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番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • KH 3-03


    「…………なに……? いまの……」

    「えー? あたしぃ、あーたのオネガイかなえてあげただっけだしぃー? なんていうかぁ、イミワカンナイー」

    「…………いい加減、コロコロ話し方変えんのやめてもらえる?」

    「うふふふ。ごめんあそばせ。下々のものの喋り方って、わたしよくわかりませんのよ。うふふふ」

    「……ぶっとばしてさしあげたいわぁ」

    「アクア、こらえて」

    「あー!ねーちゃんなんかすっげー怒ってるー!だっせーの!ぐへへへへ」

    「…………ッ!」

     アクアは顔を伏せた。震える肩。固く結ばれた拳。……それが、ゆっくりと開いていく。

    「…………あの闇の中で、私は確かにマスター・ゼアノートを感じたわ。……どういうこと?」

    「そうだ。冷静に感覚を反芻しろ。重要なのは繰り返しだ。記憶を読み返し、感覚を心に転写しろ。……なにせ、おまえの求めるその男の心象はおまえの中にしかないのだ」

    「え……?」

    「疑問に思うな。意識を研ぎ澄ませ。心に手を生やせ。……できるだろう?そのキーブレードを持つ真なるマスターならば」

     無貌の王に諭され、アクアは躊躇いがちに頷いた。
     キーブレードを握る。両手に受け継がれたモノを掴み、自身のイメージを心の奥深くで像に結ぶ。
     ――――小さな息遣いが、闇の深淵まで、しんしんととけていく。

    「……さて。彷徨える我が闇の住人よ。おまえの疑問にも答えようか?」

    「え?」

    「このキーブレードマスターが戻るまで暇だろう。それとも、先ほどの続きをやるか? そのとっておきのトゥー・ハンドで」

     唐突な無貌の王の言葉にロクサスは目を見開いた。
     キーブレードの二刀流。ソラを送り出した理由の一つだ。
     いつの頃からかは――――不思議と記憶が曖昧だが、ロクサスはキーブレードを二刀操ることができる。
     この世界では未だ一度も披露していない。ロクサスの隠し玉のひとつだ。
     それを見透かしていたというのだ。――――何故? どうやって?

    「わかるさ。私にわからないことはない。…………しかし、ナンセンスだ」

    「なにがさ」

    「おまえの疑問は、実につまらん」

    「なんだと……!?」

     目を見開いたロクサスの前に人差し指を立て、無貌の王は言った。心底つまらなそうな表情だった。

    「Q.E.D.《存在証明》など、この俺がこうだと正解を与えてやってもつまらんだろう。正解とは、すなわち本質だ。
     おまえの根、おまえの基、おまえの素、おまえの祖。おまえのルーツ。
     そこから育ち、巣立ったおまえとはイコールで結ばれぬもの。
     言うであろう? 『我思う 故に我在り』――――すなわち、想い描いた姿にヒトは在るということだ。それが正解の……本質の否定であれ、それはおまえだ。誰にも壊せぬ。
     なぜなら、本質を否定したおまえこそがおまえなのだ。そこでは矛盾というロジックエラーは無視される。
     天命の奴隷だったおまえの物語は完結し、その矛盾さえ内包した……本質に、正道に、法則に、真理に、運命に抗うヒトの物語となるのだからな」

    「……その正しさは、誰が決めるんだ?」

    「誰でも良いさ。どうでもいい。知る必要さえない。世界は……少なくともこの境界線上以外では、一人の王が統べる正しさが絶対というわけではないようだからな」

     まったく――――つまらんだろう。
     無貌の王の言葉はそう締め括られた。
     詭弁だった。ただの自己肯定とそれを正当化する論理武装。最後は思考停止で強引にまとめている。
     しかしどうして、無貌の王の言葉は背中を押した。
     心を持つヒトだから考える。
     考えることでヒトは作られる。
     であれば、心次第、考え次第でヒトは変わる。
     散々ロクサスを悩ませてきた自分やキーブレードの意味を嘲笑する姿勢には少なからず腹も立ったが――――それを是するのも非とするのもまた、心次第なのだ。
     「好きなようにすればいい」。突き放した言葉の中には、奇妙な温かみさえ感じる肯定が込められていた。

    「さて。では再度、確認をしようか。我が愛すべき闇の住人よ。――――どうする? 友人をおもちゃにされた恨みを私に返すのかな?」

    「……それは…………後回しだ。アクア一緒にあいつと合流したあとだ」

    「実力差は理解しているようだな」

    「バカにするな。あいつだって、おまえに怒ってるんだ。俺一人で、それを晴らすわけにはいかないだろ」

    「まったく……飽きないな。何百何千と繰り返しても、お前たちのような強い心と対峙するのは心が躍る。なぁ、そう思わないか?」

     無貌の王が目を向ける。ふらり。アクアが身を乗り出して。
     スムースにキーブレードが走った。物理的な障害の一切を無視して無貌の王の心奥を貫いた。

    「………………あ?」

     ぼんやりとした顔で無貌の王は自分の胸を突き刺したキーブレードに視線を落とした。
     まるでぶつかった拍子にソフトクリームを押し付けられたかのようなリアクション。それくらいなんともないような調子。
     次の瞬間、無貌の王の顔が大きく歪んだ。歯の間から消え入るような悲鳴が漏れ出て。

     ――――消えた。
     逃亡――――とは違う。
     闇の回廊のような手段を用いたにしては、あまりにも――――あまりにも、直前に伝わったイメージと矛盾する。
     砂の器のように風にあおられて消えていくイメージ。正真正銘、死と消滅の感覚。

    「アクア……?」

     ロクサスが呼ぶ。顔を上げたアクアの目は、満月のような金色。
     知っている。ロクサスはこの目を知っている。
     アクアではない。あの男の目。
     名無しの『存在しないもの』にソレを与えた男。

    「鍵は……揃った」

     アクアだったものが呟く。周囲に闇が波打ち、黒い卵が産み落とされた。
     音もなく殻は割れ、中からヒトガタの存在が歩み、出でる。
     いずれもいずれも浅黒い肌。そしてその双眸の金色だけがギラギラと光っている。
     ロクサスはぐるりと周囲を見渡した。金色の気配。超然的な雰囲気。その数――――6。

    「こうして集えたことを、まずは喜ぶとしよう」

    「自明ではあったがな。因子は惹かれ合う。欠けた心を埋めるように、再結合《リユニオン》をめざす」

    「我ら六貌……面白い奇縁で結ばれたようだが、目的は覚えているか?」

    「無論だ。しかし因子は持っているか?」

    「それは疑問だな。いつの世にも勇者は集う。扉を開き、時流を浮かび、我らが前に立つ。……皆、そうではなかったか?」

    「私は問題ない。私の因子は彼そのものだ。素養に難はあるが、まぁ問題あるまい?」

     唐突に出てきたと思ったら揃いも揃って無視である。ロクサスは不快感をあらわにした。
     ……否。そうではない。クリティカルな問題では。

    「…………おまえらは、なんだ?」

     直感はしていた。『六貌』と形容していた彼らだ。おそらく、ロクサスとは違う意味で『存在を許されない』――――6人全員、同一人物。

    「おまえの予感は正しい。さすがだ、我がキーブレードの勇者」

    「ふざけるな……俺の心は俺のものだ!おまえのものになった覚えはない!」

    「良い……良い。おまえの問いに答えよう」

     浅黒く肌を変色させ、色が抜けた髪をかきあげ、アクアだったものが目を細めた。

    「我々はひとつだった。しかし目的のためにその身を引き裂き、いくつかに分かれたのだ」

    「ある時はキーブレードを携えた勇者となって」

    「ある時は記憶を封じて機を伺い」

    「ある時は未熟な戦士を導く指導者となって」

    「ある時は傀儡を用意し」

    「ある時は心に寄生し身を潜め」

    「ある時は亡霊に堕ちてまで――――全ては、このために」

     一人が、ロクサスの頭蓋を掴んだ。
     目の前が真っ暗になった。ぐるりと自意識が反転する。
     意識が、真っ暗闇に落ちていく――――。


    15/07/13 21:41 夢旅人   

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