Another chapter6 Sora&Aqua side‐7
その事にリクが気づいた時には、レプリカの方は鞘で、自分は細身の剣でそれぞれの武器を長い銀髪の青年が歯を食いしばりながら受け止めていた。
「えっ…!?」
「っ…!?」
この第三者の介入に、リクもレプリカも目を見開く。
その隙に、銀髪の青年―――ウィドが防御したまま身体を捻らせた。
「――『風破』ァ!!」
剣と鞘を互いの刃で擦りながら、風の壁を作って軽く弾き飛ばす。
その直後、風の壁は爆発するが二人を傷付ける事無く対極に大きく吹き飛ばした。
「くっ…誰だっ!?」
突然現れて邪魔をした人物に、リクは受け身を取ると怒鳴りつける。
だが、ウィドは無視してレプリカを向くなり驚くべき言葉を述べた。
「ルキル、止めなさいっ!!!」
「えっ…!?」
まるで親が子を叱るような態度を見せるウィドに、リクの動きが止まる。
そして、レプリカ―――ルキルに変化が現れる。
「せ、んせ…」
口から放たれた小さな呟きがリクの耳に届き、瞳も僅かだが元の色に戻る。
しかし、それも長続きせずに頭を抑え込みその場に座り込んだ。
「がぁ…!?」
まるで何かを堪える様に抵抗するルキルに、ウィドは息を飲んだ。
「ルキルっ!!?」
「ウィド、駄目だっ!!」
駆け寄ろうとしたウィドに、ゼロボロスが駆け付けて腕を掴んだ。
それでも、ウィドは頭を抑え込むルキルに近づこうとゼロボロスの腕を振り払おうとする。
「どうしたんですか、ルキルっ!!?」
「落ち着いて!! 彼は操られてるっ!!」
ゼロボロスの言葉に、ウィドだけでなく他の人達も注目した。
「操られてる…っ!? 一体、誰に!?」
「さすがに、そこまでは…!!」
「操る…? もしかしてっ!!」
ウィドの問いに、ゼロボロスは悔しそうに顔を俯かせる。
だが、何かに気づいたのかソラは戦っていたリリスを睨んだ。
「おい、リリス!! ハデスはどこだ!?」
「人間ごときが…私を呼び捨てにするなぁ!!! 『アクエリアスフィア』!!」
「のわあぁ!?」
リリスが睨み返すなり手を翳して巨大な水球を出現させてソラに放つが、攻撃が大振りだったのか転がるようにして回避出来た。
それでも何処か興奮するリリスに、クォーツは溜息を吐いて手を振るう。
すると、クォーツの周りに球体上の青い石が三つ現れた。
「リリス、怒りは禁物だ。『トライ・ブルーメノウ』」
クォーツがさらに手を振ると、リリスの周りに三角になるようにして上空に浮かぶ。
すると、中央にいる青い光がリリスを包み、怒りが収まったように表情が緩む。
その一部始終を見ながら、ソラは上空に顔を向けた。
「だったら…――出てこないって事は、俺達と戦うのが怖いんだなー! やーい、神様のクセに弱っちいのー!」
「何だと、このガキィ!!!」
このソラの挑発に、黒い煙と共に怒りで全身を真っ赤にしたハデスが現れた。
「やっぱりいたな、ハデス!!」
ハデスの姿を見て、すぐさまソラがキーブレードを構える。
そんな中、ウィドがハデスの手に注目する。
ルキルを模った、小さな人形に。
「あれは…?」
「あれだ!! ウィド、あの人形を取り返せば!!」
「だったら、話は早い!!」
ゼロボロスの助言に、ウィドは剣を収めて姿を消す。
一瞬で相手の後ろに回り込むスピードを用いて一撃を放つ技、『一閃』を放とうとする。
だが、回り込む途中でウィドに銀色の何かが激突して吹き飛ばされた。
「つぅ!?」
「あのノーバディ、まだ居たの!?」
不意打ちの攻撃でウィドが倒れこむ中、リリスと戦っていたオパールが驚きの声を上げる。
梟型のノーバディは空を舞いながら、奪い取ったのかウィドの剣を足に持っている。
「よくやった、“スパイ”それをこちらに」
「させるかぁ!!」
スパイと呼んだノーバディに手を伸ばすクォーツに、リクが手に闇を凝縮する。
それを見たクォーツは、再び手を広げて今度は灰色の鉱石に光る成分が入った石を四つ出現させた。
「『テトラ・ラブラドライト』」
すると、クォーツだけでなくノーバディにも光が纏う。
構わずリクは『ダークオーラ』をノーバディにぶつけるが、まるで掻き消すように放った魔法が消え去った。
「なに!?」
攻撃が消えた事に驚くリクに、クォーツが笑いながら近づくノーバディに手を伸ばした。
「させない!! 雷よ!! 『サンダガ』!!」
だが、アクアがキーブレードを掲げて広範囲で雷を落とす。
すると、意外にもクォーツとノーバディにダメージを与える事が出来た。
「くっ!?」
「邪魔するな、貴様ら!!」
「それはこっちのセリフよっ!!」
リリスがアクアに向かおうとした瞬間、オパールが赤い石を投げつける。
同時に、リリスの周りに灼熱の炎が現れて呑み込んだ。
「きゃああああ!?」
「あたしが何もせずにいると思った? しばらくは『バーニングケージ』の中にいなさい」
炎の中に閉じ込められるリリスにオパールが得意げに笑っていると、ゼロボロスが羽を広げた。
「その結界…闇の攻撃を防御出来ても――」
翼を羽ばたかせて飛び上がると、ウィドの剣を持つノーバディに一気に近づく。
「普通の攻撃は防御出来まい!! 『爆牙刹拳』!!」
即座に拳をノーバディにぶつけ、思いっきり上空へと突き飛ばす。
あまりの威力に剣を手放しただけでなく、一撃でノーバディは消えてしまう。
さっきまでの優勢な状況が逆転されつつある光景に、ハデスは歯軋りを起こした。
「あいつら、何をやってるんだ!? もういい、こうなったら俺様が――!!」
「凍れ!! 『ブリザガ』!!」
「ぬぉ!?」
行動をしようとしたハデスに向かって、ソラは氷の結晶を飛ばした。
慌ててハデスが紙一重で避け、攻撃したソラに目を向ける。
「隙あり!!」
「げぶっ!?」
だが、その行動を読んでいたかのようにヴェンが素早くキーブレードで突くようにハデスに突進する。
『スライドダッシュ』で攻撃すると共に、ヴァンはハデスの手放した人形をも奪い取った。
「ヴェン、ナイス!!」
ソラが嬉しそうにガッツポーズを作ると、ヴェンもガッツポーズを返す。
その間に、ゼロボロスは空中で剣を取ってウィドに投げた。
「ウィド!!」
「すみません、ゼロボロス!!」
ゼロボロスが投げた剣をウィドは受け取り、すぐに鞘から抜刀する。
偽のテラは消えた。リリスは動けない。操っているルキルを戻す人形はこっちにある。戦いがこちらに好転したのを誰もが感じた。
―――その時、激しい水柱がリリスを中心に幾つも立った。
全員が振り返ると、あの炎を消したのかリリスがずぶ濡れで顔を俯かせ震えながら立っている。
そんな彼女の周りには、不穏なオーラが漂っているのが目に見えて分かる。
「――貴様ら…本気で我を怒らせたなぁぁぁ!!!??」
この怒鳴り声と共に、何とコロシアムだと言うのに全員の足元を濡らすように水が沸き立つ。
しかも、それはだんだんと嵩が高くなってもう膝から腰辺りにまで増えていく。
「な、何だよこれ!?」
「おおおおおい!!? 俺は水が苦手なんだぞ!? そこを――!!!」
「黙っていろぉ!!! もう許しはしない…全員纏めて溺れてしまえぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!」
味方であるはずのハデスの声にも耳を貸さず、リリスは手を振り上げる。
すると、コロシアムの水が一気に観客席の半分をも埋め尽くしてうねりを上げ、やがて渦を巻きだした。
「『テトラ・アクアマリン』っ!?」
いち早くクォーツは水色の石を四つ取り出し、ハデスを無視して自身を囲むように結界を張る。
それとほぼ同時に、水は大渦潮を作り出してソラ達を呑み込んだ。
「う、うわああああああああっ!!?」
「「きゃあああああああああああああ!?」」
「オパール!?」
「ヴェン!?」
たまたま柱の近くにいたリクとソラはしがみ付くと、流されるオパールとヴェンの手を握る。
上空にいたゼロボロスも、うねりを上げる水で身動きの出来ないアクアに近づいて腕を掴む。
だが、あまりの激流の強さにそれ以上上に飛べず完全に救出する事が出来ない。
「アクア!? 大丈夫!?」
「え、ええ…何とか…!!」
アクアが苦しそうに頷くのを見て、ゼロボロスはどうにか渦から出そうとする。
だが、激流に流されないようにこうして掴んでいるのが精一杯だ。
こうしてリリスの作った激流の中に捕らわれたソラ達を、カイリは観客席の一番高い場所から見ていた。
「ソラ!! リク!!」
柱にしがみ付きながら他の人の手を繋いで助けている二人にカイリが近寄ろうとする。
だが、共にいたフィルが前に出てカイリを止めた。
「駄目だ、お譲ちゃん!! 今行ったら巻き込まれるぞ!!」
「でも、でもっ!?」
目の前で苦しんでいる親友に居てもたってもいられないカイリは、必死でフィルをどかそうとする。
そんな中、アクアはゼロボロスの手を握りながらある事に気づいた。
「ウィド、は…?」
「そう言えば、いない!?」
アクアの言葉に、ゼロボロスは辺りを見回す。
ソラと一緒に手を繋いでいるヴェン、リクと共にいるオパールを見て視線を戻していると、手をバタつかせて溺れているウィドを見つけた。
「ウィド!?」
「あの人…もしかして、泳げないんじゃ…!?」
アクアもウィドを見つけ、思った事を呟く。
その間にも、ウィドは必死で手をバタつかせている。
しかし、そんな事で助かる筈もなくやがて渦の作る波に呑まれてしまった。
「ウィド…!? ウィドー!!」
ゼロボロスはもう片方の手を伸ばすが、ウィドの姿は完全に激流の中へと沈んでいった…。
辺り一面、何も見えない暗闇。
そんな場所で、自分が浮かんでいる。
(なつか、しい…)
心に湧き上がる一つの感情に、思わず浸ってしまう。
(まえにも、こうしてた…きがする…?)
不意に過る疑問に、今ある記憶を思い出す。
一つ一つ過去を遡って調べていると、ある少女の記憶が脳裏を駆けた。
(ナミネ…そうだ、ナミネ…)
好きだった金髪の少女を思い出し、思わず笑みが零れる。
同時に、心にザワリとした黒い感情が沸々と湧き上がってくる。
その感情と一緒に、何故かソラとリクの姿が浮かび上がった。
(おれ…なんで、ふたりがにくいんだろう…?)
湧き上がる感情に疑問を持ちつつも、答えを導こうとする。
殆ど消えたナミネに作られた記憶。残っているのは城での記憶とナミネとの約束。
そう。自分はレプリカだ。ソラみたいに大事だと思ったナミネを救えずに悲しませるしか出来ない。誰にもなれず、リクの影としか存在出来ない。
ここまで考え、ようやく答えを導き出した。
(ああ、そっか…おれには、だれかにつながるきずながないんだ……だから――)
―――ルキル…。
(せん、せい…?)
心に届いた声に、思考が止まる。
そして、一つの記憶が甦る。
『あなたの名前を考えてみたんです。と言っても、一文字加えて並び変えただけですが…』
そう言って、あの人は苦笑しながら自分を見ていた。
それでも、純粋に嬉しかった。自分の為に考えて初めて与えてくれた物だから。
ルキル…――俺であって、リクであって、誰でもない自分だけの名前。
(ちがう…きずなは、あるんだ……だれでもない、おれの…おれたちの、きずな…)
いつの間にか心に湧き上がる黒い感情が消え、暗闇が光って色を取り戻す。
目の前に広がるのは青。そして不自然な白。
まだ意識が朦朧とする中、水の中で手を伸ばし白い服の袖を腕ごと掴む。
その時自分達の右手に嵌めてる指輪を光っているのに気づく。まるで今こうして繋がっているようだと思いながら、笑みを浮かべて心の中で呟く。
自分なりの絆であり信頼の形を現した彼の名を。
(そうだよな…“先生”)
「えっ…!?」
「っ…!?」
この第三者の介入に、リクもレプリカも目を見開く。
その隙に、銀髪の青年―――ウィドが防御したまま身体を捻らせた。
「――『風破』ァ!!」
剣と鞘を互いの刃で擦りながら、風の壁を作って軽く弾き飛ばす。
その直後、風の壁は爆発するが二人を傷付ける事無く対極に大きく吹き飛ばした。
「くっ…誰だっ!?」
突然現れて邪魔をした人物に、リクは受け身を取ると怒鳴りつける。
だが、ウィドは無視してレプリカを向くなり驚くべき言葉を述べた。
「ルキル、止めなさいっ!!!」
「えっ…!?」
まるで親が子を叱るような態度を見せるウィドに、リクの動きが止まる。
そして、レプリカ―――ルキルに変化が現れる。
「せ、んせ…」
口から放たれた小さな呟きがリクの耳に届き、瞳も僅かだが元の色に戻る。
しかし、それも長続きせずに頭を抑え込みその場に座り込んだ。
「がぁ…!?」
まるで何かを堪える様に抵抗するルキルに、ウィドは息を飲んだ。
「ルキルっ!!?」
「ウィド、駄目だっ!!」
駆け寄ろうとしたウィドに、ゼロボロスが駆け付けて腕を掴んだ。
それでも、ウィドは頭を抑え込むルキルに近づこうとゼロボロスの腕を振り払おうとする。
「どうしたんですか、ルキルっ!!?」
「落ち着いて!! 彼は操られてるっ!!」
ゼロボロスの言葉に、ウィドだけでなく他の人達も注目した。
「操られてる…っ!? 一体、誰に!?」
「さすがに、そこまでは…!!」
「操る…? もしかしてっ!!」
ウィドの問いに、ゼロボロスは悔しそうに顔を俯かせる。
だが、何かに気づいたのかソラは戦っていたリリスを睨んだ。
「おい、リリス!! ハデスはどこだ!?」
「人間ごときが…私を呼び捨てにするなぁ!!! 『アクエリアスフィア』!!」
「のわあぁ!?」
リリスが睨み返すなり手を翳して巨大な水球を出現させてソラに放つが、攻撃が大振りだったのか転がるようにして回避出来た。
それでも何処か興奮するリリスに、クォーツは溜息を吐いて手を振るう。
すると、クォーツの周りに球体上の青い石が三つ現れた。
「リリス、怒りは禁物だ。『トライ・ブルーメノウ』」
クォーツがさらに手を振ると、リリスの周りに三角になるようにして上空に浮かぶ。
すると、中央にいる青い光がリリスを包み、怒りが収まったように表情が緩む。
その一部始終を見ながら、ソラは上空に顔を向けた。
「だったら…――出てこないって事は、俺達と戦うのが怖いんだなー! やーい、神様のクセに弱っちいのー!」
「何だと、このガキィ!!!」
このソラの挑発に、黒い煙と共に怒りで全身を真っ赤にしたハデスが現れた。
「やっぱりいたな、ハデス!!」
ハデスの姿を見て、すぐさまソラがキーブレードを構える。
そんな中、ウィドがハデスの手に注目する。
ルキルを模った、小さな人形に。
「あれは…?」
「あれだ!! ウィド、あの人形を取り返せば!!」
「だったら、話は早い!!」
ゼロボロスの助言に、ウィドは剣を収めて姿を消す。
一瞬で相手の後ろに回り込むスピードを用いて一撃を放つ技、『一閃』を放とうとする。
だが、回り込む途中でウィドに銀色の何かが激突して吹き飛ばされた。
「つぅ!?」
「あのノーバディ、まだ居たの!?」
不意打ちの攻撃でウィドが倒れこむ中、リリスと戦っていたオパールが驚きの声を上げる。
梟型のノーバディは空を舞いながら、奪い取ったのかウィドの剣を足に持っている。
「よくやった、“スパイ”それをこちらに」
「させるかぁ!!」
スパイと呼んだノーバディに手を伸ばすクォーツに、リクが手に闇を凝縮する。
それを見たクォーツは、再び手を広げて今度は灰色の鉱石に光る成分が入った石を四つ出現させた。
「『テトラ・ラブラドライト』」
すると、クォーツだけでなくノーバディにも光が纏う。
構わずリクは『ダークオーラ』をノーバディにぶつけるが、まるで掻き消すように放った魔法が消え去った。
「なに!?」
攻撃が消えた事に驚くリクに、クォーツが笑いながら近づくノーバディに手を伸ばした。
「させない!! 雷よ!! 『サンダガ』!!」
だが、アクアがキーブレードを掲げて広範囲で雷を落とす。
すると、意外にもクォーツとノーバディにダメージを与える事が出来た。
「くっ!?」
「邪魔するな、貴様ら!!」
「それはこっちのセリフよっ!!」
リリスがアクアに向かおうとした瞬間、オパールが赤い石を投げつける。
同時に、リリスの周りに灼熱の炎が現れて呑み込んだ。
「きゃああああ!?」
「あたしが何もせずにいると思った? しばらくは『バーニングケージ』の中にいなさい」
炎の中に閉じ込められるリリスにオパールが得意げに笑っていると、ゼロボロスが羽を広げた。
「その結界…闇の攻撃を防御出来ても――」
翼を羽ばたかせて飛び上がると、ウィドの剣を持つノーバディに一気に近づく。
「普通の攻撃は防御出来まい!! 『爆牙刹拳』!!」
即座に拳をノーバディにぶつけ、思いっきり上空へと突き飛ばす。
あまりの威力に剣を手放しただけでなく、一撃でノーバディは消えてしまう。
さっきまでの優勢な状況が逆転されつつある光景に、ハデスは歯軋りを起こした。
「あいつら、何をやってるんだ!? もういい、こうなったら俺様が――!!」
「凍れ!! 『ブリザガ』!!」
「ぬぉ!?」
行動をしようとしたハデスに向かって、ソラは氷の結晶を飛ばした。
慌ててハデスが紙一重で避け、攻撃したソラに目を向ける。
「隙あり!!」
「げぶっ!?」
だが、その行動を読んでいたかのようにヴェンが素早くキーブレードで突くようにハデスに突進する。
『スライドダッシュ』で攻撃すると共に、ヴァンはハデスの手放した人形をも奪い取った。
「ヴェン、ナイス!!」
ソラが嬉しそうにガッツポーズを作ると、ヴェンもガッツポーズを返す。
その間に、ゼロボロスは空中で剣を取ってウィドに投げた。
「ウィド!!」
「すみません、ゼロボロス!!」
ゼロボロスが投げた剣をウィドは受け取り、すぐに鞘から抜刀する。
偽のテラは消えた。リリスは動けない。操っているルキルを戻す人形はこっちにある。戦いがこちらに好転したのを誰もが感じた。
―――その時、激しい水柱がリリスを中心に幾つも立った。
全員が振り返ると、あの炎を消したのかリリスがずぶ濡れで顔を俯かせ震えながら立っている。
そんな彼女の周りには、不穏なオーラが漂っているのが目に見えて分かる。
「――貴様ら…本気で我を怒らせたなぁぁぁ!!!??」
この怒鳴り声と共に、何とコロシアムだと言うのに全員の足元を濡らすように水が沸き立つ。
しかも、それはだんだんと嵩が高くなってもう膝から腰辺りにまで増えていく。
「な、何だよこれ!?」
「おおおおおい!!? 俺は水が苦手なんだぞ!? そこを――!!!」
「黙っていろぉ!!! もう許しはしない…全員纏めて溺れてしまえぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!」
味方であるはずのハデスの声にも耳を貸さず、リリスは手を振り上げる。
すると、コロシアムの水が一気に観客席の半分をも埋め尽くしてうねりを上げ、やがて渦を巻きだした。
「『テトラ・アクアマリン』っ!?」
いち早くクォーツは水色の石を四つ取り出し、ハデスを無視して自身を囲むように結界を張る。
それとほぼ同時に、水は大渦潮を作り出してソラ達を呑み込んだ。
「う、うわああああああああっ!!?」
「「きゃあああああああああああああ!?」」
「オパール!?」
「ヴェン!?」
たまたま柱の近くにいたリクとソラはしがみ付くと、流されるオパールとヴェンの手を握る。
上空にいたゼロボロスも、うねりを上げる水で身動きの出来ないアクアに近づいて腕を掴む。
だが、あまりの激流の強さにそれ以上上に飛べず完全に救出する事が出来ない。
「アクア!? 大丈夫!?」
「え、ええ…何とか…!!」
アクアが苦しそうに頷くのを見て、ゼロボロスはどうにか渦から出そうとする。
だが、激流に流されないようにこうして掴んでいるのが精一杯だ。
こうしてリリスの作った激流の中に捕らわれたソラ達を、カイリは観客席の一番高い場所から見ていた。
「ソラ!! リク!!」
柱にしがみ付きながら他の人の手を繋いで助けている二人にカイリが近寄ろうとする。
だが、共にいたフィルが前に出てカイリを止めた。
「駄目だ、お譲ちゃん!! 今行ったら巻き込まれるぞ!!」
「でも、でもっ!?」
目の前で苦しんでいる親友に居てもたってもいられないカイリは、必死でフィルをどかそうとする。
そんな中、アクアはゼロボロスの手を握りながらある事に気づいた。
「ウィド、は…?」
「そう言えば、いない!?」
アクアの言葉に、ゼロボロスは辺りを見回す。
ソラと一緒に手を繋いでいるヴェン、リクと共にいるオパールを見て視線を戻していると、手をバタつかせて溺れているウィドを見つけた。
「ウィド!?」
「あの人…もしかして、泳げないんじゃ…!?」
アクアもウィドを見つけ、思った事を呟く。
その間にも、ウィドは必死で手をバタつかせている。
しかし、そんな事で助かる筈もなくやがて渦の作る波に呑まれてしまった。
「ウィド…!? ウィドー!!」
ゼロボロスはもう片方の手を伸ばすが、ウィドの姿は完全に激流の中へと沈んでいった…。
辺り一面、何も見えない暗闇。
そんな場所で、自分が浮かんでいる。
(なつか、しい…)
心に湧き上がる一つの感情に、思わず浸ってしまう。
(まえにも、こうしてた…きがする…?)
不意に過る疑問に、今ある記憶を思い出す。
一つ一つ過去を遡って調べていると、ある少女の記憶が脳裏を駆けた。
(ナミネ…そうだ、ナミネ…)
好きだった金髪の少女を思い出し、思わず笑みが零れる。
同時に、心にザワリとした黒い感情が沸々と湧き上がってくる。
その感情と一緒に、何故かソラとリクの姿が浮かび上がった。
(おれ…なんで、ふたりがにくいんだろう…?)
湧き上がる感情に疑問を持ちつつも、答えを導こうとする。
殆ど消えたナミネに作られた記憶。残っているのは城での記憶とナミネとの約束。
そう。自分はレプリカだ。ソラみたいに大事だと思ったナミネを救えずに悲しませるしか出来ない。誰にもなれず、リクの影としか存在出来ない。
ここまで考え、ようやく答えを導き出した。
(ああ、そっか…おれには、だれかにつながるきずながないんだ……だから――)
―――ルキル…。
(せん、せい…?)
心に届いた声に、思考が止まる。
そして、一つの記憶が甦る。
『あなたの名前を考えてみたんです。と言っても、一文字加えて並び変えただけですが…』
そう言って、あの人は苦笑しながら自分を見ていた。
それでも、純粋に嬉しかった。自分の為に考えて初めて与えてくれた物だから。
ルキル…――俺であって、リクであって、誰でもない自分だけの名前。
(ちがう…きずなは、あるんだ……だれでもない、おれの…おれたちの、きずな…)
いつの間にか心に湧き上がる黒い感情が消え、暗闇が光って色を取り戻す。
目の前に広がるのは青。そして不自然な白。
まだ意識が朦朧とする中、水の中で手を伸ばし白い服の袖を腕ごと掴む。
その時自分達の右手に嵌めてる指輪を光っているのに気づく。まるで今こうして繋がっているようだと思いながら、笑みを浮かべて心の中で呟く。
自分なりの絆であり信頼の形を現した彼の名を。
(そうだよな…“先生”)