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番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • 番外第二幕 その9


     鏡華が次に意識を取り戻したのは夜の闇から明ける頃だった。
     そこは崩壊した城の近くにある小さな湖の辺だった。しかし、幽閉されてきた彼女は何も知らない。
     風や、水の音、外の空気が、彼女にとっては全てが、何もかもが始めてのものだ。

    「―――…………んっ」

     身を起こすも躰に痛みが走り、起き上がれず倒れこむ。
     気づくと霞んだ視界に、自分を斬った少年が傍に座り込んでいた。
     彼も気づいたのか、彼女に近づき、声をかける。

    「目覚めたか。生きてるか?」

    「……っ」

     鏡華は困惑と敵意の眼差しで返した。その眼差しに別段気にも留めず、彼は一応の説明をした。

    「あそこでお前を斬ったのは、お前を覚醒させる為にやっただけだ。
     力の統御がされず、支配下においていないお前の技量、錬度の無さを呪っておけ」

    「……」

    『あはは…ほんと、悪いとは想ってるんだけどねー。あの状況は仕方なかったわけだから。
     ま、君は漸く―――外の世界を知ることが出来たってことでお相子で』

     無轟の言に、見かねたのか炎産霊神が現れ、彼女に謝すように言うも開き直る。
     外、と言う言葉に鏡華は反応して、再び身を起こそうとする。

    「見えるか?」

     起き上がろうとした彼女を無轟が躰を支えた。彼の問いかけに、鏡華は視界に広がる光景を見つめて、漸く言葉をつむぐ。

    「―――これが世界なのね…」

     この目に広がる光景も、何もかもがすばらしく尊いものだと想った。
     そうして、しばしの沈黙の後、無轟が口を開いた。

    「鏡華。お前が望むなら俺と共に来ないか」

    「え?」

     唐突な同行の誘いに思わず彼へと振り向いた。

    「…此処はお前一人で生きていけるほど生易しい世界ではない。――お前次第だ」

     口走った彼は真面目な様子で説明する。
     鏡華は黙して思考を廻らせ、しかし、その無意味さを笑う。小さく笑みを零した彼女は彼へと顔を近づけ、

    「なら、私はあなたと共に行くしかないわね」

    「そうか。なら、今は少し休むんだな」

     強面の表情に穏やかさの色を宿った声で寝かし込む。
     彼が傍にいるお陰か、直ぐに眠気が襲い、ゆっくりと瞼を閉じて、再び眠りに落ちる。
     寝息を立てる彼女を見てから、炎産霊神が彼に言う。

    『無轟も少しは眠ったら? ずーっと起きっ放しだったんだし。何かあったらすぐ起こすよ』

    「ああ…そうするよ」

     そう応じる声に眠気は混じっており、彼はそのまま座った臨戦姿勢のまま眠りに着いた。
     炎産霊神は眠りに落ちた二人を見て、その後、微苦笑を零した。




     その後の3人の旅は1年もの間を経て、故郷の世界を巡る事にした。その間ずっと無轟が戦い続けた。
     しかし、この世界の閉塞感に憂いを感じて、ある日、一人の人物に出会った。
     『器師』伽藍。様々な世界を渡り歩く存在『旅人』と出会って、3人は『ソト』へと出る決意をする。
     彼の協力により、無轟の愛刀『明王・凛那』が造られ、様々な世界へと旅する事になった。

     更なる旅路の中で、無轟と鏡華は自然と惹かれ合うようになった。
     それは人の居ない幻想的な世界で、訪れた異分子たる彼らへ襲い掛かった火の粉を払うように激しい戦いが起きた。
     その戦いは退けたものの無轟は傷を負い、身を隠すように洞窟で休息をとることになる。

    「―――……此処は人が着ていい場所ではないのだったな」

     傷を負いながらも、彼は静かに呟いた。新しい包帯で躰を巻き、少しの安息をかみ締めた。

    『だからって熱烈な歓迎だったね』

     炎産霊神は相変わらず陽気に笑いつつ、その顔がまったく笑みすら浮かべていないことから険しさを抱いている様子だ。

    「……傷、痛むの?」

    「っ……問題ない。
     が……さっさと別の世界に移動すればいい話だが、また同じような世界だったらこんな躰だと返って面倒だ。少しの日にちだけ此処で休むとしよう」

    「バレないかしら…」

     異端な存在である自分らにこの世界に安静の地などあるのだろうか。そんな不安な様子の彼女に無轟は諭すように言う。

    「もし本当に排除するべき存在だったなら、こうして休めていない」

    「ええ、そうね…」

     無轟の衰えない自信と覇気に鏡華は安堵して、頷き返す。
     安心した彼女の返事に、彼は微笑み返し、身を横にした。

    「鏡華。俺は回復のために眠る。炎産霊神も居るが、何かあったら直ぐに呼んでくれ」

    「わかったわ」

     そう言って無轟は眠りに着いた。傷を負いつつも、直ぐに眠ったあたりまだ癒えていないのだ。
     無視しながらも動き続けようとする彼に、鏡華は戸惑いながらも彼を見据える。
     彼はずっとそうだった。どんな世界でも、彼は戦う選択肢があるのならそれを敢えて選ぼうとする。
     そして、彼は何度も戦い抜き、生き抜き、傷ついていった。

    『―――僕の力でも流石に傷の回復が悪いね。無理させちゃったかな?』

     無邪気に言っているのか、それともわざとなのか、疑心を抱きつつも、鏡華は声を抑えて、傍らに居る炎産霊神にたずねた。

    「あなた、どうして彼と契約したの?」

    『ん? 無轟から聞いていない?』

    「……無轟は詳しい事、教えてくれないのよ」

     遅れて返した言葉に、炎産霊神は少し考えるような素振りをした後、笑みを浮かべて言う。

    『まあ、別に深い意味は無いよ? 僕が居た古い祠に彼が偶然やって来たんだよ。
     飢えやら何やらで瀕死だったんだけど、そのまま放置しても寝覚めも悪いし、何よりも久しぶりの客人(まれびと)だ』

     そう語る彼は笑みの色を深めていく。捧げられた贄を見るように、無邪気に笑う。

    『僕はこう語りかけた。
     “そこな客人よ、そのまま骸を曝して果てるか、我が契約に応じ、生を得るか?”って。
     “但し、捧げられしその生は我がもの。お前に安寧は約束されない。それでも欲するか”―――彼はゆっくりと応えたよ』



    「無限に続く戦いの生でも、俺は欲する。人生は是、戦いだ」




    『―――その言葉で僕は彼の契約を結んだ。彼に戦いの選択肢を与えたのは僕だ。
     だが、“選択し続けているのは無轟自身”だよ。……鏡華って、僕が悪ーい神にでも見えたー?』

     からかう様に言う彼に、鏡華は表情を険しくして、直ぐに応えれなかった。
     今まで見てきた二人のやり取りにそう抱いたのだから。
     炎産霊神は別段、気にしていないよと前置きしてから話を続ける。

    『本当は、僕は自由になりたかった。いろんなものが在るってことが知りたかった。
     だから、無轟が僕の元に来たことが何よりだし。僕の力を貸し与える事も、自由が広がるなら安いものだ』

    「―――」

     同じだ。
     鏡華も、炎産霊神も、同じだ。
     自由。
     それこそが、二人が無轟を繋いでいる深く、強い縁である事。
     炎産霊神(かれ)は彼という存在と契約して、自由を得た。
     鏡華(わたし)は彼と言う強大な力によって、自由を得た。

    「私も……あなたと同じ」

     その確信と共に呟く彼女の言葉を、彼は陽気な笑みでなく、何処か優しげにだが、真剣な表情で頷き返した。

    『奇遇だね。僕たちは偶然にも無轟と言う存在に出会い、自由を得た。
     僕が与えられるのはせいぜい力だけだ……それ以外は、君が与えてやって欲しい』

    「私が……与える?」

    『そう』

     彼は彼女へと指をむけ、その先に小さな火を点す。

    『僕と言う火、君と言う火で、無轟を炎の様に満たしてあげたい。彼が満足のいく生を与えたい。
     今も戦い続ける彼に、自由を与えたいんだ』

    「……自由」

     鏡華は炎産霊神の言葉を受け止めるように手に胸を添え、頷く。

    『君にしか、できない』

    「私にしか、できない」



     いつしか休息の一夜が明け、回復し切った無轟は鏡華をつれて、別の世界へと移動した。
     鏡華は内心、不安だった。先のような世界は故郷の世界と同じく危険だった。
     しかし、無轟はそんな不安な彼女の様子を知ってか知らずか、何も言わずに移動に躊躇しない。

     そんな二人にして三人が新たにたどり着いた場所、そこは緑と調和した世界――メルサータ。
     先の危険な世界と打って変わった平穏な世界、無轟は自然に囲われながらも発展している町が見通せる丘(それなりに有名な場所らしい)に居た。

    「……」

     丘の地面に気楽に座り、吹く風に伸びた黒髪を流しながら想いに耽る。
     この町の人間らに話を聞いた所、ここ百年以上前から大きな戦争など物騒な争いは無いと知った。
     それに対して、別段の驚きは自然と感じなかった。
     そうなのか、と流していた。

    「もう、探したわよ」

     鏡華も無轟とは別で町中で自由行動をしていた。
     が、見慣れない人間が丘に向かったと聞いて渋々(確認の為の人物相を確認して)向かった。
     彼女の呼びかけに、無轟は振り返りもせずに口を開く。

    「―――どうだ、此処はいい世界か?」

     無轟はいろんな世界へ辿り着き、鏡華に最初に話題を振る時は決まってこの質問だった。
     先の危険な世界でも同じように言って来た時は流石に呆れ果てた。
     とりあえず鏡華は彼の傍らに座り、その問いかけに応じる。

    「そうね…平穏な、とてもいい場所だと想う」

    「そうか」

     淡々と頷き、彼はじっと広がる光景を見据えていた。
     そんな彼の隣に、座りつつ、鏡華は意を振り絞って、彼に話し掛ける。

    「無轟は、こういう場所はやっぱり嫌なの?」

    「……」

     彼は黙して、視線だけが彼女を捉える。
     その目には話の続きを望んでいるように見えた。射竦められた気分だったが、鏡華は話を続ける。

    「戦いのある世界のほうが貴方にとっては、いいのかしら……?」

     その言葉を淡々と受け止めたように少し熟考し、そうして、口を開いた。

    「鏡華―――『理想郷』という言葉は知っているか?」

    「え? ええ…一応は」

    「お前にとっての理想郷、俺にとっての理想郷、誰かにとっての理想郷―――それぞれ異なるだろうか」

     そう呟いた彼は何処か儚く笑って、彼は話を続けた。

    「確かに、俺は戦いが好きだ。―――いや、好きになってしまったんだろう。それでも、安らぎの場所を望む俺が居る」

    「……」

    「それがどこに在るのかわからないな…。もしかすると、何処にもないのかもしれないが」

     そうして、彼は笑みを収めて、静かになってしまった。
     それでも鏡華はあの時の会話を想いに抱きつつ、意を決して口を挟んだ。

    「無轟…貴方がいいのなら、私……」
     
    「?」

     言葉を詰まらせた彼女に怪訝を思って振り向く。彼女は顔を真っ赤にしながら言葉を振り絞ろうとしている。
     その様子を彼は黙し、じっと見つめている。鏡華はその視線に余計に混乱しかけるが、それでも言葉を吐き出す勢いで言う。

    「ッ一緒に、暮らしましょう!!」

    「――――」

     振り絞って吐き出した言葉に、無轟はさすがに驚きを隠せなかった。
     しかし、彼女は言い切った。妙な達成感を感じつつも、鏡華は彼に詰め寄った。

    「いや、なの!?」

    「あ……っ近」

     そのまま、変に力を入れ過ぎた鏡華に押し倒され、真正面間近で彼女と見つめ合う。
     至近の見つめ合いの末に、無轟が戸惑うように尋ねる。

    「――――俺と一緒でいいのか?」

    「『俺と共に来い』なんていったのは、あなたよ―――」

     そして、彼女は挑発的に笑って、彼へと顔を―――。

    14/06/29 00:30 夢旅人   

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