込もうと思います。