番外第一幕 その2
「神無のアルバムも見てみたいけど、此処はやっぱりチェルさんのアルバムが見たいわ」
「まあ、親子連続で見るより、別の場合も面白いってか。――ほら」
そう言いながらチェルはアルバムを広げる。最初に撮られた写真は猫に姿を変える女性イヴと共にタルタロスの夜景を背に一緒にとられている。
「…前置きに言うが、イヴとは親友以上恋人未満だからな」
「ああ、奥さん別にいたよな」
神無はチェルが以前に家族の話を聞いた時に彼の妻ウィシャスを聞いた。
元居た世界で天馬と駆ける姫で、とある事情からタルタロスへ逃げ延びた。そして、チェルと出会って恋に落ちて、今に至ると。
最初はイヴとの写真が多いが、次第にウィシャスと共に写る写真が多くある(最初はイヴも一緒に写っていたが次第に二人になっている)。
そして、ウェディングドレスを身に包んだウィシャスと照れているタキシードのチェルが写った写真がある。
「そういえば、私たちって結婚した時の写真撮ったかしら」
チェルの結婚写真を見て、思い出したかのように鏡華が無轟に問いかける。
無轟は首を振って、悔やんだような表情を見せる。
「あの頃は………な」
「そうね、あの頃の私の写真は撮ったら駄目ね」
((どんな状態だったんだよ……))
内心、声をそろえて不思議に思ったチェルと神無であった。
そうして、二人の写真が続き、一つの変化が伺えた。そう、ウィシャスの腹部が膨らんでいる。
つまり、妊娠している様子だった。そして、生まれた赤子と一緒に写る彼女の写真が撮られていた。
「お、この子はシンクか」
「ああ。この時は色々と大変だった」
頷いたチェルは遠い空を見るように憂うように言った。そうして、チェルのアルバムは賑やかな色合いを見せていた。
家族3人と共にイヴやタルタロスの住人たちと仲良く写ることが多くなっている。
「ウィシャスがイヴや他のものを誘う事が多いんだ。あいつは俺と違って人当たりはいいからな」
「全くだな」
「年取っても誰彼構わず噛み付くのはお前くらいだ」
「あら、意外とお若いのね」
「………この家族は………!!」
忍ばせている銃に手をかけようになったが、プルプルと怒りを噛み殺して冷静になる。
そうして、チェルは次のページをめくった。
「あ」
「お前もかよ!」
思わず神無が声を上げてツッコミしたのはシンクの寝小便写真だった。枚数は少年神無より少ないが撮っている事実は消えない。
チェルが思わず声を上げて、小さく「こんなのいつ撮ったんだ」と覚えが無いように見える。
そして、アルバムの隅に小さく撮影者イヴと書かれていた。
「……あの、馬鹿猫」
「不思議なのはイヴが撮った写真がなんでアンタのアルバムに組み込まれているかって事だ」
「……アルバム作るの興味なかったんだよ。最初は俺がしたが、シンクが生まれたあたりでウィシャスに代わってもらったんだよ」
(((なら、犯人は奥さんとイヴか)))
家族そろって思わず内心呟いた。チェルのアルバムではなくウィシャスとイヴのアルバムと変更するべきだろう。
チェルはため息を零し、ページを捲った。次のページには、シンクが主に写っていた。
射撃の練習や体術の練習など修練の写真など、成長をメインにした写真が多い。
「此処からは最近の写真だな。ヘカテーも写り始めてる」
「可愛い子ね。ヴァイちゃんとは違う可愛さね」
そう言いながら鏡華は写っていたヘカテーを褒める。
そして、チェルたち家族とヘカテー、イヴやアガレスといった仲間らで一緒に撮られた集合写真が現在のアルバムの終わりであった。
「アンタのアルバムと比べたら、結構薄いと思うが…」
「あら、そんなことは無いわ。すばらしいアルバムよ」
「そんな事言うと最後の俺のプレッシャーが半端無いぜ」
そう言って神無もアルバムを広げた。最初に張られていたのは無轟のアルバムにあった家族6人で撮られたものと同じだった。
それを見て、無轟と鏡華は何処か物悲しい表情で微笑みあった。
「まあ、俺のは月華とかも一緒に撮られているんだがな」
「月華?」
「幼馴染よ。仲良くしていたのに、ツヴァイさんと結婚しちゃって……私がちょっとの間面倒見てあげた事もあったわ」
「マジかよ、お前なかなか鬼畜だな」
「阿呆。そういう認識で接してないんだよ……あーも、ほら、これが俺とツヴァイの結婚写真!」
そう言って面倒な話を切り替えようと、恥ずかしい限りだが妻ツヴァイとの結婚写真を指差した。
チェルとウィシャスの結婚衣装がドレスとタキシードだったが、神無とツヴァイは和風の結婚衣装だった。
「何枚かは新婚の写真だな。春は花見、夏は海水浴、秋は月見、冬は雪ダルマ作り……だと?」
冬の写真、神無が作ったであろう特大雪ダルマを自慢げな表情で一緒に撮られていた(ツヴァイはその後ろで苦笑の様子でいる)。
こうしてみると無轟のアルバムと比べて、差異があまり無い。
「おいおい、でかい雪ダルマは男のロマンだろう?」
「……知らん」
「む、神月とヴァイの写真だな」
二人が話し合っている合間に無轟と鏡華がアルバムを読み進んでいた。
だが、彼らの事情を知っている神無は深く追求はしなかった。
無轟がそう言って写っている写真には産まれたばかりの神月とヴァイが写っている。
幼児に成長した二人が無轟、鏡華がそれぞれ一緒に写った写真もあり、二人は愛おしいように見ていた。
そうして、家族4人の写真があり、そこからは家族4人の思い出、神月とヴァイの成長の写真が張られていた。
「……」
気がつくと、神無のアルバムを無轟と鏡華が懸命に読んでいた。神無とチェルは頼んだ飲み物を飲みながら、二人が終えるのを静かに待った。
「―――あら、ごめんなさい。私だけで勝手に」
「いいさ。親父と母さんに見せて幸せなものだからな」
「ふ……親孝行な息子だ」
そう笑って無轟は神無の頭を撫で回す。続けて鏡華も神無の頭を撫でました。
「ちょ、やめ……め…………」
恥ずかしがっていた神無だがゆっくり黙りこくった。されるがままに撫でられていた。
その様子をチェルは優しく見守るように見つめて心に思った。
(こうしてもらえるなんて、もう無かった事だからな。嬉しいのは当然か)
そして、漸く撫で終えた二人は優しく微笑みを向ける。神無はくしゃくしゃの髪を直しながらアルバムを閉じた。
「――…さて、そろそろ帰るか。支払い済ませるから外で待っててくれ」
「ああ」
神無が支払いを終えて、店を出た。昼間に入って、出たのは夕暮れ時だった。
神無とチェルは聊か疲れがどっと感じたが、鏡華と無轟は満足げに微笑みあっていた。
「ふふ、楽しかったわ。ね、無轟」
「ああ…」
「さて、俺はさっさと帰る。じゃあな」
チェルはそう言って別れの言葉を交えずに闇の回廊を開け、タルタロスへと戻っていった。
その様子に神無はやれやれと肩を竦めていると、
「神無ー!」
遠くから声が聞こえる。声の方へ振り向くとツヴァイたちがこっちへとやって来ている。
それを見て、神無は二人に振り返って話し掛けようとした。
「親父たちも――――え?」
嬉々として振り返ると、そこにいたはずの二人が何処にもいなかった。
一瞬、理解が出来なかったが、その意味を理解したかのように神無は一息整えると、家族の方へと歩き出していった。
歩き出したそんな中でふと、二人の声が風のように過ぎった。
『これからもっと幸せになりなさい、神無』
『楽しかったぞ、神無。達者でな』
「――――ああ」
そんな暖かな両親の言葉が過ぎっていった。
■作者メッセージ
夢旅人「――以前、NANAさんが家族写真ネタを書いていたので、アルバムネタで改良してみた」
神無「寝小便に関しては極刑レベルで攻撃したいが―――……家族と話し合えた事で不問にしてやる」
イリアドゥス「まったく、私がウェイトレスとは。……存外、コスプレも悪くないわね」
オルガ「おお! イリアドゥスも同意してくれるか! コスプレしたい時は俺に相談してくれ、アーファに頼んでサイズも測ってもら――」
アーファ「いい加減にしろ、この変態!!」