第三章 三剣士編第六話「秩序の騎士アルビノーレ」
「―――」
一撃、それで充分。
皐月との間合いを取り、シムルグは音声高く宣言した。
「皐月、今からあたしは有りっ丈の風の刃『嵐刹』を放つ。勿論、さっきの捕食能力の渦をぶった切るまでに高めた斬撃をね。
それに耐え切るか、それを乗り越え、一撃―――あたしを斬れば貴方の勝ちよ」
「負けは……死?」
「……殺さない程度に斬りつける瞬間に操作するわよ?」
自信に満ちた笑みを浮かべ、その言葉に嘘偽り無く答えるシムルグに、皐月はうなずいて了承した。
当然、皐月は此処が彼女を納得させるポイントにあると見た。
「解りました。でも、僕は耐え切る選択はしません」
愛剣ガヴェインを虚空へ散らし、黒い砲身を具現し、狙いをシムルグへ向ける。
力を砲身、砲弾に込める皐月と視認できる程に凝縮された風の刃をタイミングよく狙い済まし、放つのを待つシムルグ。
完全沈黙から数秒。シムルグの『嵐刹』、自身の全力の込めた黒い雷の砲弾『ヴァニティ・エンド』、同時に放ち、射出した。
両者の中間点で激突し、膨大な嵐を吹きすさぶ風の刃、あふれ出す紫電を引きつれ押し込む漆黒の球体、激突も束の間、風を突きぬけ、シムルグの視界一杯に黒い球体が迫った。
「くぅっ!!」
ダメージに備え、周囲の空気を自身の周囲一点に纏い、防御の構えを取った。
その刹那、膨大な黒い球体が破裂し、奔流となって荒れ狂う。
そして、奔流が消え去り、皐月は無言のまま、見据えた。
「―――」
見据えた先には風の衣で防御をしていたシムルグが片膝をついていた。
息は強く繰り返し、負ったダメージを堪えている。
「なかなかね」
口火を切った彼女はツインテールだった髪が乱れたになっている事に気付き、整えるのも面倒と思って、さらに乱す。
そして、指が弾く音と共に、彼女を包み込むように風が巻き、一瞬で消える。大きな違いはボロボロの格好が新調された元の服と乱れた緑の長髪が流麗に靡くように治っていた。
そうして、一言。
「共に戦いましょう」
「はい…」
ほっと胸を撫で下ろす皐月ははにかんだ微笑みで応えて、礼をした。
他のメンバーと違い、チェルとアルビノーレは生い茂る心剣が変化した水晶の森から戦闘を繰り広げ始めていた。
チェルは戦闘になれば、周囲の物の損傷など気に止めない。おそらくアルカナが立ち会っていれば激高する事間違いない。
その事を知りつつ、アルビノーレも「チェルの攻撃に乗って」、透き通った紫の円錐状の穂先が特徴の大槍による突きを放った。
「っ」
「はぁああ!!」
チェルが自信の愛銃―――金の装飾を施された銃『イザナギ』で、突きの軌道を反らした。
絶妙な加減で受け流すこの回避、少しでも狂えば命取りになる。彼はこの戦闘によるブランクを一気に晴らそうと考えていた。
タルタロスでの我ながらの不甲斐なさ。協力者の破面の少女カナリアに迷惑をかけてしまった。出立する前にも彼女に厳しく、言われた事を思い返した。
「―――あんたさ、守るものができたから弱くなったんだな」
「何」
ビフロンスへ出立する前、ともに行動するカナリアに呼び出され、一目のつかない路地裏で唐突に突きつけられた言葉に思わず詰まらせた彼にかまわず彼女は言い続ける。
表情には怒りも何も無い。不安げなチェルの内心と違い、カナリアは先の戦闘での態度をただ、咎めているだけなのだ。
今後のことをふまえて、中途半端な覚悟で戦いに赴ことをやめてほしい故に。
「猫から聞いたわよ。妻、息子、此処がアンタを弱くしたって」
「!!」
猫とは間違いなく、イヴだ。
彼女とは長年の仲間であり、時に姉のようなに、母のように「見透かされている」気がしていたが、事実だったようだ。
自分の束縛が増え、死を躊躇している。それがイヴの「チェルの観察結果」だった。
「そうかもな」
気がつけば此処に何年も住み、異界(ここ)へと迷い込んだ天馬で駆ける姫ウィシャスに恋心を抱き、抱かれ、
やがては息子シンクが生まれ、戦いからも自己防衛から大切な人・ものを守ることに変わった事に納得した。
イヴもある時期を境に変わらぬ若い女性のままだ。そして、こんな自分を何も言わずに見てきていた。
「弱くなった訳か」
「そういうんじゃないと思うけどね」
カナリアははっきりと返した。
「イヴは言っていたわよ。『彼は自分が負けたら、傷ついたら』って不安を抱いている。
一回、一人だけで命がけの戦いをしたらなおるって」
「そう、だな」
よく見透かされているなと思いつつ、苦笑を浮かべる。
ビフロンスへの同行、半神たちとの挑戦に応じたのも、それが本心だった。
「お前には迷惑をかけた、その事で自分の非力を痛感した」
「あたしの咆哮は最悪、鼓膜を壊しかねないしね」
自嘲げに彼の言葉を返し、
「あたしもちょっとは仲間と戦える「力」を考えないとって思った」
「仲間と戦える力、か」
「ええ。一人で戦う力も必要だけど、仲間と戦える力も必要だと気づかされた。一緒に頑張りましょ、チェル」
屈託の無い明るい笑顔を浮かべ、彼に手を差し出した。握手の合図だ。
チェルも同じく小さく笑みを返して、その手を握りしめた。力強く握手した二人は路地裏を後にしていった。
その様子も、当然、イヴは見つめていた。白い毛に包んだ、赤く光る瞳、細身で小さい体躯の猫のまま、笑みを作って「にゃー」と鳴いた。
槍を受け流し、間合いを取りつつ銃口を彼に向けたチェルは覚悟を込めた言葉を放つ。
「――――悪いがお前は俺の踏み台になてもらう」
「ふむ」
アルビノーレは聡明な武人であり、あえて挑発の言葉(に聞こえた覚悟の言葉)をどう返すか短く考えた。
彼はブレイズたちと違い、「戦って負けても、勝っても協力する」気だった。あくまで、彼が見たかったのは、「どの程度戦えるのか」だった。
しかし、加減するほどに余裕は無い。彼は銃、こちらは槍。リーチも違いすぎる。只、これが勝敗のいい訳にはしたくなかった。
(武器を選ぶのはおのおのの意思。効率以外にもあるからこそ、こうして在る)
自信が握りしめている大槍『曙光の導槍』を一払いし、呼吸を整える。
「なら、踏み越えてみろ」
にやりと作り笑いを浮かべ、攻撃を繰り出す。繰り出した一突きは燃え盛る紫の衝撃波となってチェルへと襲いかかる。
チェルの銃はただの銃ではない。特殊な鉱石と技術の結晶――魔法(魔力)を折り合わせ、更なる威力を高める。
「轟き、ぶち抜け、『レイン=クロウ=ブラスト』!!」
銃口より同じく光の塊がレーザーとなって衝撃波と激突、数秒の鬩ぎ合いからレーザーが上回った。
「!」
アルビノーレはすぐに穂先をレーザーに向けた。チェルは何をするつもりかと真剣に見据えた。
彼と衝突する瞬間、穂先が輝き、レーザーを吸収した。
「!?」
驚く彼に、くるりと大槍を回して持ち替えたアルビノーレは笑った。戦いに燃える男の笑みを。
「俺の権能は『秩序』。力を放射する事ができる。――かつて、ディザイアが『混沌』の力、他の力を自分に取り込む力への対抗として俺は生まれた。
そして、俺の力とは別の、この槍『曙光の導槍』はディザイアと同じく吸収する事ができる。そして、俺の「放射する力」で吸収した力を―――どうすると思う」
(吸収した力、力を放射する力―――まさか!!)
気づいた彼が動きに出ると同時に、大槍を掲げ、
「解き、放つ!!」
広範囲に改変された光の波濤(レイン=クロウ=ブラスト)がチェルの視界一面を覆い尽くした。
そして、彼らのいる森の方面に大爆発が起きた。
一撃、それで充分。
皐月との間合いを取り、シムルグは音声高く宣言した。
「皐月、今からあたしは有りっ丈の風の刃『嵐刹』を放つ。勿論、さっきの捕食能力の渦をぶった切るまでに高めた斬撃をね。
それに耐え切るか、それを乗り越え、一撃―――あたしを斬れば貴方の勝ちよ」
「負けは……死?」
「……殺さない程度に斬りつける瞬間に操作するわよ?」
自信に満ちた笑みを浮かべ、その言葉に嘘偽り無く答えるシムルグに、皐月はうなずいて了承した。
当然、皐月は此処が彼女を納得させるポイントにあると見た。
「解りました。でも、僕は耐え切る選択はしません」
愛剣ガヴェインを虚空へ散らし、黒い砲身を具現し、狙いをシムルグへ向ける。
力を砲身、砲弾に込める皐月と視認できる程に凝縮された風の刃をタイミングよく狙い済まし、放つのを待つシムルグ。
完全沈黙から数秒。シムルグの『嵐刹』、自身の全力の込めた黒い雷の砲弾『ヴァニティ・エンド』、同時に放ち、射出した。
両者の中間点で激突し、膨大な嵐を吹きすさぶ風の刃、あふれ出す紫電を引きつれ押し込む漆黒の球体、激突も束の間、風を突きぬけ、シムルグの視界一杯に黒い球体が迫った。
「くぅっ!!」
ダメージに備え、周囲の空気を自身の周囲一点に纏い、防御の構えを取った。
その刹那、膨大な黒い球体が破裂し、奔流となって荒れ狂う。
そして、奔流が消え去り、皐月は無言のまま、見据えた。
「―――」
見据えた先には風の衣で防御をしていたシムルグが片膝をついていた。
息は強く繰り返し、負ったダメージを堪えている。
「なかなかね」
口火を切った彼女はツインテールだった髪が乱れたになっている事に気付き、整えるのも面倒と思って、さらに乱す。
そして、指が弾く音と共に、彼女を包み込むように風が巻き、一瞬で消える。大きな違いはボロボロの格好が新調された元の服と乱れた緑の長髪が流麗に靡くように治っていた。
そうして、一言。
「共に戦いましょう」
「はい…」
ほっと胸を撫で下ろす皐月ははにかんだ微笑みで応えて、礼をした。
他のメンバーと違い、チェルとアルビノーレは生い茂る心剣が変化した水晶の森から戦闘を繰り広げ始めていた。
チェルは戦闘になれば、周囲の物の損傷など気に止めない。おそらくアルカナが立ち会っていれば激高する事間違いない。
その事を知りつつ、アルビノーレも「チェルの攻撃に乗って」、透き通った紫の円錐状の穂先が特徴の大槍による突きを放った。
「っ」
「はぁああ!!」
チェルが自信の愛銃―――金の装飾を施された銃『イザナギ』で、突きの軌道を反らした。
絶妙な加減で受け流すこの回避、少しでも狂えば命取りになる。彼はこの戦闘によるブランクを一気に晴らそうと考えていた。
タルタロスでの我ながらの不甲斐なさ。協力者の破面の少女カナリアに迷惑をかけてしまった。出立する前にも彼女に厳しく、言われた事を思い返した。
「―――あんたさ、守るものができたから弱くなったんだな」
「何」
ビフロンスへ出立する前、ともに行動するカナリアに呼び出され、一目のつかない路地裏で唐突に突きつけられた言葉に思わず詰まらせた彼にかまわず彼女は言い続ける。
表情には怒りも何も無い。不安げなチェルの内心と違い、カナリアは先の戦闘での態度をただ、咎めているだけなのだ。
今後のことをふまえて、中途半端な覚悟で戦いに赴ことをやめてほしい故に。
「猫から聞いたわよ。妻、息子、此処がアンタを弱くしたって」
「!!」
猫とは間違いなく、イヴだ。
彼女とは長年の仲間であり、時に姉のようなに、母のように「見透かされている」気がしていたが、事実だったようだ。
自分の束縛が増え、死を躊躇している。それがイヴの「チェルの観察結果」だった。
「そうかもな」
気がつけば此処に何年も住み、異界(ここ)へと迷い込んだ天馬で駆ける姫ウィシャスに恋心を抱き、抱かれ、
やがては息子シンクが生まれ、戦いからも自己防衛から大切な人・ものを守ることに変わった事に納得した。
イヴもある時期を境に変わらぬ若い女性のままだ。そして、こんな自分を何も言わずに見てきていた。
「弱くなった訳か」
「そういうんじゃないと思うけどね」
カナリアははっきりと返した。
「イヴは言っていたわよ。『彼は自分が負けたら、傷ついたら』って不安を抱いている。
一回、一人だけで命がけの戦いをしたらなおるって」
「そう、だな」
よく見透かされているなと思いつつ、苦笑を浮かべる。
ビフロンスへの同行、半神たちとの挑戦に応じたのも、それが本心だった。
「お前には迷惑をかけた、その事で自分の非力を痛感した」
「あたしの咆哮は最悪、鼓膜を壊しかねないしね」
自嘲げに彼の言葉を返し、
「あたしもちょっとは仲間と戦える「力」を考えないとって思った」
「仲間と戦える力、か」
「ええ。一人で戦う力も必要だけど、仲間と戦える力も必要だと気づかされた。一緒に頑張りましょ、チェル」
屈託の無い明るい笑顔を浮かべ、彼に手を差し出した。握手の合図だ。
チェルも同じく小さく笑みを返して、その手を握りしめた。力強く握手した二人は路地裏を後にしていった。
その様子も、当然、イヴは見つめていた。白い毛に包んだ、赤く光る瞳、細身で小さい体躯の猫のまま、笑みを作って「にゃー」と鳴いた。
槍を受け流し、間合いを取りつつ銃口を彼に向けたチェルは覚悟を込めた言葉を放つ。
「――――悪いがお前は俺の踏み台になてもらう」
「ふむ」
アルビノーレは聡明な武人であり、あえて挑発の言葉(に聞こえた覚悟の言葉)をどう返すか短く考えた。
彼はブレイズたちと違い、「戦って負けても、勝っても協力する」気だった。あくまで、彼が見たかったのは、「どの程度戦えるのか」だった。
しかし、加減するほどに余裕は無い。彼は銃、こちらは槍。リーチも違いすぎる。只、これが勝敗のいい訳にはしたくなかった。
(武器を選ぶのはおのおのの意思。効率以外にもあるからこそ、こうして在る)
自信が握りしめている大槍『曙光の導槍』を一払いし、呼吸を整える。
「なら、踏み越えてみろ」
にやりと作り笑いを浮かべ、攻撃を繰り出す。繰り出した一突きは燃え盛る紫の衝撃波となってチェルへと襲いかかる。
チェルの銃はただの銃ではない。特殊な鉱石と技術の結晶――魔法(魔力)を折り合わせ、更なる威力を高める。
「轟き、ぶち抜け、『レイン=クロウ=ブラスト』!!」
銃口より同じく光の塊がレーザーとなって衝撃波と激突、数秒の鬩ぎ合いからレーザーが上回った。
「!」
アルビノーレはすぐに穂先をレーザーに向けた。チェルは何をするつもりかと真剣に見据えた。
彼と衝突する瞬間、穂先が輝き、レーザーを吸収した。
「!?」
驚く彼に、くるりと大槍を回して持ち替えたアルビノーレは笑った。戦いに燃える男の笑みを。
「俺の権能は『秩序』。力を放射する事ができる。――かつて、ディザイアが『混沌』の力、他の力を自分に取り込む力への対抗として俺は生まれた。
そして、俺の力とは別の、この槍『曙光の導槍』はディザイアと同じく吸収する事ができる。そして、俺の「放射する力」で吸収した力を―――どうすると思う」
(吸収した力、力を放射する力―――まさか!!)
気づいた彼が動きに出ると同時に、大槍を掲げ、
「解き、放つ!!」
広範囲に改変された光の波濤(レイン=クロウ=ブラスト)がチェルの視界一面を覆い尽くした。
そして、彼らのいる森の方面に大爆発が起きた。
■作者メッセージ
遅れての更新、すみません。
課題、ゲーム(おい)色々です…
課題、ゲーム(おい)色々です…