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番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • 番外第一幕

    「―――で、なんで俺らがこんな場所でのんきに飲み食いしてんだ?」

     頬杖をつき、呆れたように口を開いたのは神無である。
     場所は見知らぬ世界の、見知らぬファミリーレストランの一席。最も、此処には家族では来ていない。
     この一席に同伴しているのは無関係な者同士であった。

    「さて。作者が『此処で適当に飲み食いしながら話し合え』って無茶振り残してくれたからな」

     神無の隣、そこには今の神無の年齢と同じほどの壮年の男――無轟が自ら注文していた食事を平らげ、冷水を飲んでから息子の疑問に賛同した。

    「……まったくだぜ、ほんと」

     最初、神無は此処に来て、何食わぬ顔で死んだ父親が悠々とファミレスの席で飯を食っている。
     そんな怪現象に巻き込まれたのかと呆然と仕掛けたくらいだった。色々と追求したが、親父は「気付いたら此処に連れて来られた」と言ってそれ以上は言わなかった。
     神無も半ば諦めて、父親と共にファミレスで暢気に食事を取った。勿論、募る話もあったが他の同行人のお陰であまりできていない。

    「せっかくの親子水入らずに悪いな。俺も呼ばれた」

     そういったのは二人の前の席に居たチェルだった。自分が頼んだ食事を食べ終え、コーヒーを口にしている。
     そして、神無は内心思う。こんなファミレスの場におっさんが3人そろって飲み食いしている光景が奇妙すぎると。

    「構わない。そういえば、此処にくる時、『アルバム』を渡されたよな」

    「ああ、これだろう?」

     三人それぞれが手に持っているアルバム、それにはそれぞれの家族の写真が収まっていた。
     チェルは自分の持つアルバムを見て、小さく苦笑を浮かべる。

    「アンタは親子だから、アンタの思い出の写真もあるんだろうな」

    「! ああ、お前は確か……」

    「ハッ、気にするな。こうしてアルバムがあるんだ、お互いに見せ合いっことしゃれ込まないか?」

    「ふむ。無茶振りのネタにされたのが聊かの癪だが悪くない」

     そういって、無轟は通りかかった店員に平らげた食器を下げて貰い、追加の飲み物だけを頼んだ。
     まず最初に広げたのは無轟のアルバムだった。写真は若干古い状態で残されている。
     神無は聊か渋い表情を見せる。恥ずかしさやら様々な感情が混ざった表情だ。チェルも無轟もそれには突っかからず、にやにやと笑んでいた。
     それを見て、一層に神無は険しい表情を見せるも、アルバムからは目を離そうとしなかった。

    「これがアンタの奥さんか」

    「ああ。鏡華と言う」

     一つの写真を指差して、問いかける。無轟は頷いて、指差されている女性の名を言う。
     淡い藤色の着物を着た、長い黒髪を後ろで結って肩口で流している彼女は小さく微笑んでいる。
     彼女が抱きかかえているのは幼児の神無、隣の男性は無轟本人だ。

    「やっぱり、若いな。お前だ」

    「若いのレベルが途方もねえんだがな」

    「ふふ、もっと色々あるぞ」

     そういって、アルバムをめくり始める。様々な写真が撮られていた。
     家族そろって花見をしている写真、海で豪快に神無を持ち上げて笑う無轟、
     秋月の夜で艶やかに微笑む鏡華、自信作なのか雪ダルマを自慢げに誇っている少年神無。
     更には神無が寝小便を自身の布団に汚してしまい干しながら鏡華に怒られ泣きじゃくっている写真。

    「く、くっくく……!! これは傑作だ…! ははは…!」

    「わ、わわわ笑うな! くそ、親父もこんな写真を残してるんじゃねえ…!!」

     チェルは思わぬ写真を瞠目し、笑いをかみ殺しきれずにむせるように笑う。
     さすがに店にいる事を考慮してか、思い切り声を荒げられずに顔を赤くして呻く神無を無轟はくすくすと笑う。

    「何を言う。これは今でこそ輝く。……全てが宝物だ」

    「……」

     その言葉に笑っていたチェルも、怒りを込めていた神無も落ち着いたように黙ってしまう。
     それを見て、伽藍は苦笑を交えて二人に言う。

    「おいおい、気にする事は無いさ。――ついでに、もっと撮っている」

     そういって、両面に神無が寝小便して布団を濡らし、鏡華、挙句無轟まで怒られて泣いている写真が貼られている。
     寝小便写真の一番最後の一枚の下に小さく『神無、最後の寝小便』と書かれていた。

    「ぶっ!!」

    「この、く、そ、お、や、じぃ……!!」

     まさしく『寝小便シリーズ』を見せ付けられた事で落ち込んでいた気分が吹き飛んだ。
     チェルは再び噴出して笑い、神無は顔を赤くし憤怒の声を上げる。

    「――お客さま、店内ではもう少し静かにお願いします」

    「! ……す、すいません」

     鶴の一声のように女性店員が3人を注意する。神無はハッと我に返って女性店員へ振り返って謝った。

    「―――は?」

     神無は注意してきた女性店員を見たが、思わぬ人物に唖然とする。

    「フフフ。店内ではなるべく静かに、ね」

     女性店員―――ウェイトレス衣装を身に纏ったイリアドゥスがあやすようにクスクス笑った。
     神無はもう何も言うまいと諦めの底へ達した顔で何も言わずに座った。そうして、イリアドゥスも戻った。

    「おい、もう無えだろうな……寝小便写真」

    「ああ。文字通り『神無、最後の』」

    「無いなら他の写真はあるだろう、次捲れ、次」

     無轟の言葉を無理やり遮って神無は不貞腐ってため息ついた。無轟は次のページをめくり、新しい写真を見せる。
     そこには剣術を学び始めた胴衣を身に包んだ汗だくの少年神無が撮られている。
     チェルはほう、と小さく感嘆した声を漏らし、無轟が写真の説明をする。

    「剣術を教え始めた頃だ。特に教えようとしたわけじゃあないが、俺が剣を振るう様が好きだったようでな。それで教え始めた」

    「……そんな理由だったか?」

    「そんな理由だったさ」

     神無の問いに笑みを交えて返した。写真にはその成長を追うように張られている。
     様々な思い出が詰まったアルバム最後の両面ページ、彼の妻となる女性ツヴァイや赤子の神月、ヴァイが新たに加わった家族6人の写真がある。
     6人らで撮られた思い出、残りの枠は2枚。1枚目、張られた写真は一人がいなかった。鏡華だった。
     そして、最後は、無轟がいない。家族4人の写真だった。

    「これが、俺の思い出さ」

     静かにアルバムを閉じ、無轟は言った。

    「嬉しい思い出も、悲しい思い出も全て―――俺の思い出だ」

    「………」

     今度こそ完全に返す言葉を失った二人。特に神無は何処か涙を溜まっていた。
     すると、静まり返ったそこへ。

    「――そうね。死もまた思い出になる、わね」

     そういいながら彼らの前に現れた女性。3人は顔を上げ、女性の顔を見た。
     その女性は最初に撮られた鏡華と呼ばれた女性と瓜二つ―――否。

    「鏡華…! お前か?」

    「ええ。ツヴァイさんたちと買い物に行ってて此処にくるのが遅れたのよ」

     そう言って彼女は空いているチェルの隣に座る。やって来たイリアドゥスに飲み物を頼み、話を続ける。

    「神無…あなた、結構老けたわね」

    「親父と同じくらいの年なんだ。老けて当然さ」

    「そうね。無轟に似てきてるわよ」

    「ほめ言葉と受け止めるぜ」

     この家族の会話に、チェルは一息ついてから口を開き、立ち上がった。

    「―――俺は席をはずした方がいいかもな。家族水入らずに」

    「いいじゃない。あなたも座りなさい」

     立ち上がったチェルに言い知れぬ威圧感を込めた鏡華の一声が放たれた。
     それにチェルは思わず座ってしまった。

    「……おい、お前の奥さん……」

    「怒った鏡華は俺より強いぞ」

    「もう、そんなこと言わないで下さいな」

     照れくさそうに笑う無轟に、顔を赤くして恥ずかしがる鏡華。
     そんな親の子である神無は二人を見ながら、やっぱり似た者夫婦だ、と内心呆れた。

    14/04/19 23:52 夢旅人   

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