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番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • 番外第二幕 その4

     そうして、チェル組の採点を終えて、アダムは司会を続行する。

    「はい、では次は―――」

    「アガレスたちでいいかしら」

     即断の一声に、アダムは肩を竦めつつ視線を彼らへと見やった。

    「すまないが、私たちは棄権する」

     視線を受けた組らから、礼節柔和な態度を取るアガレスだけが立ち上がって冷淡な声色で、凄みのある威圧と共に言い放つ。

    「え、ちょっとーー!?」

     アダムの声と共に、他の者らも同様に驚きを隠せない。ただ一人、イリアドゥスは淡々とその視線と向き合い、問いかける。

    「やはり、話せないかしら?」

    「……これは我が身恋しさの為じゃあない。愛する妻たちの為だ」

     そう答えた彼は冷徹な言動とは裏腹に苦汁を噛みしめた表情であった。傍にいるハゲンティ、フェミニアも何処か沈鬱である。

    「仕方ねえさ。んなもん」

     机に突っ伏していたチェルが密かな声でつぶやく。ウィシャスも静かに頷く。
     二人はシンクらからアガレスとその妻たちの経緯を大まかにだが、知っている。
     そして、その経緯の記憶をイリアドゥスは知っているはずだった。あえて、それを強いさせたのは神の悪戯と片づけるには悪辣だった。

    「―――解りました。その棄権、了承します。―――そして、ごめんなさい」

     イリアドゥスは了承をして、彼らに謝意の礼をとった。アガレスは安堵の息を零して、座った。

    (もう、二度と繰り返したくもない)




     安堵とは真逆の、苛むような不安が在った。
     紛らわせるように二人を見やった。ハゲンティは涙を流しつつも、安心したようだった。
     フェミニアは罪悪感のある表情だった。無理もなかったが。


     アガレス・グシフォン、ハゲンティ・グシフォン、フェミニアの3人は異世界『ソロモニア』の生まれ育った。
     ソロモニアは長く続いた戦乱から群雄割拠の時代だった。アガレスはその群雄割拠から立ち会った人物の一人で、最終的には統一を果たした。
     その戦乱の中で、彼は妻であるハゲンティと出会い、共に戦い抜き、愛し合っていった。
     その中で、フェミニアはそんな彼らの前に立ちふさがる敵として何度も敵対した。それは彼女の謎の不死性ゆえ、何度も戦った。
     

     フェミニアの不死性の正体は他者の魂に自分という存在を刻み込むことで支配権を奪う事だった。
     彼女はその都度、新たな体を手に入れては、戦いの中で失い、戦いの中で手に入れてきた。
     だから、最後の戦いと呼べる決戦で、彼女を倒したとアガレスたちは油断していた。その影がすでに及んでいた事を気づかなかった。
     世界を統一し、皇帝としてアガレスは平和な日々を過ごしていた。だが、いつからか、ハゲンティが病に伏すことが多くなった。
     医者に診ても、明確な原因はわからず、妻は衰弱していった。
     そして、アガレスにとって妻との最後の夜がやって来た。

    「――ハゲンティ、大丈夫か」

     毎夜、アガレスは彼女の寝室へと訪れ、様子を伺いに来た。
     今夜もそう声をかけて、容体を見る。嘗ての清らかな容貌は影を落とし、衰えていた。
     呼吸もか細く、苦しげにしている彼女を見るだけでこちらも苦しい気持ちで胸がいっぱいだった。

    「……あ、なた」

     虚ろげな眼差しでこちらに気づき、心配させないように健気に微笑みを向ける。
     その健気さに一層、胸の苦しみが深まるが、あえて応じる様に微笑み返した。
     すると、突然、妻が苦しみ悶える。

    「―――ッ、うぅ…!!」

    「どうした! だれ――」

     突然の事態に戸惑うも、すぐに廊下にいるであろう衛兵らに呼びかけかけた―――瞬間、体に激痛が走った。
     妻のか細い手から見覚えのある刃が抜き出て、自分の胸へと刺し貫いていた。
     さらには寝室一体に異様の気配が走る。この気配は、間違いない―――まさか、

    「………ふふふっ」

     妻の声と重なる様に笑う別の女の声。間違いない、この声の主は。

    「フェミニア……きさ、まぁ!!」

     気づく間を与えず、刃は引き抜かれ、すかさずアガレスは途方もない膂力で突き飛ばされ壁に叩き込まれる。
     それでも、妻―――否、宿敵へその名を吼えた。

    「しぶといわねえ。…胸刺し貫いたんだけど……まあ、いいわ。ゆっくり甚振ろう」

     宿敵フェミニアは妻の姿のまま、残虐に笑い、手の内から生えた血で染まった刃を舐める。

    「お前は――死んだわけではなかったのか」

     身を起こし、アガレスは問いかける。
     その問いかけに、嗜虐の色を混ぜて応じる。 

    「あー、死ににいくついでに教えてやる。この不死身の正体をね…
     我の力…他者の魂に自分を刻みつけることで支配することが出来るの、ハゲンティの躰も、今までの躰も、ね」

    「……なぜ、私ではない。なぜ―――」

     その真実を目の当たりになったアガレスは、ついに折れる。
     両ひざから崩れ、呻きを漏らしながら苦しく、悲しく呟いた。
     彼の様をフェミニアは妻の顔で、冷笑する。

    「そうねえ、できればそうしたかったけど。同性にしか支配できない、それだけだ。
     ―――さて、もう話はお終いだ。もう、死ぬしかないのよ……お前はァァッ!」

     反撃の気配がないアガレスに兇刃が迫る。出来るはずがなかった。
     長く戦いを共にした彼女を、愛すると、守ると誓った彼女を、殺める事など。
     すまない、ハゲンティ。私は救えないのか―――。



    「あ……な…た…!」

     受け入れるように俯いて、ただ終わりを迎えようとしたアガレスの下に彼女の声がした。
     顔を上げると、そこには我が妻ハゲンティ・グシフォンがいた。生え出た刃の手を空いた片手が必死に掴んでいた。
     唖然としていた彼に、妻の声が意識を覚醒させる。

    「―――――! ハゲンティ、お前なのか!?」

    「……っ貴様、なぜ…だ!? 支配、は私が完全にィ!」

    「ええ。――でも、この人だけは、殺させない……!」

     間違いなく今のハゲンティの躰はフェミニアに支配されている。
     だが、彼女の夫に対する想いが支配に拮抗するだけの力を発揮している。
     妻は必死な声で夫へ、最後をゆだねる。

    「アガレス……、私を斬って。今ならフェミニアも諸共、終わらせる事が出来るッ!」

    「な―――!?」

    「どう、いう…」

     驚愕する二人にハゲンティは言葉でなく行動で示した。彼女の全身に輝く刻印のような者が浮かび上がった。
     アガレスは長年の戦友として一目で理解した。この刻印は拘束する魔術であると。
     恐らく、ハゲンティもうすうすは気付いていたに違いない。フェミニアが自分の体を奪い取ろうとする事を。
     その対処策、自力だけでは解決できない手段を『実行できるチャンス』を窺ったのだ。
     そして、今、この瞬間こそが実行に移るその時なのだろう。

    「私ごと―――、フェミニアを斬るのよ」

    「……」

    「正気か! 命を擲って、夫に殺されるのをよしとする―――のか!?」

    「あなたに…は…解らないでしょうね」

     もがくフェミニアに、ハゲンティは確固とした意思で言う。

    「私の全ては、もう夫に捧げたのよ。あなたに、
     あげるもの……なんて、一つも―――ない! お願いっ……アガレス―――!!」

    「―――――」

     大きく手を広げ、受け止めるように、抱きとめるように飛び込んだハゲンティにアガレスは、

    「………」

     ―――腰に差していた愛剣で宿敵を、妻を、諸共貫いた。
     今まで振るおうともしなかった剣で、躊躇無く、閃いた。
     アガレスは唖然としながらも、妻を抱きとめて、話し掛ける。

    「ハゲンティ、お前は…お前と言う、女は―――ッ!!」

    「……すみません。こうするしか、無かったの。フェミニアの侵食はもう今の私じゃあ…止められなかった。
     せめて、一緒に無力化する事しか、できな―――っぐぅ……でも、いいの。こうして、あなたが救い出してくれたから」

     溢れる血に、零れる血に気にもせず、妻は健気な微笑みを浮かべる。
     最後のチャンスを生かすために、全てを賭したのだ。
     今は儚げに喋る彼女はその言葉をつむぐ事に力を注いでいるのだ。

    『何故だ』

     二人の前に幽玄の火玉が現れる。その気配、声音からフェミニアのものであると判断した。
     その火玉には妻が刻んでいた刻印が走っていた。そう、まだフェミニアの魂はハゲンティの躰にある。
     こうして二人の前に現れたのはあくまでも幻影だった。

    『何故、何度も……お前たちに負けてしまうのだ』

    「……私が、アガレスを愛しているからよ。こうして……受け止めてもらえた」

     満足気に抱きしめられる感触を心より言う妻の言葉に、アガレスは返す事がなかった。
     妻を斬った事実が、結果が彼に言葉を封じるのだ。
     それを察してか、妻がこちらへと視線を投げる

    「お前を、救う方法は他にもあったはずなのに……私はッ!」

     幾ら、優しく受け止められても、己が許さない。最愛の存在を救い出せる方法はあったはずだ。
     もっと早く気付く事が出来れば対策はあったのかもしれない。
     しかし、悔いる夫の姿に妻はゆっくりと首を振った。

    『解らない……そこまでの縁も、強さも』

    「そうね。あなたも……道はあったはずよ」

     フェミニアの言葉に、ハゲンティは優しく諭すように言う。
     長き宿敵として、愛する夫を同じく『愛している』もの同士として。

    『馬鹿な我がアガレスを…? こやつとは唯の宿敵、何度も』

    「ええ。でも、私には解る。あなたはアガレスを愛していること」

    『――――――』

    「ハゲンティ……もういい、これ以上は――」

    「―――アガレス」

     残った全ての力でフェミニアの火玉を両手で受け止め、それを自身に押さえ込むように取り込んで言葉を紡ぐ。

    「私と一緒に、この娘も、愛してください。フェミニアの苦しみを救う方法はそれ、だけ―――」

     そうして、妻は満足げな微笑を浮かべながら事切れた。
     その死に夫は理解できる筈もなかった。
     宿敵を愛せ、と言い残した事に、苦しみを救う方法はそれだけだと断じられた。
     だが、それでも夫は、妻の言葉を拒絶したくなかった。最期の最後まで自分を愛してくれたのならば。

    「ああ――お前も、フェミニアも愛そう。我が妻たちよ」

     何処までも愛するしか、夫にはその道しかなかった。




     鮮烈に思い返していた悲劇の一端をアガレスは感慨深く想った。
     何の因果か今一度、魂だけの存在である二人と共に今を過ごしている事も、
     自分と共に戦うことの出来る事も。
     唯解るのは、やはり―――。

    「――…愛する事に理由は必要ないな」

    「ええ。そうですとも」

    「……無論、だ」

     アガレスの言葉に、ハゲンティが微笑みで頷き、フェミニアが照れ臭く得心する。
     こうして在るだけでも、自分たちは幸せなのだなと納得した。





    14/05/09 01:45 夢旅人   

    ■作者メッセージ
    神無・ツヴァイの愛、
    チェル・ウィシャスの愛、
    アガレス・ハゲンティ・フェミニアの愛、
    色々な愛の在り様があるわけで
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