Another chapter6 Sora&Aqua side‐1「鏡の再会」
無数の星の海を漂う、一つの大きな船(グミシップ)。
その船の中で世界を旅する彼らは、次の目的地に着くまでシップ内にある休憩室で束の間の休息を取っていた。
ソファやテーブルなど、ある程度物が揃っている部屋で五人はそれぞれ寛いで疲れを癒す。
そんな中、ヴェンと共にソファに座っているソラが壁に凭れているオパールを見た。
「なあ、思ったんだけど…」
「なに?」
「このグミシップの名前なんだけど…『シエラ』ってどう言う意味なんだ?」
そんなソラの質問に、オパールは困った表情で頬を掻く。
これには隣にいたヴェンだけでなく、向かい側に座っているカイリや、窓側の壁に凭れていたリクも興味を持ってオパールを見る。
四人の視線に耐えれなくなったのか、オパールは正直に白状した。
「シエラってのは、何て言うか…――昔、シドと同棲してた女性の名前なのよ」
「「ええええええええええええええええっ!!?」」
予想しなかった言葉に、ソラとヴェンは思わず驚きの声をあげる。
だが、カイリだけは目の色を変えて身を乗り出してオパールに詰め寄った。
「ねえ、オパール!! その話、ちょっと詳しく聞かせて!!」
「いいわよ! でね、昔はシドって――」
オパールまで乗り気になり、シドの過去を暴露し始める。
それをカイリが真剣な表情で聞くのを見て、リクはすぐさま目を逸らした。
「女の恋バナが始まったな…」
「あれ、結構長いんだよな…」
ソラもリクに言葉を返すと、二人同時に溜息を吐く。
それにヴェンがどう返していいか分からず、思わず視線を窓の外に向ける。
すると、目的地である一つのワールドを見て目を見開き、ソファから立ち上がって窓に駆け寄った。
「あれは…『オリンポスコロシアム』!?」
「知ってるのか?」
「ああ。前に来た事あるんだ……ヘラクレスやフィル、元気にしてるかな…?」
ソラに頷きながら、ヴェンはじっと目的地であるワールドを見る。
その間にも、着々と船はワールドへと向かっていた…。
さまざまな神々が集い、英雄を生み出してきた世界―――オリンポスコロシアム。
ワールドに着いた五人は、さっそく町でも一際大きな闘技場の入口へと降り立つ。
すると、ソラが真っ先に走り出して目の前の立派なコロシアムを見上げた。
「うっわー…もう闘技場が直ってる!!」
「直ってる?」
何処か嬉しそうに言うソラに、ヴェンが歩きながら近づいて首を傾げる。
他の三人も分からない表情を浮かべていると、ソラが頭の後ろで腕を組んで事情を話した。
「ああ。この前、ハデスの所為でここの闘技場が壊れてさー。あの時は凄かったなー」
「へー。悪い奴なんだな、そのハデスって奴!」
「もっちろん! そいつ、この世界で知り合ったクラウドって奴を騙したり、冥界で会ったアーロンを操ったりして――」
と、ソラがハデスのやった事を感情をこめて説明していると、不意にリクが顔を逸らす。
それに気付いたのか、オパールがそっと顔を覗き込むと視線を下に向けて唇を噛み締めていた。
まるで嫌な事を思い出したような表情に、思わず声をかけた。
「どうしたの? 顔色悪いわよ?」
「…何でもない。ほっといてくれ」
「あっそ!……何よ、人が心配してるってのに…」
そっけない言葉に、オパールはすぐに顔を逸らすも小さく本音を呟く。
そうこうしていると、闘技場の扉が開く音が響いた。
「困った、実に困った…」
見ると、下半身がヤギのような小さなオジサンが腕を組んで歩いてくる。
この人物に、ソラとヴェンは目を輝かせながら近づいた。
「「フィル!!」」
二人の声に、フィルと呼ばれた人物は顔を上げた。
「おお、ソラ! と、お前さんは…?」
「フィル! 俺だよ、ヴェン!!」
「ヴェン…? まさか、あのヴェンか!? おお、実に懐かしい!!」
ここでようやくヴェンを思い出したのか、フィルは嬉しそうに手を握って再会を喜ぶ。
そんな三人をカイリ達が離れた場所で見ていると、ソラが何かを思い出してフィルを見た。
「そうだ、フィル。何か困ってたみたいだけど?」
ソラの疑問に、ヴェンだけでなく残りの三人もフィルに注目する。
すると、フィルは再び困った表情を浮かべて二人に説明した。
「実はな、闘技場再建築記念と称した闘技大会を開きたいのだが……思ったよりエントリー人数が少なくて困っているのだ…」
「「だったら俺がっ!!」」
この言葉に、二人が目を輝かせながら即座に詰め寄る。
純粋な眼差しで詰め寄る二人に、思わずフィルが後ずさりする。
直後、二人の頭に固い何かが勢いよく落ちた。
「「いてぇ!?」」
突然の事に、二人は蹲りながら振り返る。
そこには、リクが両手で拳を作って呆れた目をしていた。
どうやら、後ろから二人の頭を拳骨で殴ったらしい。
「あのな。今は闘技大会に出てる場合か?」
「いいじゃんか、リク〜…」
「俺、前はエントリー出来なかったんだぜ〜…」
「あんた達ね…」
蹲りながら文句を言う二人に、オパールでさえも呆れの眼差しを浮かべる。
そんな中、フィルだけはリクを見ながら腕を組んでいた。
「ほう…」
そう呟くなり、何とリクに近づいてあちこち触りだした。
「な、何だよ…?」
「ふむ…お前さん、なかなか筋がいい。どうだ? 闘技大会に出てみないか?」
「えっ!?」
考えもしなかったこのお誘いに、思わずリクが驚く。
しかし、それ以上にソラとヴェンは反論に出た。
「えー!? 何でリクだけ!?」
「そうだって!! 俺も出たい!!」
「答えは二言! お前達より、こっちの方が、男前だ!!」
「「ぐうっ!?」」
ある意味で反論も返せない正論に、二人は妙な声を上げて四つん這いになって撃沈してしまう。
この様子に、オパールとカイリは何故か二人に対して可哀想な感情が湧きあがった。
「ダメージ受けてるわね…心に」
「まあ、確かにリクの方がかっこいいもんね…」
何とも言えない空気が四人を包む中、フィルは気にせずにリクに詰め寄った。
「で、どうだ? 闘技大会に出てみないか?」
「えっと、俺は…」
「うーむ……そこのお嬢さん、ワシと一緒に彼氏を説得してくれんか?」
「かれしぃ!!?」
そんな事を言われるので、オパールは思わず目を見開いて聞き返す。
すると、フィルは意外そうに首を傾げた。
「何だ? お嬢ちゃん、こいつとは恋人同士では無いのか?」
「なっ…何をどうしたらそう見えるのよぉぉぉぉ!!!??」
「オパール、落ち着いて…っ!!」
顔を真っ赤にしながら殴りかかろうとするオパールを、カイリが後ろから押さえつける。
この攻防戦に恐れをなしたのかフィルが後ずさりしていると、リクが口を開いた。
「――本当に、出てもいいのか?」
リクの呟きに、カイリだけでなくオパールでさえも動きを止めて注目した。
「もちろんだ!! エントリーの準備が出来たら、ワシに声をかけてくれ。ロビーにいるからな」
すぐにフィルは嬉しそうに説明すると、闘技場の中へと戻っていく。
だが、階段を上った所で急に振り返った。
「ソラ達も来い。エントリーの代わりに、お前達には特別な手伝いをさせてやる」
それだけ言うと、フィルは扉を開けて闘技場へと戻っていった。
最後の言葉に、カイリは不安そうにオパールに聞き返した。
「何だろ、特別な手伝いって…?」
「まっ、行ってみましょ。……その前に、こいつらを宥めないとね」
そう言ってオパールが振り返ると、未だにダメージから回復しないソラとヴェンがいた。
しかたなく宥めるのが得意そうなカイリに二人を任せると、オパールはリクを見る。
何処か嬉しそうなリクに、オパールは思わず疑問をぶつけた。
「それにしても、随分と乗り気じゃない?」
「ちょっと、試したくなってな」
「試す?」
「ああ…自分の力がどれだけあるのか、それがどこまで通用するのか。それを知りたくなってさ」
胸を押さえ、何処か穏やかな笑みを浮かべて闘技場を見上げる。
何処か真剣な眼差しを浮かべるリクに、オパールに思わず笑みが零れた。
「ふふっ…」
「何だ?」
「ううん。アンタって、頭が固くて冷たい奴って思ってたけど…――意外と熱い部分もあるんだなって」
オパールが楽しそうに言うと、リクは居心地が悪そうに顔を逸らす。
この意外な一面に、オパールは笑いながらリクの肩を叩いた。
「とりあえず、応援はするから頑張って戦って来なさいよ。怪我したら、あたしが治してあげるから」
「…ああ」
オパールの声援に、リクも嬉しそうに返事を返す。
それからリクは一人、フィルの待つ闘技場へと向かう。
だが、急に足を止めるとオパールに振り返った。
「さっきは、悪かったな…あんな態度とって」
さっきの事を謝ると、闘技場の中へと入っていく。
開けた扉が完全に閉じるのを見て、オパールはすぐに顔を逸らした。
「な、何よ…今更遅すぎるのよ…!」
と口で言いつつも、何故か顔を赤くしている。
そんな時、カイリがソラとヴェンを引き連れて近づいてきた。
「オパール、お待たせ。どうにかソラとヴェンを…――どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
「な、何でもない!! は、早く行くわよっ!!」
オパールはそう叫ぶなり、急かす様にしてカイリを後ろから押して闘技場へと入る。
その後ろを、不思議そうにソラとヴェンが首を傾げるがすぐに後を追いかけた。
しかし、この時。これが照れ隠しの一種だとは本人も含めてまだ誰も気が付かなかった。
■作者メッセージ
と言う訳で、バトン交代に預かりましたNANAです。
ここからは前のサイトでは公開出来なかった話ですので、前々から読んでいた方は本当にお待たせいたしました。
今回はソラパートだけですが、ちゃんとアクア達も出てきますのでお楽しみを。
ここからは前のサイトでは公開出来なかった話ですので、前々から読んでいた方は本当にお待たせいたしました。
今回はソラパートだけですが、ちゃんとアクア達も出てきますのでお楽しみを。