第三章 三剣士編第三話「会合」
ビフロンスを囲い、繋ぐ城郭の中心に聳える城、その城の中よりさらに天高く聳える塔の頂。
庭園のような場所『天庭』で、偽ゼロボロスは着陸した。ゼツたちが地に降り立ったと同時に偽ゼロボロスは黒炎を散らして消えた。
高所ゆえの寒さの風に身震いを堪えながらゼツは既に居た二人の半神に駆け寄った。
「アイネアス、サイキ! 今来た……」
「ああ。待っていたよ」
「お疲れ様、ゼツ」
二人の半神――アイネアスとサイキはにこやかに言い、席を立ち上がる。ゼツがつれて来た仲間――神無たちに挨拶するべく歩み寄った。
まず、二人がそれぞれ頭を軽く下げて、挨拶し、続けて神無たちがそれぞれの礼儀で挨拶した。
「ここでは寒いですし、下で話を続けましょうか」
そう言うと、彼の傍らから空間が捻じ曲がり、一人の白コートを着た女性が片膝をつけて、姿を現した。
驚く神無たちに笑顔のまま、アイネアスは続ける。
「彼女はベルミス。大丈夫、我々の部下ですから―――では、頼むよ」
「はい」
生真面目そうな声ではっきりと返した彼女は広大に出現した陣を展開。その上に居る彼らを下――城のアイネアスの応接室へと転移させた。
応接室に転移された一同、その中、アイネアスが先んじてデスクの椅子に腰掛ける。続いてサイキがその傍らで立つ。
「――さて、まずは自己紹介でもしましょうか。私はアイネアス。
『半神』の一人、彼女はサイキ。私の妻であり、同じく半神です」
「どうも、皆さん」
言葉と共に、穏やかな笑顔で一礼するサイキ。ベルミス、ゼツもアイネアスのほうへ移動する。
その後、神無たちも彼らに挨拶を済ませ、遅れてくるであろうゼロボロスたちの事もつげた。
そして、一通りの情報を交換し、その最中彼らに暖かいミルク入りコーヒーを配っていた。
「仮面の女……カルマ、ですか」
知らされた情報に、アイネアスは剣呑とした表情で呟いた。
サイキを含めた、半神の二人は辛い表情を浮かべている。無為に怒りに燃やす時でもなく、悲しむ時でもない。
解っていることなれど、と二人は歯痒い表情のまま顔を伏せる。その様子を察して、
「――あ、アルカナたちは『向こう』か?」
「……ええ。先ほど、連絡したんでもうすぐ来るでしょう」
ゼツの話題の切り替えに、顔を上げて礼の含んだ微笑を返したアイネアスは答える。
「で、ゼツ。アダムって奴はまだ来ていないのか?」
「黒羽には返事が無いんだな、これが」
神無の確認に、ゼツはアダムの黒羽をちらつかせて言った。
通信機能があるとはいえ、『闇の回廊』などで世界と世界を移動する間は通信が取れないのがネック、とアダムに言われていたのを彼は説明付けた。
「―――ん」
アイネアスはふと声を洩らし、サイキと目を合わせた。
真剣な表情で彼女も頷き返し、ゼツに言った。
「どうやら、アダムたちが来たようだ」
「みたいだな」
同じくして黒羽が反応を見せ、耳元に当てたゼツ。
『――遅れてすまない、今、到着したよ』
聞こえた声は間違いなくアダムだった。ゼツは口元を笑みで作って、
「ああ。城に皆居る。直ぐにでも」
『勿論』
そう、返して通信は終わった。
アダムたちはゼツが住まう城下町の入り口あたりに到着し、道中からシェルリアたちも同行し、城へと向かった。
城の入り口で、空間転移を行えるベルミスと待ち合わせし、彼女の転移でアイネアスの客室からかつてラグナロクのメンバーで使用していた会議室の大広間に移動した。
縦長に伸びた白い机、各人分に用意された白い椅子に既に神無たち、アイネアスたちが座っていた。
転移されたアダムが前に出て、座っている彼らに挨拶の一礼をした。
「――はじめまして、私はアダム。……ある程度はゼツから聞かれていると思うが、こちらからも仮面の女に対抗出来るものたちを連れてきた」
「全員じゃないがな」
チェルが隣から一言付け加えた。
彼らが数人で来たのも、ビフロンスでひとまず集合をして、次に半神たちが匿われている「心剣世界」へ赴き、反対する半神たちと勝負をして協力を仰ぐためだった。
「とにかく、こうしてめぐりあえた事を喜ばしく思うよ」
アイネアスが微笑みを浮かべながら、席を立つ。
「……遅れたか?」
ベルミスの空間転移が起動し、会議室の入り口に姿を現した中性的な容姿をした黒衣の男性――アルカナがやって来た。
その左右に、黒い布で素顔を隠した少女――アーシャ、ダーク系の色をしたコートを着た気風の若い男性――ディザイアも同伴している。
「―――では、皆さん。座って、あらかたの情報を纏めましょう」
そう言って、各人は座って、必要な情報の交換を行った。
自己紹介もさることながら、仮面の女の事、操られた仲間や心剣士、反剣士、永遠剣士など―――あらゆる情報を交えた。
「で、カルマはなんで初期のタルタロスに来たんだ? 情報を集める為か?」
「……データでは『流れ着いた』そうだ。ハートレス狩りも協力を必死に仰いだ結果だそうだ」
「つーことは、アイツ……昔は「こんな事」をしなかったわけか」
「心に潜む内側の蠢いた何かが暴れたんでしょうよ」
「何かって?」
「何か、よ」
「―――ふぅ、疲れた」
一通りの文字通り『会議』を終えた神無は疲れた顔を浮かべて、机に突っ伏す。
その様子に苦笑いと労いの声でかけるアイネアスは言った。
「ふふ、お疲れ様です。……ですが、こうして皆さんのお陰で情報を知りえました。仮面の女―――カルマ一派の尾を掴んだのですから」
「掴んだ、か」
「何か?」
終始、腕を組んで静かにしていたチェルが口火を切った。表情を強張らせ怪訝に尋ねる。
「掴んだ処でアイツがそれをそのままにするだろうか」
「……」
「そこはどう応えるか困りますね」
答えに言葉を詰まらせているアイネアスに、アダムが助け舟を出した。
彼は椅子に座らず(しかし、ゼツの直ぐ傍で)自身の翼から抜き取った黒羽を弄りながらも、会議に静聴していた。
「レプセキアにはいつでも『進攻』を行う事はできる。だが、第一島以外の4つの島で連結した結界もある。戦力が不足している今、攻める事はできない」
冷静な声で、強面の表情を変えずに告げたアルカナはチェルに返した。
その隣の椅子には不安げな顔色をしたアーシャが付け加えるように手をあげて、発言する。
「しかも、操られている人たちも大勢居るし……ね?」
「―――その為に、半神たちと協力を仰ぐんだろ」
神無はさばさばとした口調で断じた。
「早速、いこうぜ。半神たちによ。あってから、戦うって聞いたが?」
「そうだ。覚悟を持って挑んで欲しい。―――では、行くとしようか」
アルカナの言葉と共に一向は外へと出た。城の外まで出た彼らは残るものと向かうものへと別れた。
出立するメンバーは神無、凛那、王羅、チェル、カナリア、シンク、ヘカテー、アビス、皐月、アルカナ、アーシャ、ディザイアたち、
残るメンバーはゼツたち、そして、アイネアスとサイキだった。
出発する前に、神無はアイネアスとサイキに、『遅れて仲間がやって来る、俺たちが乗ってきた黒龍と同じ姿をした奴と着物を着た少女』――ゼロボロスとシンメイの来訪を教えて、向かっていった。