Another an introduction 【終わりから始まりへ】
かつては闇の支配を受け、徐々に光を取り戻しつつある世界―――レイディアントガーデン。
世界を闇に染めようと至る所に町や建物を襲っていたあれだけ大量に暴れていたハートレスが消えていく。
闇による脅威が消えていく様子を、解体中の城の頂上で見ている男が居た。
容姿は白い布から僅かにはみ出す黒い髪と金色の瞳。服は白い布で全体に顔を巻いき、白いズボンに十字架の入った白のコートを前で止めている。
彼は顔に巻いた白い布を靡かせながら、ゆっくりと口を開いた。
「…いよいよ、か」
彼はそう呟き、手に持っている銀色の丸い手鏡を見る。
別れの悲しみによって泣き叫ぶ青年。大切な人を守る為に自ら刃の犠牲になった少女。誰も救えぬ悔しさを隠し切れぬ男。
その後ろでは、師より学んだ正義を貫いた事により光の少年達を始めに仲違いを起こし、心に深い傷を負っている者が大勢居る。
動くなら、今が絶好の機会。大願が果されるのも夢ではない。
なのに…動きたくない自分もまだ存在する。
「あらあら、そんな事で大丈夫?」
考え事をしていたからか、後ろに誰かがいるのに気付かなかった。
振り返ると、そこにはモノクロの仮面を付けた女性が立っている。
出会ってからここまで、時に協力し、時に使ってきた存在だ。
「大丈夫じゃなかったら、ここにはいませんよ」
そう言うと、再び前を見据える。
大丈夫でなかったら、ここにはいない。
“戦う”と言う選択肢など、きっと取らない。
「なんだったら、私に任せてもいいのよ? あなたの計画に必要な『鍵』だけでなく、他の人もこの【パラドックス】で――」
「あなたは手出ししないでください。これは…――私が通らなければならぬ道なんですから」
女性がキーブレードを取り出すのを見て、すぐさま青年は首を振る。
そうして決意を秘めた瞳を浮かべると、女性は肩を竦めてキーブレードを消した。
「そう? だったら、計画通りでいいのね?」
確認するような言い方に、男は“計画”について考える。
彼女の持つ『鍵』の能力は、まさに自分の計画に必要な要だ。
恐らくは、彼女にとっても。
「ええ、お願いしますよ」
笑みを浮かべてそう言うと、彼の背中に白の双翼が現れる。
そのまま一気に広げると、ある場所に移動する為に光を纏い出す。
何処か儚くも眩い光に包まれながら、男は過去を思い浮かべた。
「…ここまで、本当にあっと言う間だった」
その言葉と同時に、この世界に来た時の事をゆっくりと思い出した。
岩が無造作に突き出した、砂が舞う荒野。それ以外、この場所には何も無い。
そんな殺風景な場所の中心が光り輝き、そこから一人の男が現れる。
彼はそのまま目を閉じて顔を俯かせるが、少しして顔を上げた。
「気配が感じられない…――もう『殻』を作ったのか…」
「それだけじゃないわよ」
男の呟きに、後ろから言葉が返ってくる。
振り返ると、そこには黒と白の仮面を被った一人の女性が立っていた。
「あなたは…」
「すごいのね、あの子。『時間』よりも高度な『時代』を行き来出来るのだから。人工的なキーブレードでも、途方も無い力を持つものね」
「『時代』、ですか…?」
何処か感心したように言う女性の言葉に、思わず男も首を傾げる。
「そう。そうして、仲間を集めるつもりみたい。私達に対抗するために」
「『過去』から仲間を…――まさか、あの三人…?」
顔を俯かせて考えていると、自分の記憶に残っているある人物達が頭を過ぎる。
闇の力に苦戦していた、茶髪の青年。
純粋な光と欠けた心を持った、金髪の少年。
厳しさと優しさを持ち合わせていた、青髪の少女。
この三人を思い出していると、女性が首を傾げた。
「あら? 心当たりあるみたいね?」
「ええ、まあ……偶然、出会ってたようなものですから…」
「偶然、ねぇ…――本当に、それは『偶然』かしら?」
何処か面白そうに言う女性に、男は僅かに眉を潜める。
すると、女性は顔に手を当てて男に語りかけた。
「気付いてるかしら? この世界には、『あなた』がいるのよ……ああ、“元”を付けた方がいいかしら?」
―――直後、金属がぶつかり合う音が荒野の一帯に響き渡った。
男はいつの間にか刀身が黒と赤のダブルセイバーを取り出しており、それを女性は鍵を象った剣で受け止めている。
ギチギチと互いの刃が鳴りあう中、女性は何事もないようにフフッと笑った。
「あらあら、怒っちゃった?」
「すみません。ですが…――私はそれほど、あの男が憎いんですっ…!!!」
そう言って、更に握る力を込める。
同時に、男の金色の目には突き刺さるような殺気が宿り始める。
そんな状態でも、女性は平然と受け止めている。この様子を見つつ、男は空いた手で胸を掴んだ。
「どう足掻こうが、私は“あいつ”と同じ存在には変わりない。だからこそ、この体には行き場の無い憎しみで溢れ返っているんですよ…」
憎い。自分の全てが。
この体も、記憶も、力も……あの男の全てを持っている事が憎い。
そして何よりも、こんな決断をした自分自身が許せない。だが、もう後には引けないほど切羽詰っているのも事実だ。
男は怒りを抑えて武器を下ろすと、そのまま殺気を消して女性から離れた。
「そろそろ行きます。目覚めたばかりの『彼女』に情報を教えないといけませんから」
「残念、もう少しお話したかったんだけど…」
どこかに去ろうとする男に、女性は残念そうに呟いた。
その言葉に、男は振り返ると苦笑した。
「私も残念ですよ。あなたでは、私を虜に出来そうにないですから」
「あら、言うわね…じゃあ、頑張ってね」
「ええ、あなたも」
男も返すと、女性は満足したようにその場から消え去った。
それを見送ると、男は軽く溜め息を吐いて崖に近寄る。
遠くに広がる殺風景な景色を眺めて、ポツリと呟いた。
「――目的は違えど、自分達の目指す場所は一緒…か」
最初に出会った時の女性の言葉を呟き、顔を俯かせる。
この言葉は真か、偽りか…――今の彼には何も分からない。
再び顔を上げると、砂埃しか無い荒野を眺めた。
「…始まりは、ここだけど“ここ”ではない世界」
それは遠い昔に起きた事なのに…――つい昨日の事のようにも思える。
確かに、ここで終わりを向かえ……再び、始まろうとしている。
「あの惨劇で消えてしまった人達の為にも、必ず全てを取り戻す…――もう少しだけ、待っててください」
今も尚彼の中に残っている願いを言葉に乗せ、光と共にその場から消え去る。
後に残ったのは、翼から抜け落ちた白い羽根だった…。
「これで、よいな…」
銀景色に包まれた、とある森の中。
その中にいるのは、足元まである美しい銀髪に銀色の目の少女だ。服装は白と銀の布で作られた服だ。
彼女は手に持つ銀のレイピアを降り積もった雪の上に置くと、ふと遠くを見つめた。
「このまま、あやつが見つけてくれると良いのだが…」
まるで祈るようにして呟くが、すぐに首を振った。
「いや、悲観的になるのは止めじゃ……こうして異世界に逃がしてくれたと言うのに、面目が立たん」
そっと目を閉じながら、少女はさっきまでの事を思い出す。
何も出来ない自分を“彼女”はレプリカの身体を使ってまで助けに来てくれ、こうして逃がしてくれたのだ。それなのにネガティブに考えるのは、相手に悪すぎる。
少女は目を開けると、そこには揺ぎ無い決意に秘めていた。
「――今回は、我は逃げんぞ。我とは関係無い異世界を巻き込んだんじゃ。必ずお主達の野望を止めてみせる」
そう。【今まで】の状況と【今】の状況は違う。
違うからこそ…――ある程度の行動も可能になる。
「その為にも、まずは過去へ赴いて“彼ら”を呼び寄せんとな…――【奴ら】は、あやつらだけでは太刀打ち出来ぬ」
そう言いながら淡い光を纏い、少女はその場から消え去った。
世界を闇に染めようと至る所に町や建物を襲っていたあれだけ大量に暴れていたハートレスが消えていく。
闇による脅威が消えていく様子を、解体中の城の頂上で見ている男が居た。
容姿は白い布から僅かにはみ出す黒い髪と金色の瞳。服は白い布で全体に顔を巻いき、白いズボンに十字架の入った白のコートを前で止めている。
彼は顔に巻いた白い布を靡かせながら、ゆっくりと口を開いた。
「…いよいよ、か」
彼はそう呟き、手に持っている銀色の丸い手鏡を見る。
別れの悲しみによって泣き叫ぶ青年。大切な人を守る為に自ら刃の犠牲になった少女。誰も救えぬ悔しさを隠し切れぬ男。
その後ろでは、師より学んだ正義を貫いた事により光の少年達を始めに仲違いを起こし、心に深い傷を負っている者が大勢居る。
動くなら、今が絶好の機会。大願が果されるのも夢ではない。
なのに…動きたくない自分もまだ存在する。
「あらあら、そんな事で大丈夫?」
考え事をしていたからか、後ろに誰かがいるのに気付かなかった。
振り返ると、そこにはモノクロの仮面を付けた女性が立っている。
出会ってからここまで、時に協力し、時に使ってきた存在だ。
「大丈夫じゃなかったら、ここにはいませんよ」
そう言うと、再び前を見据える。
大丈夫でなかったら、ここにはいない。
“戦う”と言う選択肢など、きっと取らない。
「なんだったら、私に任せてもいいのよ? あなたの計画に必要な『鍵』だけでなく、他の人もこの【パラドックス】で――」
「あなたは手出ししないでください。これは…――私が通らなければならぬ道なんですから」
女性がキーブレードを取り出すのを見て、すぐさま青年は首を振る。
そうして決意を秘めた瞳を浮かべると、女性は肩を竦めてキーブレードを消した。
「そう? だったら、計画通りでいいのね?」
確認するような言い方に、男は“計画”について考える。
彼女の持つ『鍵』の能力は、まさに自分の計画に必要な要だ。
恐らくは、彼女にとっても。
「ええ、お願いしますよ」
笑みを浮かべてそう言うと、彼の背中に白の双翼が現れる。
そのまま一気に広げると、ある場所に移動する為に光を纏い出す。
何処か儚くも眩い光に包まれながら、男は過去を思い浮かべた。
「…ここまで、本当にあっと言う間だった」
その言葉と同時に、この世界に来た時の事をゆっくりと思い出した。
岩が無造作に突き出した、砂が舞う荒野。それ以外、この場所には何も無い。
そんな殺風景な場所の中心が光り輝き、そこから一人の男が現れる。
彼はそのまま目を閉じて顔を俯かせるが、少しして顔を上げた。
「気配が感じられない…――もう『殻』を作ったのか…」
「それだけじゃないわよ」
男の呟きに、後ろから言葉が返ってくる。
振り返ると、そこには黒と白の仮面を被った一人の女性が立っていた。
「あなたは…」
「すごいのね、あの子。『時間』よりも高度な『時代』を行き来出来るのだから。人工的なキーブレードでも、途方も無い力を持つものね」
「『時代』、ですか…?」
何処か感心したように言う女性の言葉に、思わず男も首を傾げる。
「そう。そうして、仲間を集めるつもりみたい。私達に対抗するために」
「『過去』から仲間を…――まさか、あの三人…?」
顔を俯かせて考えていると、自分の記憶に残っているある人物達が頭を過ぎる。
闇の力に苦戦していた、茶髪の青年。
純粋な光と欠けた心を持った、金髪の少年。
厳しさと優しさを持ち合わせていた、青髪の少女。
この三人を思い出していると、女性が首を傾げた。
「あら? 心当たりあるみたいね?」
「ええ、まあ……偶然、出会ってたようなものですから…」
「偶然、ねぇ…――本当に、それは『偶然』かしら?」
何処か面白そうに言う女性に、男は僅かに眉を潜める。
すると、女性は顔に手を当てて男に語りかけた。
「気付いてるかしら? この世界には、『あなた』がいるのよ……ああ、“元”を付けた方がいいかしら?」
―――直後、金属がぶつかり合う音が荒野の一帯に響き渡った。
男はいつの間にか刀身が黒と赤のダブルセイバーを取り出しており、それを女性は鍵を象った剣で受け止めている。
ギチギチと互いの刃が鳴りあう中、女性は何事もないようにフフッと笑った。
「あらあら、怒っちゃった?」
「すみません。ですが…――私はそれほど、あの男が憎いんですっ…!!!」
そう言って、更に握る力を込める。
同時に、男の金色の目には突き刺さるような殺気が宿り始める。
そんな状態でも、女性は平然と受け止めている。この様子を見つつ、男は空いた手で胸を掴んだ。
「どう足掻こうが、私は“あいつ”と同じ存在には変わりない。だからこそ、この体には行き場の無い憎しみで溢れ返っているんですよ…」
憎い。自分の全てが。
この体も、記憶も、力も……あの男の全てを持っている事が憎い。
そして何よりも、こんな決断をした自分自身が許せない。だが、もう後には引けないほど切羽詰っているのも事実だ。
男は怒りを抑えて武器を下ろすと、そのまま殺気を消して女性から離れた。
「そろそろ行きます。目覚めたばかりの『彼女』に情報を教えないといけませんから」
「残念、もう少しお話したかったんだけど…」
どこかに去ろうとする男に、女性は残念そうに呟いた。
その言葉に、男は振り返ると苦笑した。
「私も残念ですよ。あなたでは、私を虜に出来そうにないですから」
「あら、言うわね…じゃあ、頑張ってね」
「ええ、あなたも」
男も返すと、女性は満足したようにその場から消え去った。
それを見送ると、男は軽く溜め息を吐いて崖に近寄る。
遠くに広がる殺風景な景色を眺めて、ポツリと呟いた。
「――目的は違えど、自分達の目指す場所は一緒…か」
最初に出会った時の女性の言葉を呟き、顔を俯かせる。
この言葉は真か、偽りか…――今の彼には何も分からない。
再び顔を上げると、砂埃しか無い荒野を眺めた。
「…始まりは、ここだけど“ここ”ではない世界」
それは遠い昔に起きた事なのに…――つい昨日の事のようにも思える。
確かに、ここで終わりを向かえ……再び、始まろうとしている。
「あの惨劇で消えてしまった人達の為にも、必ず全てを取り戻す…――もう少しだけ、待っててください」
今も尚彼の中に残っている願いを言葉に乗せ、光と共にその場から消え去る。
後に残ったのは、翼から抜け落ちた白い羽根だった…。
「これで、よいな…」
銀景色に包まれた、とある森の中。
その中にいるのは、足元まである美しい銀髪に銀色の目の少女だ。服装は白と銀の布で作られた服だ。
彼女は手に持つ銀のレイピアを降り積もった雪の上に置くと、ふと遠くを見つめた。
「このまま、あやつが見つけてくれると良いのだが…」
まるで祈るようにして呟くが、すぐに首を振った。
「いや、悲観的になるのは止めじゃ……こうして異世界に逃がしてくれたと言うのに、面目が立たん」
そっと目を閉じながら、少女はさっきまでの事を思い出す。
何も出来ない自分を“彼女”はレプリカの身体を使ってまで助けに来てくれ、こうして逃がしてくれたのだ。それなのにネガティブに考えるのは、相手に悪すぎる。
少女は目を開けると、そこには揺ぎ無い決意に秘めていた。
「――今回は、我は逃げんぞ。我とは関係無い異世界を巻き込んだんじゃ。必ずお主達の野望を止めてみせる」
そう。【今まで】の状況と【今】の状況は違う。
違うからこそ…――ある程度の行動も可能になる。
「その為にも、まずは過去へ赴いて“彼ら”を呼び寄せんとな…――【奴ら】は、あやつらだけでは太刀打ち出来ぬ」
そう言いながら淡い光を纏い、少女はその場から消え去った。
■作者メッセージ
初めましての方は初めまして、夢旅人さんと共同しているNANAです。
私の話は最初で書いた通り、KH2エンディング後の設定にさまざまなKHシリーズのキャラにオリジナルキャラを加わらせた話としています。
出来る限りは矛盾など存在しないように話を練っていくつもりですので、何とぞよろしくお願いします。
ちなみに、夢旅人さんの話と区別する為に章は英語で書いています。
私の話は最初で書いた通り、KH2エンディング後の設定にさまざまなKHシリーズのキャラにオリジナルキャラを加わらせた話としています。
出来る限りは矛盾など存在しないように話を練っていくつもりですので、何とぞよろしくお願いします。
ちなみに、夢旅人さんの話と区別する為に章は英語で書いています。