第三章 三剣士編第五話「蒼炎の女神」
「おいおい、まだ舐めているのか?」
神無とブレイズは何千年との差が在る。戦いの経験も、知識も、全て、彼女が上だろう。
だが、彼はその差に驕らず全力で挑んでいる。
「なに……!?」
体勢を変えて、地に降り立つ。相手を睨んだ。
「そりゃあ、てめえが強いのは理解しているさ。だがな、てめえは俺を、人間を舐めている」
「それがどうした…?」
「それじゃあ、ご自慢の強さも腐るわ」
「!?」
「俺ぁ昔、邪神って呼ばれるバケモノと戦った事が在る。お前みたいに人間を野の草、道端の石ころみてえに馬鹿にして、見下してた。だが、ソイツは俺に屈した。負けた。―――ま、最後は危うく道連れされかけたが……まあ、いい。
俺はいつだって相手に真面目に全霊で挑む。……相手が人間でも、龍でも、邪神でも!! お前ら、半神でも!! ……お前みたいに『人間だから加減してやる』って見下した態度はクソ喰らえだ!! ありがた迷惑ってやつかね?
でも、それで追い込まれて『本気を出す』じゃあ説得力もクソもねえし……」
「っ!!!!」
神無の怒声による言葉、ブレイズの中で何かが切れた。込み上げる憤怒が、その身を包み始める。
「―――っぁあだああああまああああれえええええええええええええええええええええ!!!!」
自分と言う存在の玉座が彼によって粉々、今、眼前の彼と対等に下ろされた。
許さない。此処まで馬鹿にされ、平等と言う言葉に虫唾を感じたのは初めてだ。
ブレイズの燃え盛るような怒りが蒼炎となって、包み込んだ。神無は、相手の逆鱗を垣間見て、静かに構える。
女神の怒りは、荒れ狂う炎を纏った拳と共に繰り出された。
「!!」
帰還を待つ半神たちが一斉に感じ取った気配を理解し、驚愕に満ちた表情で互いに見合った。
特に、同じ四属半神の一人、常におびえた表情をした少女――イリシアが人一倍慌てだす。
「ぶ、ブレイズが!! 嘘、嘘!!?」
負けた、などの不測の事態ではない。彼女が『本気』になった事への混乱だった。
慌てだす彼女をセイグリットがしっかりと両肩を掴んで、落ち着かせる。
「落ち着きな、ほら」
ついでの拳骨で我に戻させ、我に返ったイリシアが先ほどより落ち着いているが、その目は動揺の色を消しきっていない。
怪訝になったシンクは彼女らに尋ねた。
「ブレイズ、さんがどうしたんですか?」
「……最悪。神無って奴は死んだなって事よ」
深く強張らせた表情で、セイグリットは言い切った。
その言葉に絶句するシンクたちだった。アルカナも直ぐに駆け出して、止めに向かうべきか考えていた。
ブレイズは純粋な戦闘能力では半神の中で、トップクラスだ。そして、彼女の『本気』――蒼炎を身にまとい、巨大な火の女神として顕現した姿『蒼炎の女神』―――を止めれる可能性は低い。
「――っ」
何を迷う。
アルカナは自身を叱咤し、森の奥へ、蒼炎の元へと駆け出そうとした時、
「っ!?」
突如、駆け出そうとしたアルカナの傍を通り抜け、走り去っていく茜に靡く髪色をした着物を纏った女性の姿を見る。
驚く中、その女性が見覚えの在る人―――明王凛那である事を気付き、呼び止める前に彼女は森の奥へと消えていった。
「――どうする、アルカナ」
呆然とする彼に声をかけた屈強で大柄の物静かな男の声で振り返った。
「ビラコチャ……お前はどう思う、助けに行くべきか」
声をかけた男――ビラコチャは腕を硬く組み、少し思考をめぐらせるため、口元を指で隠す。
ビラコチャは特殊な半神だった。『天地人』、それは人に様々な文明の補助を促す事が使命とするものだった。
時に武器を、時に戦を、時に医学を、時に農耕を―――その点ではかなり人寄りの半神だった。
「……一度定めた戦い、勝手に変えるのはどうかと思うがな」
「だが」
「まだ、ブレイズは納得していない」
遠くに見える蒼炎の光を見据えながら、ビラコチャは彼ら人間を信じた。
ブレイズの激昂の少し前、一方の皐月とシムルグでは―――。
風を操るシムルグに吹き飛ばされ、共々、到着した場所は距離をあけろと命令したブレイズとかなりの距離をとっていた。
風の束縛から解放され、無防備に落下せずに彼は受け身をとって、シムルグを見据えた。
「ああ、ごめんね。妹の火力は結構、凄いからね」
吹き飛ばした張本人、女子学生を想起する学生服のシャツに濃い緑のスカートを着た女性、シムルグは気にすらしていないような声で言った。
皐月は怒りより呆れがこみ上がったが、相手が相手と思って、永遠剣を抜き取り、臨戦態勢ながらもその言葉を返した。
「妹?」
「ブレイズの事よ。あたしたち四属半神は双子みたいに『同時』に生まれた存在だからさ。順序では次女があたし」
そういいながら、シムルグの周囲に漂う風。
彼女の戦法は自身の周囲に風を漂わせ、それを強烈な切れ味のある鎌鼬として放つ。
彼女自身は決して至近せず戦う。
「……僕が勝てば、協力してくれるんですよね?」
「ええ。あたしが納得すればね」
「是が非でも、させていただきます」
右に永遠剣『斬裂王ガヴェイン』を、左に力の具象、砲身を装着した彼は砲口を彼女に向ける。
シムルグは少し眉を上げ、彼の武装に興味を抱いた。
彼女は悠長に構えず、小さな動作で大きな攻撃を転じる。
「そう……じゃ、はじめましょ」
右手を小さく上げる。
「『嵐刹刃雨(らんせつじんう)』
周囲の風が、大小無数の鎌鼬となって一斉に斬りかかる。
引き金を引くように、皐月の咆哮が唸る。
「『ヴァニティ・ノヴァ』!!」
砲口に収束した蒼白い光が、膨大な熱量のあるレーザーとなって迫ってきた鎌鼬をぶち抜き、シムルグへと迫った。
「やるじゃない」
しかし、表情は崩さず、上げた手で指を弾く。
迫ったレーザーが縦一文字に放たれた巨大な鎌鼬で、一撃の元に斬り捨てられた。
さらに、指を弾く。新たな巨大な真空刃が皐月へと襲う。
「くっ―――『ヴァニティ・カノン』!!」
皐月は怯まず、臆せず、砲口を真空刃へと向けて、水晶の塊が射出される。
しかし、水晶の塊は真一文字に両断され、彼は砲撃から剣撃へ転じようとリーチのある砲身で身代わりとして盾にした。
永遠剣に引けを取らない硬度のある砲身は両断されず、斬撃の名残が刻まれた。
「あら」
自慢の真空刃で斬れなかった事に少々、驚きの声を、表情と共に上げた。
構わず、皐月は砲身を脱ぎ捨て、背より純白に染まった双翼で飛翔した。
「はぁっ!!」
「『それ』で飛ぶのね」
「風で斬られようと、此処で引き返すには行かない!!」
「―――やれやれだわ」
シムルグは迫る皐月から逃れるようにさらに空へと移動する。皐月も追いすがるように羽ばたいた。
そして、彼女は両指先に集わせた風の刃を鋭く伸ばす。合計10本の刀のように圧縮された空気の刃で、迫る皐月に斬りかかる。
「!」
「剣の腕なら貴方には劣るわ。でーも」
振り下ろした10本の空気刃が巨大、長大に伸びた。
「『剣』なら、勝てるわね」
「!」
圧倒的広範囲の斬撃、皐月は瞬間的に次なる行動を取った。
「ガヴェイン!!」
突き出した黒く染まった幅広の刀身を持つ永遠剣【斬裂王】ガヴェイン。その真ん中に埋め込まれた真紅の宝玉が呼応するかのように光る。
刀身は形を崩れ、広大に広がった巨大な渦となす。
「っ!」
これ以上、空気刃を振り下ろし続ければ、『諸共、抉り取られる』錯覚を抱き、両手を下げた。
空気刃は渦に食われ、消え去る。皐月は今一度、崩れた刀身を元の幅広の刀身を持つガヴェインに戻した。
「……厄介ね」
「永遠剣の能力は伊達じゃないんで」
永遠剣の能力、それは原始的な衝動『捕食』。
永遠剣士を飛躍的に進化させる『捕食』は強力な力を食えば食うほど強くなる(当然、伴われるのは永遠剣士の資質)。
皐月はその捕食能力をいかした攻撃で、シムルグの空気刃を無効化することに成功した。
「そうなると、遠距離攻撃は殆どだめになったわねえ」
「降参、してくれますか?」
「……」
シムルグは遠くに見える蒼炎の蔭りを見て、表情を小さく強張らせた。
(まさか、ブレイズの奴……舐めてかかった所為かしらね……ここで、降参して向かおうかしら)
大爆発にも似た蒼い爆炎の中、神無は魔剣バハムートを解放する力『神威開眼』を行使し、『魔神剣』バハムートへと変えていた。
巨大な拳の一撃を、その無骨な大剣を平で防ぎ、吹き飛ばされる。
「―――っ」
身を転じ、今度は拳を振り下ろしてきた。
「っおっらああああああああ!!」
バハムートを大きく振りかぶり、黒く染まった闇より出現した女神の拳並の黒龍が牙を向けて、振り下ろされた拳と衝突した。
だが、女神はそのまま黒龍、神無諸共叩き潰す。
「ちっ!!」
小細工なんて無用、純粋な力で押し通す。
神無は迫り来る蒼炎の拳を、防ぐべくバハムートを振り下ろした。同時に、黒龍が具現し、一斉に拳に喰らいつく。
だが、構わず蒼炎の女神の一撃は押し通された。
「――っうおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
迫る蒼炎の拳、神無は剣を構える。
ブレイズはそんな足掻きを、蒼炎の拳で殴りこんだ。
彼が蒼炎の一撃に呑まれる刹那、
「――神無」
凛然とした女性の声が眼前より居た。
蒼炎の渦の中、彼女の後姿を捉えた。彼女は蒼炎の拳を、茜色の炎を纏った斬撃でとめたのだ。
「なにッ!!?」
驚くブレイズは拳を引っ込め、割り込んできた女を睨み吸えた。
茜に靡く髪、同じ色で炯々と燃える瞳、赤い模様を刻んだ黒く染まった着物を纏い、その手には自身を具象した茜色の刀身を持つ流麗の刀を持っている。
そんな彼女―――明王凛那は振り返らず、彼に言った。
「手伝おうか」
「いや」
神無はそう言って、駆け出した。
「俺が、倒す!」
「ほざけえ!!」
蒼炎の女神の指先から数百の蒼い炎弾が弾幕として放った。だが、神無はバハムートを大きく横に振り、一薙ぎするように黒龍が躍り出て、弾幕を食い破った。
だが、黒龍一体では弾幕は消されず、彼はその身を黒い翼で幾重に覆って、防ぐ。
「馬鹿め!」
ブレイズは弾幕での攻撃と共に、巨大な拳を再び繰り出した。
「――ふん」
凛那はその様子を鼻で笑った。
弾幕を浴び、拳が神無に届く寸前で、球体が動いた。高速に動いた拳は空を切り、
「くっ!!」
球体を懐に許す。
「おらぁ!」
包んでいた翼を広げ、その全てが刃先となる。
「まだだ!」
神無はバハムートを天へ掲げる。
突如、その刀身が砕け散った。ガラスの様に、輝きを帯びた黒い欠片、刃先が放たれる。
「―――『黒龍屠殺陣』―――」
神無の言葉と共に、弾雨は一斉に、黒龍となって蒼炎の女神へと挑みかかった。
「!!?」
ブレイズはそのままガードを強める。黒龍の津波を耐え抜く姿勢を取った。
神無はにやりと笑った。その意図を測りかねたブレイズはすぐに理解した。
「まさか!」
「刮目しろ、てめえが負ける瞬間をなあ!!」
黒龍の津波は一斉に黒い塊に変異、4つの黒龍の首を具現化し、女神の四肢を噛み付く。
「っがぁああ――――!!!?」
ついに、バランスを取れなくなった蒼炎の女神は押し倒れる。
その瞬間、黒龍は霧散し、同時に蒼炎の女神も青色の火の粉となって散った。
神無とブレイズは何千年との差が在る。戦いの経験も、知識も、全て、彼女が上だろう。
だが、彼はその差に驕らず全力で挑んでいる。
「なに……!?」
体勢を変えて、地に降り立つ。相手を睨んだ。
「そりゃあ、てめえが強いのは理解しているさ。だがな、てめえは俺を、人間を舐めている」
「それがどうした…?」
「それじゃあ、ご自慢の強さも腐るわ」
「!?」
「俺ぁ昔、邪神って呼ばれるバケモノと戦った事が在る。お前みたいに人間を野の草、道端の石ころみてえに馬鹿にして、見下してた。だが、ソイツは俺に屈した。負けた。―――ま、最後は危うく道連れされかけたが……まあ、いい。
俺はいつだって相手に真面目に全霊で挑む。……相手が人間でも、龍でも、邪神でも!! お前ら、半神でも!! ……お前みたいに『人間だから加減してやる』って見下した態度はクソ喰らえだ!! ありがた迷惑ってやつかね?
でも、それで追い込まれて『本気を出す』じゃあ説得力もクソもねえし……」
「っ!!!!」
神無の怒声による言葉、ブレイズの中で何かが切れた。込み上げる憤怒が、その身を包み始める。
「―――っぁあだああああまああああれえええええええええええええええええええええ!!!!」
自分と言う存在の玉座が彼によって粉々、今、眼前の彼と対等に下ろされた。
許さない。此処まで馬鹿にされ、平等と言う言葉に虫唾を感じたのは初めてだ。
ブレイズの燃え盛るような怒りが蒼炎となって、包み込んだ。神無は、相手の逆鱗を垣間見て、静かに構える。
女神の怒りは、荒れ狂う炎を纏った拳と共に繰り出された。
「!!」
帰還を待つ半神たちが一斉に感じ取った気配を理解し、驚愕に満ちた表情で互いに見合った。
特に、同じ四属半神の一人、常におびえた表情をした少女――イリシアが人一倍慌てだす。
「ぶ、ブレイズが!! 嘘、嘘!!?」
負けた、などの不測の事態ではない。彼女が『本気』になった事への混乱だった。
慌てだす彼女をセイグリットがしっかりと両肩を掴んで、落ち着かせる。
「落ち着きな、ほら」
ついでの拳骨で我に戻させ、我に返ったイリシアが先ほどより落ち着いているが、その目は動揺の色を消しきっていない。
怪訝になったシンクは彼女らに尋ねた。
「ブレイズ、さんがどうしたんですか?」
「……最悪。神無って奴は死んだなって事よ」
深く強張らせた表情で、セイグリットは言い切った。
その言葉に絶句するシンクたちだった。アルカナも直ぐに駆け出して、止めに向かうべきか考えていた。
ブレイズは純粋な戦闘能力では半神の中で、トップクラスだ。そして、彼女の『本気』――蒼炎を身にまとい、巨大な火の女神として顕現した姿『蒼炎の女神』―――を止めれる可能性は低い。
「――っ」
何を迷う。
アルカナは自身を叱咤し、森の奥へ、蒼炎の元へと駆け出そうとした時、
「っ!?」
突如、駆け出そうとしたアルカナの傍を通り抜け、走り去っていく茜に靡く髪色をした着物を纏った女性の姿を見る。
驚く中、その女性が見覚えの在る人―――明王凛那である事を気付き、呼び止める前に彼女は森の奥へと消えていった。
「――どうする、アルカナ」
呆然とする彼に声をかけた屈強で大柄の物静かな男の声で振り返った。
「ビラコチャ……お前はどう思う、助けに行くべきか」
声をかけた男――ビラコチャは腕を硬く組み、少し思考をめぐらせるため、口元を指で隠す。
ビラコチャは特殊な半神だった。『天地人』、それは人に様々な文明の補助を促す事が使命とするものだった。
時に武器を、時に戦を、時に医学を、時に農耕を―――その点ではかなり人寄りの半神だった。
「……一度定めた戦い、勝手に変えるのはどうかと思うがな」
「だが」
「まだ、ブレイズは納得していない」
遠くに見える蒼炎の光を見据えながら、ビラコチャは彼ら人間を信じた。
ブレイズの激昂の少し前、一方の皐月とシムルグでは―――。
風を操るシムルグに吹き飛ばされ、共々、到着した場所は距離をあけろと命令したブレイズとかなりの距離をとっていた。
風の束縛から解放され、無防備に落下せずに彼は受け身をとって、シムルグを見据えた。
「ああ、ごめんね。妹の火力は結構、凄いからね」
吹き飛ばした張本人、女子学生を想起する学生服のシャツに濃い緑のスカートを着た女性、シムルグは気にすらしていないような声で言った。
皐月は怒りより呆れがこみ上がったが、相手が相手と思って、永遠剣を抜き取り、臨戦態勢ながらもその言葉を返した。
「妹?」
「ブレイズの事よ。あたしたち四属半神は双子みたいに『同時』に生まれた存在だからさ。順序では次女があたし」
そういいながら、シムルグの周囲に漂う風。
彼女の戦法は自身の周囲に風を漂わせ、それを強烈な切れ味のある鎌鼬として放つ。
彼女自身は決して至近せず戦う。
「……僕が勝てば、協力してくれるんですよね?」
「ええ。あたしが納得すればね」
「是が非でも、させていただきます」
右に永遠剣『斬裂王ガヴェイン』を、左に力の具象、砲身を装着した彼は砲口を彼女に向ける。
シムルグは少し眉を上げ、彼の武装に興味を抱いた。
彼女は悠長に構えず、小さな動作で大きな攻撃を転じる。
「そう……じゃ、はじめましょ」
右手を小さく上げる。
「『嵐刹刃雨(らんせつじんう)』
周囲の風が、大小無数の鎌鼬となって一斉に斬りかかる。
引き金を引くように、皐月の咆哮が唸る。
「『ヴァニティ・ノヴァ』!!」
砲口に収束した蒼白い光が、膨大な熱量のあるレーザーとなって迫ってきた鎌鼬をぶち抜き、シムルグへと迫った。
「やるじゃない」
しかし、表情は崩さず、上げた手で指を弾く。
迫ったレーザーが縦一文字に放たれた巨大な鎌鼬で、一撃の元に斬り捨てられた。
さらに、指を弾く。新たな巨大な真空刃が皐月へと襲う。
「くっ―――『ヴァニティ・カノン』!!」
皐月は怯まず、臆せず、砲口を真空刃へと向けて、水晶の塊が射出される。
しかし、水晶の塊は真一文字に両断され、彼は砲撃から剣撃へ転じようとリーチのある砲身で身代わりとして盾にした。
永遠剣に引けを取らない硬度のある砲身は両断されず、斬撃の名残が刻まれた。
「あら」
自慢の真空刃で斬れなかった事に少々、驚きの声を、表情と共に上げた。
構わず、皐月は砲身を脱ぎ捨て、背より純白に染まった双翼で飛翔した。
「はぁっ!!」
「『それ』で飛ぶのね」
「風で斬られようと、此処で引き返すには行かない!!」
「―――やれやれだわ」
シムルグは迫る皐月から逃れるようにさらに空へと移動する。皐月も追いすがるように羽ばたいた。
そして、彼女は両指先に集わせた風の刃を鋭く伸ばす。合計10本の刀のように圧縮された空気の刃で、迫る皐月に斬りかかる。
「!」
「剣の腕なら貴方には劣るわ。でーも」
振り下ろした10本の空気刃が巨大、長大に伸びた。
「『剣』なら、勝てるわね」
「!」
圧倒的広範囲の斬撃、皐月は瞬間的に次なる行動を取った。
「ガヴェイン!!」
突き出した黒く染まった幅広の刀身を持つ永遠剣【斬裂王】ガヴェイン。その真ん中に埋め込まれた真紅の宝玉が呼応するかのように光る。
刀身は形を崩れ、広大に広がった巨大な渦となす。
「っ!」
これ以上、空気刃を振り下ろし続ければ、『諸共、抉り取られる』錯覚を抱き、両手を下げた。
空気刃は渦に食われ、消え去る。皐月は今一度、崩れた刀身を元の幅広の刀身を持つガヴェインに戻した。
「……厄介ね」
「永遠剣の能力は伊達じゃないんで」
永遠剣の能力、それは原始的な衝動『捕食』。
永遠剣士を飛躍的に進化させる『捕食』は強力な力を食えば食うほど強くなる(当然、伴われるのは永遠剣士の資質)。
皐月はその捕食能力をいかした攻撃で、シムルグの空気刃を無効化することに成功した。
「そうなると、遠距離攻撃は殆どだめになったわねえ」
「降参、してくれますか?」
「……」
シムルグは遠くに見える蒼炎の蔭りを見て、表情を小さく強張らせた。
(まさか、ブレイズの奴……舐めてかかった所為かしらね……ここで、降参して向かおうかしら)
大爆発にも似た蒼い爆炎の中、神無は魔剣バハムートを解放する力『神威開眼』を行使し、『魔神剣』バハムートへと変えていた。
巨大な拳の一撃を、その無骨な大剣を平で防ぎ、吹き飛ばされる。
「―――っ」
身を転じ、今度は拳を振り下ろしてきた。
「っおっらああああああああ!!」
バハムートを大きく振りかぶり、黒く染まった闇より出現した女神の拳並の黒龍が牙を向けて、振り下ろされた拳と衝突した。
だが、女神はそのまま黒龍、神無諸共叩き潰す。
「ちっ!!」
小細工なんて無用、純粋な力で押し通す。
神無は迫り来る蒼炎の拳を、防ぐべくバハムートを振り下ろした。同時に、黒龍が具現し、一斉に拳に喰らいつく。
だが、構わず蒼炎の女神の一撃は押し通された。
「――っうおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
迫る蒼炎の拳、神無は剣を構える。
ブレイズはそんな足掻きを、蒼炎の拳で殴りこんだ。
彼が蒼炎の一撃に呑まれる刹那、
「――神無」
凛然とした女性の声が眼前より居た。
蒼炎の渦の中、彼女の後姿を捉えた。彼女は蒼炎の拳を、茜色の炎を纏った斬撃でとめたのだ。
「なにッ!!?」
驚くブレイズは拳を引っ込め、割り込んできた女を睨み吸えた。
茜に靡く髪、同じ色で炯々と燃える瞳、赤い模様を刻んだ黒く染まった着物を纏い、その手には自身を具象した茜色の刀身を持つ流麗の刀を持っている。
そんな彼女―――明王凛那は振り返らず、彼に言った。
「手伝おうか」
「いや」
神無はそう言って、駆け出した。
「俺が、倒す!」
「ほざけえ!!」
蒼炎の女神の指先から数百の蒼い炎弾が弾幕として放った。だが、神無はバハムートを大きく横に振り、一薙ぎするように黒龍が躍り出て、弾幕を食い破った。
だが、黒龍一体では弾幕は消されず、彼はその身を黒い翼で幾重に覆って、防ぐ。
「馬鹿め!」
ブレイズは弾幕での攻撃と共に、巨大な拳を再び繰り出した。
「――ふん」
凛那はその様子を鼻で笑った。
弾幕を浴び、拳が神無に届く寸前で、球体が動いた。高速に動いた拳は空を切り、
「くっ!!」
球体を懐に許す。
「おらぁ!」
包んでいた翼を広げ、その全てが刃先となる。
「まだだ!」
神無はバハムートを天へ掲げる。
突如、その刀身が砕け散った。ガラスの様に、輝きを帯びた黒い欠片、刃先が放たれる。
「―――『黒龍屠殺陣』―――」
神無の言葉と共に、弾雨は一斉に、黒龍となって蒼炎の女神へと挑みかかった。
「!!?」
ブレイズはそのままガードを強める。黒龍の津波を耐え抜く姿勢を取った。
神無はにやりと笑った。その意図を測りかねたブレイズはすぐに理解した。
「まさか!」
「刮目しろ、てめえが負ける瞬間をなあ!!」
黒龍の津波は一斉に黒い塊に変異、4つの黒龍の首を具現化し、女神の四肢を噛み付く。
「っがぁああ――――!!!?」
ついに、バランスを取れなくなった蒼炎の女神は押し倒れる。
その瞬間、黒龍は霧散し、同時に蒼炎の女神も青色の火の粉となって散った。