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番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • KH 1-06

     金髪金目。浅黒い肌にその髪と目はよく目立った。
     闇の中にいても十二分な存在感を放つ。その強い覇気を見せつけられてソラは納得した。
     ハートレスの王。闇の王。この街の雰囲気を最も強く吸い込んだ――――魔的なまでに王者。

    「……王様……直々に?ここまで?」

    「我が衛兵を蹴散らしたんだ。それなりのもてなしをせねばなるまい。――――なぁ?」

     闇の王が階段を降りる。左半身を隠す外衣がゆらゆらと揺らめき、露出していた右腕を無造作に掲げた。
     掌から何かが吐き出された。
     それは、一本の杖だった。特別な目立つ装飾は見られない。簡素で――――それ故に、扱いやすさと攻撃能力を保証した打撃武器だ。

    「……こいつは俺に任せて!」

     身を翻し、ソラは闇の王にキーブレードを向けた。横目でちらりとセキを見る。

    「待てよ。こっちの黒い奴、お前の追いかけているやつだろ。それを――――」

    「セキにあいつの相手はできないよ。そんなことさせられない。おまえ、あいつが出てきた時からさ……震えてるだろ」

     セキは片腕を抱く。震えている。すぐ近くに炎がある。寒いわけではない。

    「……すまない」

    「こわがることは良いことだよ。心が健康な証拠だ…………って、前に友だちが言ってたんだ」

    「心が……」

    「ヒスイ、ちゃんと取り返せよ」

    「……わかった」

    「まったく……薄情だとは思わないのかな、君は」

     杖を携え、闇の王は階段を降りてくる。階段を打つ靴音が心臓の鼓動のように場を満たしている。
     ソラはキーブレードを握り、半身後退した。

    「おもうもんか……俺が行けって言ったんだぞ」

    「違いない。相違ない。矛盾ない。――――では、光の勇者に今一度問おう。この私を討ち倒し、その手に勝利を掴む自信はありや?」

    「そんなことはわからない……!」

    「ほう」

    「それでも!やらなきゃいけないんだ……約束を守る為に」

    「約束……てめぇとアレにその必然が?ねぇだろ、んなもん」

    「確かに、俺はセキのこともビビのこともまだよく知らないよ。ヒスイとなんか話してさえいない。
     ――――でもさ。ヒツゼンって、なんだ?」

    「僕に問うか。なかなか器が大きいな、光の勇者は。では、答えてあげよう。
     それは見返り……欲望と言い換えてもいい。キミになにかプラスはあるのか?」

    「セキ達のつながりを取り戻せる。おまえに取られた全てをさ」

    「つながり。絆。なるほど、実に光の勇者らしい。さながらおまえはこの因果の鎖、その中心のようだ」

    「……は……?」

    「それは世界を支える一本の大樹、幾重もの因果の鎖を編みあわせるそれは、蜘蛛の巣のようだな。…………勇者、おまえは蜘蛛か?」

    「――――」

     ソラは絶句した。
     会話にならない――――いや。それ以上に。

     この一連の会話の中で、ハザードは何度一人称を変えただろう。まるで台本を朗読する役者のようだ。一小節ごと、息づく度にハザードは形を変えていく。見たとおりの姿かたちとは違う。伝わってくる雰囲気。オーラとでも言えばいいのか。心の色が定まらないのだ。
     さながらそれは、万華鏡のように、コロコロと回り、巡り、変化を続ける。
     得体の知れない異質感。それが爆発する。

     なんだ?いったい、今自分の目の前にいるコレは――――?

    「…………俺の通り名を思い出してくれたか?
     闇の王、
     ハートレスの王、
     亡者の皇帝、
     禁断の果実、
     ワールドドミネータ、
     秘密の名、
     混沌なる者、
     吸血鬼…………さて、どれを聞いたかは知らないが、つまり私はこういうものだ。
     ――――無貌の王。余はその名を最も好ましく思う」

     無貌の王。
     貌の無い王。
     それは、すなわち――――誰かであり、誰でもない。ということ。しかし王である。
     それは、つまり。
     存在しないもの。存在しない王。
     ありえない。しかしどうして、その無慈悲で不条理な名乗り上げには説得力がある。

    「ハザードとかいう『通称』も正直気に入らん。わたしを災害かなにかのように。――――こんな美少女を相手に、なぁ?」

     ハザードの、【無貌の王】の手がソラに触れた。口から手を突っ込まれて心臓を鷲掴みにされたような、そんな圧力が全身を押しつぶす。
     【無貌の王】は不敵に笑った。ソラの頬から手を離す。

    「恐れ入る。さすが光の世界に名を馳せるキーブレードの勇者というところか。これだけの『猛毒』を浴びて、ピンピンしている」

    「はっ……!?」

     猛毒?
     浴びた。ということは……どういうことだ。
     空気に混ぜて吸わせたということか?それとも触れたのは接触感染が目的なのか?
     いずれにせよ、既に浴びて――――しかし、ソラは無事だ。

    「強く、そして歪みのないココロをしている。実に素晴らしい。
     ……俺も少し盛り上がってきたよ。こんな得物は、少々無粋だな。少し、そちらの流儀でお相手してもらうとしよう」

     そう言って、【無貌の王】は杖を掲げた。空間が歪み、その中に杖を突っ込んだ。
     空間の亀裂が紋様を描く。毒々しい紫色にラインが星型の印を刻む。
     そして、【無貌の王】が空間から掴み取ったのは――――輝く『鍵を象った剣』。

    「キーブレード……!?」

     声を上げるソラき、【無貌の王】がキーブレードを振り下ろす。
     交差する鍵と鍵。チリチリと青白い雷光が火花のように飛び散った。
     ソラの心奥がぐらりと揺れた。動揺。否、揺さぶられたのだ。
     痛みが走る。内臓を掴まれ、無理矢理引き千切ってでも奪い去っていこうとする。この感覚。
     ソラには覚えがある。経験がある。この痛みは、かつてホロウバスティオンでリク――アンセムから受けたものと同質だ。
     人の心の扉を開く、人の心のキーブレード――――!

    「余好みの特別製だ。見事であろう?」

    「これの……こんなもののためにっ……いったい何人の心を奪い取ったんだ!?ハートレスみたいに!」

    「知らんな。所詮は食べカスの寄せ集めだが……ま、それでもこの通りの性能だ。俺様の卓越した技巧もだが、何事も積み重ねだよ、勇者。釣銭を募金箱に入れておけば、その内貯まって――――」

    「おまえぇえええええ!!」

     力任せにキーブレードを振りほどく。【無貌の王】が後退した。
     ソラはキーブレードを構え直す。姿勢を整え、青い双眸は不敵に笑う【無貌の王】を睨みつけた。

    「絶対に許さない……!人の心をおもちゃみたいに!」

    「みたい、じゃあない。真実、玩具だよ。こんな非効率な道具になんの価値がある?道楽以外の方法で使えるものか、こんなもの」

     【無貌の王】の言葉をキーブレードで切り捨てた。ソラが【無貌の王】に打ち込み、刃金同士が雷光飛ばす。
     襲い来る剣圧を踏み込みで押しやり、ソラは【無貌の王】に肉薄した。
     恫喝するように吼えるソラをよそに、【無貌の王】は薄笑いを浮かべている。さながら、心など――――貌など持っていないと言わんばかりに。

    「さて、わたしと一緒に踊りましょうか、勇者。心ゆくまで剣戟を楽しみましょう?」


    15/07/06 21:09 夢旅人   

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