Another chapter6 Sora&Aqua side‐8
「アハハハハハっ!!! 沈めぇぇぇ!!!」
半分ほど水に沈められたコロシアムの中央で、リリスが高笑いを上げながら攻撃の勢いを増していく。
この一方的な猛攻に、激流に捕らわれた全員の顔が歪みだす。
「うぐっ…!!」
「さすがに、持たない…!!」
呻き声を上げるヴェンの手を掴みながら、ソラは必死に流されまいと歯を食い縛る。
「もう、だめ…!!」
そんな中、限界が近づいたのかオパールの手が緩む。
だが、緩んだ手を離すまいとリクは更に力強く握り返す。
「諦めるな…!! この手は、絶対に離さないから…!!」
「リク…っ!」
この言葉にオパールも活力を取り戻し、再び力の限りリクの手を掴んだ。
「早く…彼女を、どうにかしないと…!!」
アクアの腕を掴んだ状態で、ゼロボロスは翼を羽ばたかせながら中央で洪水を操るリリスを見る。
だが、アクアを助ける事に集中しなければ自分も激流の中に引きずり込まれてしまう。この状況で魔法や技を使ってしまうのは、まさに命取りだ。
どうにかしようと思考を巡らせていた時、突然水面から黒い闇の柱が湧き上がった。
「え…?」
何が起こったのか分からず、全員が注目する。
やがて闇が消えると、上空に気を失っているウィドの腕を掴んでいるルキルがいた。
「させない…!!」
空いた手にソウルイーターを取り出すなり、中央にいたリリスに一気に急降下した。
「はああああああっ!!!」
そのまま突進するように落ち、思いっきりリリスを斬り裂いた。
「ぐっ…!?」
攻撃を受けた事で、荒れ狂っていた洪水の威力が一気に弱まる。
ルキルは勢いを抑えぬまま、ソウルイーターを上へと投げつけ制止させる。
そうして水面の中に落ちると共に、ソウルイーターが意思を持ったようにリリスを貫いた。
「がはぁっ!!?」
『バラージュ』を喰らい、リリスは吹き飛ばされてしまう。
同時に激流となった洪水が消え、ようやくソラ達は地面へと足を付ける。
遠くにはリリスの攻撃に巻き添えになって倒れているハデスがいるが、水色の結界で洪水から身を守っていたクォーツは無傷の状態で焦りを浮かべていた。
「リリス!? 『ラリマー』!!」
すぐに水色と白の模様がある一つの石をリリスに飛ばし、癒しの光を当てる。
そして、ウィドの腕を掴んだまま息を荒くしてこちらを睨むルキルを見た。
「どうなっている!? まだ心は戻っていないはず…!?」
瞳が未だに淀んでいるのを見る限り、心を閉じ込めた人形はまだ戻っていないのが分かる。
他の人も困惑して見た時、互いの右手に付けてある指輪が光っているのに気づく。
この現象に、ゼロボロスが答えを導き出した。
「そうか…!! あの指輪が二人を繋いで、捕らわれた心の分を補っているんだっ!!」
どう言う理屈かは、持ち主である自分でも分からない。『双龍の指輪』はそれだけ強大な力を秘めている。
だが、確かに指輪を介してルキルはある程度自我を取り戻している。
「それでも――」
ヴェンは激流でも手放さなかった人形を両手で持って振りかぶる。
「心はちゃんと戻した方がいいよなっ!!」
そう言って、人形をルキルへと投げつける。
すると、人形は光となって弾けてルキルへと降り注いだ。
「うっ…!」
心が戻った反動なのか、ルキルは力が抜けたようにその場に倒れこむ。
しかし、完全に地面に倒れる前にアクアが受け止めた。
「よくやったわね、ルキル。ゆっくり休んでて」
優しく頭を撫で、アクアはルキルをその場に寝かせる。
完全に有利な状況となり、ソラ達はクォーツを睨みつけた。
「これで残りはお前一人だ!!」
「覚悟しろ!!」
ソラと共にヴェンも一緒にキーブレードを構えると、残りの四人もそれぞれに武器を構える。
6対1の状況に、クォーツは顔を俯かせて笑い返した。
「誰が、私だけと言いました?」
その言葉と同時に、何匹もノーバディ―――スパイを出現させた。
「このノーバディ!? お前が操っていたのか!?」
「操っていません、これは配下です。いけっ!」
現れたノーバディに驚くリクに、平然とクォーツが答える。
そうして手を軽く動かすと、ノーバディが翼を広げて向かってきた。
ソラ達が身構える中、ゼロボロスが笑った。
「なかなかですね。ですが――」
ゼロボロスも双翼を広げながら、手を上げる。
それを合図に、何と足元に巨大な魔方陣を浮かび上がらせた。
「そう言った策は僕も負けていませんよ!! アクアっ!!」
「ええっ!! 来たれ、流星!!」
ゼロボロスの掛け声に、隣にいたアクアはキーブレードを上に掲げる。
すると、上空に無数の流星群がコロシアム全域に降り注いだ。
「「『アブソルート・シューティングスター』っ!!!」」
「何っ!? ぐあああああああああっ!!?」
この二人の繰り出した流星群の嵐に、ノーバディだけでなくクォーツの姿さえも見えなくなる。
悲鳴が響き渡っていると、流星に混じって一際大きな隕石がクォーツのいる場所に直撃して大爆発を起こした。
やがて二人の連携が収まると、目の前にあるのはノーバディでもクォーツでもない一つの闇。
それが『闇の回廊』だと気づいた時には、跡形もなく消滅した所だった。
「逃げられたか…!!」
「引いただけ、マシと思いましょう。それよりも…」
リクが悔しそうに睨む中、ゼロボロスが振り返る。
倒れているウィドとルキルを見て、いち早くオパールが二人の症状を見る。
二人の口に手を当てて呼吸を確認し、顔色や瞼の裏にある目を見てホッと息を吐いて振り返った。
「…大丈夫。二人とも、気を失ってるだけみたい」
「とりあえず、ロビーで休ませよう。一人は溺れていたし」
「そうしましょうか。アクアも、彼らと話があるんでしょう?」
「え、ええ…」
提案をするソラにゼロボロスは頷きつつ、アクアに話を促す。
そして、全員はボロボロになったコロシアムを後にした。
コロシアムの入口の広場。
そこでアクアは、これまでのヴェン達の話を聞いていた。
尚、ゼロボロスはリクと一緒にロビーで気絶したウィドとルキルを見ている。
「――そう。ヴェンもあの女の子に連れられてここに来たのね。そして、テラも…」
そう呟き、アクアは暗い表情で顔を俯かせる。
そんなアクアに、レイディアントガーデンでの出来事を思い出しながらヴェンは不安げな表情を浮かべた。
「えっと、アクア…テラの事、まだ疑ってる?」
「疑ってる訳じゃないわ。ただ…」
「不安、ですか?」
自分の心の内を見事に言い当てられ、その子に目を向ける。
あのレイディアントガーデンで助けた、特別な光を持った少女―――カイリだった。
幼い子供がこうして成長した姿に、アクアは複雑な思いを抱きながら微笑み返した。
「そうね……えっと、あなたはカイリ、だったわね。それで、あなたはソラ…」
「ああ! よろしく、アクア!」
「よろしくお願いします」
「え、ええ…」
笑顔で答える二人に、出来る限りアクアは平穏を装って頷く。
そのまま改めて二人を見ると、心の中で苦笑した。
(二人とも、私と会った事忘れてるのね……まあ、あんなに小さかったし、しょうがないか)
寂しい気持ちになりながらもどうにか割り切ると、ある疑問が浮かび上がる。
(でも、リクやカイリはともかく…どうしてソラがキーブレードを? 私は継承をした覚えなんてないし、ヴェンがやったとはとても思えない…)
キーブレードの継承はマスターの称号を貰わなければ出来ない。ヴェンは承認試験すら受ける事が出来ないから継承なんて出来る訳がない。
リクはテラが行っていたからまだ分かるし、カイリは自分の力が備わっている。恐らく、アンヴァースに襲われていた時に握ったのが原因かもしれない。それでもキーブレードを具現化出来ないのは、ちゃんとした継承ではないから引き出せていないのだろう。
しかし、ソラは二人とは少し違う気がする。それでも、三人がキーブレード使いになったと言う事は――。
「アクア、どうかした?」
「あ…ううん、何でもないわ」
ヴェンの言葉に、アクアは思考を中断して首を振る。
その時、コロシアムの扉が開く。振り向くと、そこからウィドとゼロボロスが出てきていた。
「ウィド、もういいんですか?」
「はい、どうにか…すみません、恥ずかしい所を見せてしまって…」
心配そうに顔を見るアクアに、ウィドは申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「気にしてないって。俺の住んでる島でも泳げない人はいるし」
そんなウィドに、ソラが笑いながらフィローを入れる。
そんな中、カイリはある事に気づいてゼロボロスに問いかけた。
「あの、リクは?」
「彼なら、ルキルと話があるって。少ししたら戻ってくるよ」
その言葉に、ソラ達は首を傾げる。
気絶した二人を看病しようとした時も、何故かリクは「二人で十分だ」と言ってゼロボロスだけ残して半ば無理やり追い出したのだ。
「話? 何かしら?」
「同じ顔だったから、興味があるんじゃないのか?」
オパールとヴェンが顔を見合わせながら会話していると、ゼロボロスが話を続けた。
「あと、闘技大会もしばらくお休みするそうですよ。まあ、あれだけ中が崩壊したからしょうがないけど」
「あーあ、折角立て直したのにまたやり直しかなぁ?」
ソラが残念そうに頭の後ろに腕を組んで呟いていると、ウィドが不思議そうに首を傾げた。
「立て直した…? どう言う事です?」
「このコロシアム、少し前にある化け物の所為で思いっきり壊れちゃってさー。やっと直ってたから、俺楽しみにしてたのに…」
がっかりしながらソラが頭を下げるのを見て、カイリやアクアがクスクスと笑ってしまう。
同じようにヴェンやオパール、ゼロボロスも笑うので、これにはソラがむくれるて顔を上げる。
しかし、五人の笑い声がソラにも移ったのか、笑い声が六人に増えて辺りを包み込んだ。
だから、誰も気が付かなかった…――ウィドの目に怪しい輝きが現れた事に。
「壊れて、元のように立て直しただと…!? なんて素晴らしい技術だぁぁぁ!!!」
「「「「「ハイ…?」」」」」」
突然雄叫びを上げるウィドに、笑っていた六人の目が丸くなる。
そんな視線を諸ともせず、ウィドはコロシアムを見上げながら目を輝かせていた。
「少なくとも、材質の一部はかなりの長い年月で劣化しつつある部分まであるのだぞ!? そう、何処も彼処も新品とは思えないほどだっ!! そこを…それを再現する程の修繕をするとは何て腕の良い職人なのだぁぁぁ!!!!!」
「あ、あの…ウィドさん?」
マシンガントークを浴びせるウィドに、恐る恐るゼロボロスが声をかける。
しかし、ウィドは聞いていないようで即座に全員に振り返った。
「こうしてはいられない…!!! 皆の者、すぐさまこの闘技場を徹底的に調べつくすのだぁぁぁぁ!!!!!」
この言葉に、何が何だか分からずソラ達は茫然としている中、先ほどの『学者モード』を見て&味わったアクアとゼロボロスが音を立てて石化したのは言うまでもない…。