Another chapter6 Sora&Aqua side‐5
激しい刃をぶつけあう音が絶え間なく鳴り響く。
中央にいるのは同じ顔の二人。だが、着ている服装と同じように違っていた。
片方は鍵の剣、もう片方は悪魔の羽の剣。この奇妙な二人の戦いを、観客は騒ぐ事もなくじっと見ていた。
「はあぁ!!」
一旦間合いを取ったリクが、手に闇の力を込めて『ダークオーラ』を放つ。
幾つもの闇の追尾弾をルキルに放つが、すぐに『ダークシールド』ですべての魔法を防御した。
「くっ…このっ!!」
悔しがるものの、リクはすぐさま駆け込む。
そうして魔法の効果が切れると同時に、一気に振り下ろす。
ルキルはとっさに剣で防御するものの、無理にしたため体制がグラついた。
「これで…終わりだぁ!!!」
そこを見逃さず、リクは勝負を決めようとキーブレードに力を注ぎこむ。
そのまま、大きく横に薙ぎ払った。
「がっ…!?」
あまりの強さに、ルキルは大きく吹き飛ばされる。
やがて地面に激突し、衝撃で剣を手放してしまい倒れる。
そうして動かなくなったのを確認すると、リクはキーブレードを消した。
「はぁ…はぁ…!!」
大きく息を整えていると、戦いが終わったと分かったのか観客の歓声が少しずつ上がる。
だが、リクはこの歓声が届いていないのか険しい表情でルキルに背を向けて歩き去った。
また負けた。そう感じながら、ルキルは痛みが走る意識の中を彷徨っていた。
憎い。
あいつが―――ホンモノであるリクが憎くて堪らない。
本当の心。本当の記憶。本当の強さ。本当の…友達。
何もかもが本物で出来ている。レプリカである自分では決して手に入らない物を、こいつは全て持っている。
いや…俺が手に入れる方法が、一つある。
「なっ…!?」
再びリクがこちらを振り向き、驚きの表情を浮かべている。
それもそうだろう。倒したと思ったのに立ち上がったのだから。
でも、今はそんな事どうでもいい。やるべき事は、ただ一つ。
こいつを―――…ホンモノのリクを、消せばいい。
「止めろっ!! もう勝負はついた!!」
「うあああああああああああっ!!!」
そんなリクの言葉を無視し、ルキルは抑え切れないほどの闇の力を爆発させた。
負けたと思ったルキルが立ち上がった。
かと思うと、彼に黒い何かの力が纏わりつくのが見えた。
アクアが生唾を飲んでいると、隣にいたメグもようやく異変に気付いた。
「なに…? あの子、何か変だわ?」
その時、観客の一部から悲鳴が立ち上った。
見ると、淀みのある銀色の梟が観客に襲い掛かっている。
アクアはすぐにキーブレードを取り出すと、観客を助けようとその場に走りだした。
だが、アクアの見方は間違っていた。狙っているのは観客ではなくソラ達だからだ。
「あの化け物!! 確かレイアを襲った!?」
逃げ惑う観客に混じり、ヴェンがキーブレードを取り出す。
ソラもキーブレードを取り出していると、闘技場から一際大きな音が聞こえる。
見ると、リクが柱に叩きつけられて座り込んでいた。
「リクっ!?」
ソラが闘技場へと駆け込もうとするが、その前を何匹ものノーバディが羽を広げて通せんぼを始めた。
「どけよ、お前ら!!」
苛立ちに任せて、ソラがキーブレードを構えた瞬間だった。
「あんた達、伏せて!!」
突然のオパールの言葉に、思わずソラだけでなくヴェンも振り返る。
直後、オパールが何か透き通った石のような物を上空に投げつける。
するとその石が光りだし、九つの白い球体となって辺り一帯にレーザーを発射した。
「「うわあぁ!!?」」
この猛攻撃に、さすがの二人もしゃがみ込む。
その間にレーザーの攻撃がノーバディに幾つも当たり、やがて全てを消し去った。
「い、今のは…?」
「ちょっとしたあたしの特技よ。念の為、『ホワイトホール』作って置いて正解だったわ」
ヴェンに言っていると、後ろで茫然としているカイリに振り返る。
オパールはすぐに売っていた道具を脱ぐと、ソラとヴェンが抜き捨てた分も拾ってそれらをカイリに押し付けた。
「カイリ、これ持ってフィルの所に行って!! 二人とも行くわよ!!」
「あ、待って!!」
カイリは手を伸ばすが、もう三人はリクのいる闘技場に向かって走っていた。
そんな光景を、駆け付けたアクアが少し離れた場所で見ていた。
「今の…ヴェン? それに、あの子達は…」
ヴェンと一緒にいた三人を茫然と見ていると、ふと後ろに嫌な何かがよぎる。
慌てて振り向くと、そこに立っていた人物に目を見開いた。
「テラ!? どうしてここに!?」
茶色の髪、青い瞳。そしてキーブレード。見間違えるはずもなく、テラだった。
だが、アクアが一歩踏み出した直後、テラが一気に駆け込んでキーブレードを振り下ろす。
思わずアクアはキーブレードで防御するが、あまりの力に顔を歪ませた。
「止めて、テラ!! 私を忘れたの!?」
いきなり攻撃してきたテラにアクアは叫ぶが、逆に目を鋭くする。
その視線に、アクアは心が痛くなり顔を俯かせた。
「テラ…っ!!」
その頃―――コロシアムの外では、ウィドとゼロボロスが元来た場所へと戻っていた。
「あぁ…喉が痛む…――少し、興奮しすぎましたかね…?」
「まったくですよ…頼みますから、周りの人の目を考えてくれませんか…?」
喉を擦るウィドに、ゼロボロスは未だに青い顔で隣を歩く。
気絶から回復した途端、先程まで熱くこのコロシアムの素晴らしさを耳元で興奮したように聞かされたのだ。おかげで通行人には白い目で見られ、頭はグワングワンと鳴り響いている。
二重の意味で精神が滅入っていると、不意にウィドが足を止めた。
「おや? 何だか騒がしくないですか?」
「本当だ…あの中からのようですね」
ゼロボロスも足を止め、闘技場の入口に目を向ける。
同時に、入り口の扉が開いて人々が逃げるように走って出てきた。
次々と走り去る人々を見ていると、急にウィドの嵌めている指輪が光りだした。
「指輪が光ってる…? これは一体?」
「――ウィド、闘技場に急いだ方が良さそうだ」
「ゼロボロス?」
突然真剣な表情になるゼロボロスに、ウィドは首を傾げる。
「話したよね? その“双龍の指輪”は二つで一つの物なんだ。だからこそ、指輪を嵌める事によって戦う以外の使い方も出来る」
本来ならば、指輪を嵌める事で通常よりも大きく戦う力を得れる。
だが、使い方では世界を渡るように身を守るお守り代わりになったりも出来る。
指輪を嵌める者同時に何かを知らせる事も。
「この指輪の光り方…片方に何かあった事を意味している。この闘技場の騒ぎの事も考えると――」
「まさか、ルキルに危険が迫っているっ!?」
ウィドも言いたい事が分かったのか、結論を述べる。
ゼロボロスは頷くと、未だに人々が逃げていく闘技場に目を向けた。
「急ごう、ウィド。最悪の事態が起きる前に」
「はいっ!!」