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番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • KH 3-08


     赤い閃光。
     二条のそれが闇を裂いた。初手を避け、二手目を受ける。キーブレードが悲鳴とともに火花を上げる。
     刃金と刃金が交差する。熱量が散る。闇が破裂する。ソラは顔を歪めた。
     両刃の武器がソラの頭上を越えていく。鎧の拳が上着を掠める。赤い光剣をキーブレードでいなし――――とうとう、黒い腕がソラの肩を押し込んだ。

    「卑怯だぞっ……!」

     6対1だ。捌き切れるはずもない。
     屈強なハートレスの黒い腕に押さえ込まれたソラを、浅黒い肌の女性が見下した。肩にキーブレード然とした武器を担ぎ、吐き捨てる。

    「『世界の心のキーブレード』。計画には必須だ。そしておまえは私の生贄としても良質。――――手を抜く理由もあるまい」

     空手を虚空に掲げ、闇を掴む。闇は剣の――――否、鍵を象った。
     『人の心のキーブレード』。
     リクが、そして無貌の王が握っていた代物と同じレベル。そのふたつと相対したソラの直感がそれを伝えた。

    「なんでおまえが……!」

    「私がこれを持てて、なんの疑問がある?」

     混乱するソラに『人の心のキーブレード』を突きつけた。
     リクの使っていたものとは違う。プリンセスの心ではない。
     無貌の王は言っていた。心をかき集めたのだと。世界で7人のスペシャルを、誰もが持っている心の最も純粋な一雫を積み重ねることで代用し、作り上げた代物なのだと。
     必要なのは膨大な心。抽出の手間。時間。気が遠くなる様な話のはずだ。
     一朝一夕で実現など、およそ不可能だ。であるならば――――!

    「……おまえ、まさか……」

    「その通り、無貌の王をジャンクションしたんだよ。
     ……尤も、そうでもしなければこの『光の守護者』のひとりをここまで完全に屈服させるなど、できるはずもなかったのでね。
     この女の屈服が楽だったおかげで、すんなりロクサスも落とせたよ。見るか?」

    「どうするつもりだ……みんなの心を返せ!」

    「吼えるなよ。何事もバランスだ、若きキーブレード使いよ。光と闇の拮抗こそが、世界を正しい姿に導くのだ」

    「なにがバランスだよ……みんなを滅茶苦茶にして!なにが正しい姿だ!」

    「……やはり、視野が狭い。……この男といい、キーブレード使い特有だな。考えてもみろ。
     折角、こうしてクズからここまでの力を昇華できる術があるのだ。手に入れ、試してみねばなるまいて」

     女は笑った。顔を歪め、ソラの頬をキーブレードの先で叩く。
     ――――聞く耳を持っていなかった。
     自分の正しさを頑なに信じ、自分の心に準じる生き方。
     正しく――――本当に正しく、キーブレードに選ばれた勇者の生き方だ。
     だが、ソラはそれを認めるわけにはいかない。
     踏みにじられた。この体ではない。大切な仲間と友達の心を。
     ――――この『男』は。

    「……許さない!」

    「だとすればどうする? その怒りのまま、闇の力を求めるか? たとえ闇を手にしたところで、おまえの付け焼き刃では勝てんぞ、この私に」

    「――――違う。俺の武器は力じゃない」

     『男』の顔が疑念に揺れた。一抹の不安。焦り。困惑。
     意味深に、遠回しの言葉を多用して相手に意味をまっすぐ伝えない『男』が、今度はソラの言葉の意味を取りあぐねいている。

    「なにを……っ?」

     『男』の『人の心のキーブレード』を掴んだ。『人の心のキーブレード』の刀身に緑色の閃光が波紋のように伝播した。
     波紋がキーブレードの取っ手を伝い、『男』の手に到達する。
     『男』の表情がまた歪んだ。

    「貴様……!」

     恫喝する。『男』は理解したのだ。ソラのやろうとしたことを。
     キーブレードを伝い、この女性の体の神経《サーキット》を走り、『男』に接続《ジャンクション》するつもりだ。
     さながらそれは綱引きだ。であれば、無貌の王を吸収して手を増やし、慎重に細い糸を手繰り寄せた『男』にも敗北の芽が出てきてしまう。

    「ちっ……力を貸せ!」

     『男』が吼えた。周囲の5人がそれに応じ、『男』が黒色のオーラを噴き出した。蒸気機関の白煙のように、身体中から黒い覇気が滝のように発せられる。
     心を縛る拘束が一気に強まった。手の数は単純に5倍。ソラひとりではおよそビクともできないほどに強固に変わる。


    『――――だが、俺の拘束は甘くなったんじゃあないかなぁ?』

     耳を舐めるようにねっとりと発せられた言葉は、『男』は背筋を震わせた。

    「バカな……無貌!貴様ぁぁぁ……!!」

    『吸収という手段は実に良いぞ。およそ私を封印だの討滅だのを狙うより、よっぽどベストだ。封印なんておよそ不可能だし、滅するなど……くくっ、なんだ?それうまいのか?
     私の力を発散させて抑止する分を減らすアプローチはベストだよ。太鼓判を押そう。ナデナデしてやろうか?ん?』

     だがね――――背後から頬を冷たい手で撫でられるような不快感がソラと『男』を同時に襲った。
     キーブレードを伝う波紋が共振を始める。刀身は震えを大きくする。もくもくと黒煙が噴き出してくる。

    『アクアとソラ、ふたりの勇者と余を一度に抑えられるわけでは、ないようだな?
     おかげで口出し程度させてもらえるようになったのでな……こうして挨拶に参った次第である。
     案ずるな。今の余の力程度では、貴様もアクアも屈服させて表に出るなど、とてもとても』

     キーブレードから膨大な闇を噴き出しながら、無貌の王は言った。――――白々しい。キーブレードという『心』を媒介にここまでの濃度の闇を送り込めるような力がありながら。
     ――――ソラにももう、この無貌の王の意図は理解できた。
     この無貌の王はソラと『男』の戦いを「観戦」する気なのだ。それも「プレイヤー視点」という超級の特等席で。

    『でもぉ、これってちょっと……チート過ぎない? 探求者《ザ・フール》。私を吸収って。私これでもラスボスよ?』

    「……私の実力だが?」

    『笑えない結果論だよ、それ。……ま、しょうがないからそれに従ってやるとしよう。
     ジャッジマスターのこの僕が、厳正なるゲームジャッジを下してやるよ。まず拘束は甘い。この通り僕は指一本、舌一枚程度に自由がきく。
     …………チートをノーリスクで使えると思っている思い上がりに、ロウの裁きを与えるよ。この自由な指一本分、勇者に力を貸すとしようか』

    「指一本……?」

    『何ができると思う?――――何も。何もできはしない。ただ少し……背中を押してやる程度だ』「なに……?」

     『男』の顔が一層険しくなる。同時に。
     キーブレードから噴き出した闇が、像を結んだ。
     編まれたのは腕。そして脚。胴。そして頭。五体が繋がり、一個の人体を吐き出した。

    『少々、私としても情けない話だがね。こうして闇に落としたばかりの出来合いしか用意できないんだ。
     いやまいった。料理下手な新妻気分だよ。まぁ――――こんなものでよければ、召し上がれ』

     そう言って、無貌の王が指した人体。
     ソラは知っていた。

    「セキ……」

     ハートレス・セキのものだ。ソラの傍でうつ伏せに倒れている。
     慌てて手を差し伸べようとして、心がそれを制止する。
     セキの目。暗く鈍い光を放っている。
     ――――ソラが幾度となく相手にし、斬ってきたハートレスのものだ。

    「どうやら……ただの『使い魔』を寄越しただけのようだな」

     『男』は断じ、ソラに前蹴りを食らわせた。ソラが吹っ飛ぶ。よろよろと靴底で床を掴み、キーブレード両手で握った。
     無貌の王の介入はこれ以上見込めないだろう。
     相手は6人。ぐるりとソラの周りを取り囲んでいる。逃げ場はない。
     戦う。しかし――――どうやって――――?

    「無貌の王の『使い魔』……であれば、その因子を持ったこの私の言うことに従うはずだな?」

     『男』がセキに手を差し伸べる。セキは虚ろな目でそれを見上げている。さながら従順な飼い犬のように。
     行け。『男』が静かにそう命じる。セキは機敏な動作で跳ね起きて、両腕を黒い鎌に変形させた。
     ソラは生唾を飲み込んだ。キーブレードを握り直し。集中――――。
     セキが仕掛けた。




     『男』を斬る。

    15/07/13 22:56 夢旅人   

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