Another chapter6 Sora&Aqua side‐4
時間は経ち、闘技場のロビー。
そこで準決勝を終えたリクは用意されたベンチに座っていた。
「ふぅ…」
今までの戦いの疲れと緊張を解していると、足音が聞こえた。
振り向くと、そこには売り物である飲み物を差し出すソラがいた。
「リク、いよいよ決勝戦だな!!」
「ああ」
ソラに頷きつつ、リクは飲み物を受け取る。
そうして口に付けて飲み込む。冷たくて少し甘めの味が喉を潤すだけでなく、火照った体を冷やして溜まった疲れを癒す。
空になったボトルをソラに返していると、ヴェンもやってきた。その隣にはフィルもいる。
「ワシも久々にスジのいい人材を見たぞ。どうだ? 大会が終わったらトレーニングをやってみらんか?」
「え、遠慮する…」
目を輝かせながら勧誘するフィルに、リクは目を逸らして断わりを入れる。
そうこうしていると、選手入場の合図が鳴った。リクが立ち上がるのを見て、ソラとヴェンが声をかけた。
「いよいよだな!!」
「俺、カイリ達と応援してるから!!」
「頼むぜ」
そんな二人の声援に笑みを浮かべて返すと、リクは決勝戦の舞台へと向かった。
その頃、反対側のロビーではハデスが満足そうに笑みを浮かべていた。
「これで準備は整ったな」
ふふんと笑いつつ、後ろを振り返る。
そこには先ほど声をかけた二人組が立っており、何処か疑わしい目を向けた。
「で、本当にあいつらを始末出来るんだろうな?」
このハデスの言葉に、女性はムッとした表情を浮かべる。
それに対し、男性は苦笑を返した。
「少しは信じろ。我だって、やられた借りは返したい」
「まあ、私は本来戦闘向きではないのですが…――それなりのサポートをさせて貰います」
「いいだろう。後は――」
「何を話しているんだ?」
三人が話していると、声をかけられる。
見ると、決勝の場に向かおうとしているルキルが訝しげに見つめていた。
「ハデス。誰だ、そいつらは?」
そんなルキルに、男性は一歩前に出て優雅にお辞儀をした。
「初めまして。私はクォーツ、彼女はリリスと言うよ」
「あ、ああ…俺は――」
「ルキル、でしょう? 君の事は知ってますよ――…リクと言う人物のレプリカでしょう?」
「なっ…!?」
予想もしなかった言葉に、ルキルは驚きを隠せずに目を見開く。
その間に、クォーツは掌に一枚の丸鏡を出現させる。
そうして自分自身に鏡を向けつつも、クォーツはルキルに語りかける。
「特別なノーバディが集い、心を求める『機関』に作られた人形。違いますか?」
「お前…何者だっ!?」
淡々と話すクォーツに、さすがのルキルも剣を取り出す。
そうして攻撃しようとした瞬間、目の前にハデスが現れて手を顔の前に差し出す。
すると、ハデスの手に闇が現れてルキルを包み込んだ。
「おーっと、暴れるのならもっと広い所で暴れないと。ここだと迷惑がかかるだろぉ?」
「ぐっ…!? ああっ…!?」
突然の事に抵抗も出来ず、ルキルの意識は闇の中へと沈んでいった…。
闘技場の中央にある、決勝戦となる広場。
普通よりも大きく、それぞれのブロックにいた観客も入る程の広さだ。
決勝戦を今か今かと待っている観客に交じり、ソラとヴェンもリクの登場を待っていた。
「あっ、ソラー!!」
そんな中、突然カイリの声が響く。
見ると、カイリが手を振って近づいていた。隣にはオパールもいる。
「カイリ、オパール!?」
「どうして二人も?」
驚くソラに、ヴェンも不思議そうに首を傾げる。
すると、カイリは不満そうに手を腰に当てた。
「当たり前でしょ? 最後はここで決勝戦行なうんだから」
「だから、別ブロックで売ってたあたし達もこっちに来たの」
そう二人が答えると、ソラは嬉しそうに目を輝かせた。
「じゃあ、一緒にリクの応援が出来るな!!」
「そうだね! 皆で応援しよ!」
ソラの言葉に乗り気なようで、カイリも嬉しそうに笑みを浮かべる。
この二人に、オパールは何故か顔を俯かせて赤くなった。
「そ、そうね…あいつと同じように、決勝まで勝ち上がった奴が相手よね……応援ぐらいは、してやらないと…」
「オパール、何か顔が赤くないか?」
「んなっ!? 何言ってんのよバカっ!!」
「いてぇ!?」
ヴェンが疑問をぶつけていると、オパールは怒ったように頭を殴りつける。
あまりの痛さにヴェンが蹲っている中、ふとソラが思い出したようにカイリに聞いた。
「そうだ、カイリ! 決勝戦の相手ってどんな奴なんだ?」
「え?」
「だって、リクの相手ってカイリ達がさっきまでいた別ブロックで勝ち上がった奴なんだろ? どんな奴なんだ?」
興味ありげにソラが聞くが、二人はポカンとして見返していた。
「何言ってるの? それってソラ達の方じゃないの?」
「そうよ。だって、リクはこっちのブロックで戦ってたんだから」
真面目に二人が答えるが、今度はソラとヴェンが首を傾げていた。
「二人こそ、何言ってるんだよ? リクはこっちのブロックで戦ってたぞ?」
「そうそう! 俺、さっきまでリクと話してたし!」
「え? でも…私達が見たの、確かにリクだったよね?」
「服は違ったけど…でも、確かにあれはリクだったわよ」
この食い違う意見に、さすがに四人に不安が過ぎる。
その時、辺り一帯に歓声が沸き上がった。
辺りに広がる歓声の中、リクは闘技場の立ち位置に着く。
この歓声に心地よさを感じつつ、じっと目の前にある相手側の出入り口を見つめた。
「とうとう決勝、か……あっという間だな」
小さく呟くと、ふと手を広げて見つめる。
確かに存在する自分の力。あの島で出会った敵に何も出来ず、不安が過ぎった。
でも、ここで勝てば証明が出来る。
「俺は、あいつらを守れる力を――」
その時、目の前の出入口を塞いでいた鉄柵が上がる。
観客達が更に騒ぎ、リクは顔を上げた。
同時に、決勝の相手が顔を俯かせながらその中から出てきた。
「なっ…!?」
だが、出てきた直後リクの目が大きく見開かれる。
観客達もさっきまでの歓声からざわざわと不思議そうな声が立ち上る。
そんな中で、ソラ達も驚きの表情を浮かべていた。
「うそ…!?」
「リクが二人っ!?」
オパールが呟く中、ソラが疑問を口にする。
四人と同じように、少し離れた場所でも観客に交じってアクアが驚いていた。
「ルキル…!? じゃあ、もう一人の彼は――!!」
混乱するリクや観客達など目もくれず、ルキルは顔を上げる。
リクと同じ、水色の瞳。だが、どう言う訳か酷く淀んでいる。
「――ホンモノ…」
この小さな呟きに、リクは忘却の城の出来事を思い出す。
自分と同じ顔で「ホンモノ」と呼ぶ人物は、一人しかいない。
「お前…まさか、あの時のっ!?」
リクはすぐさま光と共に、キーブレードを取り出す。
それと同時に、ルキルも闇を纏ってソウルイーターを取り出した。
その様子を、観客と共にアクアは見ていた。
「あれは、キーブレード…――まさか、あの子はリク…!?」
アクアはようやく事の事態を理解して、闘技場の真ん中で対峙する二人を見る。
そんな事も知らず、リクは目を鋭くしてルキルを睨みつける。
ルキルも同じように睨みながら、剣を構えた。
「…お前の存在、ここで奪うっ!!!」