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番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • KH 4-01


     セキの強さは圧倒的だった。
     体を変形させ、巧みに避けては肉薄する。攻撃動作と回避動作が同時であり、攻撃と防御を同時にこなせない対象は防戦に徹する他はなかった。
     雷光のバリアを突っ切り、黒コートの男に爪を突き立てた。フード破け、男の顔が露わになる。
     男の素顔。それを取り立てる人間はどこにもいない。
     それだけに、このセキの存在は厄介だった。
     なにせリスクを犯してまで相手にする必要がない。粉々に砕けた脆い心だ。
     しかし無視できない。ソラを追うことも放棄して抑えに回らなければならないほどに。
     相手はハートレスだ。常識も倫理も正義もない。背中を向ければ真っ先に切られるだろう。

    「……」

     アクアを乗っ取った『男』は苛立っていた。内在する『無貌の王』の抑えもある。先陣を切るわけにはいかない。
     最早、一瞬でも指一本程度さえ『無貌の王』を自由にさせるわけにはいかなかった。今度こそ合体・巨大化しだしてもおかしくない。
     しかもある程度他の5人から力まで貸してもらっている。いつもよりも性能が落ちた5人と心を殺した獣身のハートレス。
     戦況はシーソーだ。バランスが悪い。安定しない。隙を見せれば一気に傾く。
     白衣が焦げる。鎧が溶ける。武器まで焼ける。未だ健在のセキの炎と歪な体は、各々の感覚を狂わせていた。

    「――――どけ!」

     アクアの『男』の傍で怒声が響いた。一番にセキが視線を走らせる。
     ロクサスが、立っていた。

    「バカな……貴様、落ちたはず!」

    「約束があるんだ……邪魔をするな!」

     そう叫んで、ロクサスは両手を広げ――――キーブレードを握る。
     2本。
     右手が黒ずみ、左手が白く染め上げられた。闇と光。二刀一対のそれを目の前で交差させ火花を散らした。
     セキの動きが、止まった。
     瞬間――――セキが、吼えた。

    「ハートレスが……感情を出しただと……!?」

    『おまえ、アレを誰の指一本分だと思ってる? 俺だよ俺』

    「貴様は黙っていろ、たかが多重存在が……!」

    『…………いいから見ろ。この私の指一本の炎をな』

     セキの咆哮に怖気る素振りを見せず、ロクサスは2本のキーブレードを携えて歩み寄る。
     そして、キーブレードの間合いまで進み、ようやくロクサスは足を止め、セキの咆哮も止まった。
     幾拍かの静寂が闇に溶ける。
     セキはただ、じっとロクサスを見ていた。
     ロクサスは不意に、口を開く。

    「ヒスイには会えたのか?」

     セキは答えない。

    「そうか。なら約束はまだ果たせてないな」

     セキは答えない。

    「……おまえ、そんなになっても変わってないな。そのままだ」

     セキは答えない。

    「心が脆い。――――だから、果たせないんだ。約束も」

     セキが吼えた。
     恨み。悲しみ。情けなさ。怒り。それら一切が絡み合う轟き。
     瞬時に両腕が鎌に変形した。赤々とした炎を刀身に走らせ、両方からロクサスの首を狙う。
     しかしロクサスの突きの方が一瞬早い。セキは後方に吹き飛ばされる。
     よろよろと体を震わせるセキ。何度もその場で足踏みをしている。足取りがおぼつかないのか、それとも攻撃にかかる準備運動か。
     どちらでもいい――――そう決して、ロクサスは再びキーブレードを構えた。

     セキよりも強い者として。/心を導く年長者のように。
     同じく闇の住人として。/そのあり方を指し示すために。
     キーブレードを使う存在として。/理不尽に暴れる獣を調伏するために。
     ひとりの友人として。/その過ちを正してやるために。

     ――――魔を断つ剣を取る。

    「来いよ、俺が消してやる。……約束通りにな」




     ソラは走る。階段を駆け下り、ビビの残骸を横目に、淡く光るライトが照らした道を行く。
     螺旋状の坂道を下り、やがて辿り着いたのは――――耳鳴りがするほど広く、薄暗く、冷たい空間だった。
     もうこれ以上地下には行けない。そういった階段は見当たらない。
     空間は先にずっと続いている。遠く見える淡い光。それを目指してソラは歩く。
     そして――――。
     淡い光の輪郭がはっきりと長方形に見えてきた頃、ソラの行く手を人影が阻んだ。
     黒いフルフェイスのヘルメットで顔を覆い、紺色のラバースーツを着たその姿は、いつかのリクを思い出した。
     その影は徐にキーブレード――――ソラが見たこともないタイプだ――――を構える。腕を上げた上段の構え。リクに似ている。

    「誰だっ……!?」

     ソラの疑問に答える声はない。影が闇に紛れ、キーブレードをふるった。
     避ける。しかしキーブレードは追ってくる。二刀目。寸前で回避。
     ――――さらに踏み込み、三刀目。二度の回避で完全に体勢は崩された。避けきれない。
     ソラのキーブレードが受け止めた。火花が散る。闇が一瞬昼間のように明るくなった。
     顔の無い怪物がキーブレードで火花を斬る。
     二度目の斬り結び。三度目、四度、五度――――回数を重ねる度に剣の重みは増していく。
     六度目にはソラの手はしびれ、七度目でキーブレードは闇を舞った。
     キーブレードに飛びつく暇もなくソラは顔の無い怪物に蹴り飛ばされた。床を転がり、体を強かに打ちつけた。

    「くっ……」

     強い。そして隙が無い。
     相対していると否応無く晒される圧迫感。息を呑むような連続攻撃だ。
     おそらくこの顔の無い怪物は――――ソラよりも強い。

    「おまえは……誰だ!?」

     顔の無い怪物は答えない。キーブレードを握る。リクと同じように構えて、無言でソラに近づいてくる。
     ソラは今丸腰だ。キーブレードは遥か遠くに飛んでいった。手を伸ばして呼ぶには時間がかかりすぎる。
     先ほどのようにもう一本のキーブレードもどうやら呼び出すことができない。どうも別の誰かが使っているようなのだ。
     この顔の無い怪物から意識を外してキーブレードを呼ぶなど、できない。だが丸腰のままではどちらにしても――――。
     ソラは奥歯を噛む。どうすればいい。
     なにかないか。なんでもいい。今のソラにできることは。

    「…………!」

     意を決した。ソラは地面を蹴った。一直線、真正面から怪物に突っ込んだ。
     顔の無い怪物がキーブレードを振りかざした。鋭い踏み込み。ソラに合わせた縦一文字の一閃。
     ――――怪物の剣先に、服の切れ端が絡みついた。

    「…………」

     顔の無い怪物が背後に視線を走らせた。上着を刻まれながらもソラは怪物の脇をすり抜けた。怪物の後ろ――――向かうべき部屋に向かって走っている。
     ソニックレイヴの応用だ。一瞬のスピードを急激に高め、顔の無い怪物の攻撃のタイミングから逃げたのだ。
     キーブレードのないソラに、顔の無い怪物と正面から戦える魔法の力は無い。精々頑張ってもこの程度――――タイミングを図って、一度攻撃をやり過ごすのが限界だ。
     脇目も振らず、キーブレードの端のチェーンを指に引っ掛け、ソラは走る。次は無い。同じ手であの怪物はかわせない。ならば逃げる。先に用事から済ませたい。
     ソラは光の中まで逃げおおせた。怪物は、追ってこなかった。
     ――――ソラの背後で、剣戟が響いた。

    15/08/04 19:56 夢旅人   

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