ゲーノベ :: ゲーム小説掲示板 > 夢旅人 > 番外・外伝夢旅人小説

番外・外伝夢旅人小説

夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 番外第一幕
  • 02 番外第一幕 その2
  • 03 番外第一幕 あとがき
  • 04 外伝第一幕 神理の夢
  • 05 外伝第一幕 神理の夢 その2
  • 06 番外第二幕
  • 07 番外第二幕 その2
  • 08 番外第二幕 その3
  • 09 番外第二幕 その4
  • 10 番外第二幕 その5
  • 11 番外第二幕 その6改
  • 12 番外第二幕 その7
  • 13 番外第二幕 その8
  • 14 番外第二幕 その9
  • 15 番外第二幕 その10
  • 16 番外第二幕 その11
  • 17 番外 第三幕「クリスマスプレゼント前編」
  • 18 番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
  • 19 KH 1-01
  • 20 KH 1-02
  • 21 KH 1-03
  • 22 KH 1-04
  • 23 KH 1-05
  • 24 KH 1-06
  • 25 KH 1-07
  • 26 KH 2-01
  • 27 KH 2-02
  • 28 KH 2-03
  • 29 KH 2-04
  • 30 KH 2-05
  • 31 KH 2-06
  • 32 KH 2-07
  • 33 KH 2-08
  • 34 KH 3-01
  • 35 KH 3-02
  • 36 KH 3-03
  • 37 KH 3-04
  • 38 KH 3-05
  • 39 KH 3-06
  • 40 KH 3-07
  • 41 KH 3-08
  • 42 KH 3-09
  • 43 KH 4-01
  • 44 KH 4-02
  • 45 KH 4-03
  • 46 KH 4-04
  • 47 KH 4-05
  • 48 KH 4-06
  • 49 KH 4-07
  • 50 KH 4-08
  • 51 KH 4-09
  • 52 KH 4-10
  • KH 3-02



     炎の魔人が両腕を鞭にする。周囲の壁に黒い焦げを何条も焼き付け、ソラとロクサスを肉薄した。
     その先はゆうに音速を超え、肉眼ではおよそ捉えきれない。しかし炎の魔人の肩の動きから軌道を読むことは可能だ。
     この炎の魔人は、人間だった。その名残が、ソラとロクサスに活路を与えていた。
     炎の鞭をかいくぐる。インファイトに持ち込んだ。遠距離攻撃は鞭のために阻まれていたが、この距離ならばキーブレードでの打撃が有効だ。
     右肩に一撃。炎の右腕が火の粉を巻いて消滅した。
     続いて左肩、左大腿部。左腕と両足が消え失せる。熱を吐きつけてきた頭部も切り落とした。
     
     残る胴体――――核と思しき少年の殻が残った部分がある。
     しかし、炎の魔人はしぶとかった。
     胴体からまた手足を生やす。しかしもはやそれは人の手とも足とも区別がつかない。細く、とても体を保持できない。
     二足では倒れ、手足をついた四足でも足りず、追加でもう四本を生やしてようやく自立した。足は震えている。その様は子鹿か、瀕死の蜘蛛だった。

    「……やめろ……」

     ソラは叫んだ。未だ敗走の意思を示さない炎の魔人――――その奥で眠る、セキ・グレンに向けて。

    「いいだろ、もう! なんだよ……怖いくせに、本当は嫌なくせに! どうしてこんなことするんだよ!?
     思い出せよ! たとえ闇の底に沈んだって、できるはずだ! 本当に大事なことは……大切な人だったら!」

     セキ・グレンは――――もはや蟲に成り下がった炎の魔人は、答えない。
     よろよろとソラに向かい、頭から炎の糸を吐きつけた。ソラの両腕を縛る。
     炎の糸がじりじりと蟲に引かれていく。それに堪えるソラの表情は、険しい。

    「…………それともさ、本当は違うのか? お前のヒスイを助けたいって思いは、結局誰かに押し付けられたものだったのか?」

     セキ・グレンは答えない。
     ソラは歯を噛んで俯いた。ソラと蟲が近づき、蟲の牙がソラの髪に触れた。

    「――――ッ!」

     ロクサスが、動いた。
     キーブレードが蟲の糸と足を斬り裂いた。胴体が残り、セキ・グレンだったものは炎の中で仰向けに倒れた。
     ソラはキーブレードを胴体に走らせた。炎が、掻き消える。
     セキ・グレンだったものの胸の穴に炎が未だ残っている。やはり、セキ・グレンこそ炎の魔人のコアなのだろう。
     セキ・グレンを斬らねば終わらない。

    「……俺たちにこれ以上どうしようがある?」

     はじめに「消してやる」と宣言したロクサスは、ソラに語る。

    「目覚めないんだ……もう起きないんだよ、そいつは! 都合のいい希望にすがるな! 光に殺されるぞ……!?」

     それをソラは、ただ聞いていた。
     そして決断する。
     ソラは倒れるセキ・グレンめがけて踏み込んだ。
     思い切り、打ち込む。

    「このっ……馬鹿野郎!」

    「――――いや……これでいい」

     キーブレードを突き刺したソラに、セキは耳打ちした。
     ソラの手に触れて、なにかを渡した。
     赤く、淡く、暖かな光。――――ソラは直感した。
     人の心だ。

    「これ……ヒスイちゃんに」

    「なんで……!?」

    「なかった。これしか……わるい……こんなに近くにいた、なん――て――――」

     言葉を置いて、セキ・グレンは消滅した。



     途端に歓声が場を満たす。
     無貌の王だ。様々な声色で、様々な意図で、様々な言語で賛美を送っていた。

    「――――いや、素晴らしい。思いの外苦戦したようだが……勇者の質も落ちたか?」

    「おまええええええええ!!」

     斬りかかろうとするソラの肩を掴み、ロクサスが後方へと押しやった。
     ソラの尻餅に一瞥も返さず、ロクサスはキーブレードを握り直した。

    「なにを……!」

    「預かってるものがあるんだろ? おまえはそれをどうにかするのが先だ」

    「でも……!」

    「あいつの願いを、叶えてやれ。……せめて、それまで呪いに変わってしまわない内に」

     ロクサスの言葉は落ち着いていた。抑揚のない台詞だったが、ひどく重みがあった。ソラに有無を言わせる強さがこもっていた。
     ソラはそれに従った。受け取った心を握り、リクとヒスイを肩に背負い、自力で横転から復活したビビに乗り込んだ。



     ビビは走る。
     ロクサスを置いて。
     ソラを乗せて。

    「そうだ、行け。そいつを連れて、遠くにいっちまえ」

    「……そろそろ、いいかな?」

    「なぜ待ってた?」

    「そも、私には君を打破する理由は特別にない。闇の住人である君はこの城の秩序を壊そうとはしないさ」

    「……俺が戦おうとしない限り?」

    「そうだ。俺におまえを倒して利益はない。放置するメリットも……まぁ、ささやかな愉悦を味わえる程度だ。そして、俺も少々、時間が惜しくなってきた。用がないなら帰らせてもらうが?」

    「バカにするな……!」

    「していないさ。私がこうして正面から、それも受け身の姿勢で事に臨んでいるのだぞ?
     品性のない害虫が相手なのであれば、こうはしない。不意打ち、闇討ち、騙し討ち……手段など選ばんな。
     頂点を頂くものらしく、他人任せの物量で押し切り、おまえらが死に絶えるのをワインでも傾けながら待っているさ」

     ――――こうして前に出てきているのは、敬意の証だ。受け継がれたモノへのな。
     散々こちらを虫けら扱いし続けた無貌の王は、そう言った。そのキーブレードだけは認めていると。

    「……信じられないな」

    「それはてめーで勝手に決めな。……それともマスター様の経験談なら信じるか?ん?」

     無貌の王が背後を示す。黒い繭が、そこにはあった。その意味を考えあぐねるうちに亀裂が走り、中身は羽化する。
     アクアだ。

    15/07/13 21:40 夢旅人   

    HOME
    Copyright 夢旅人 All Rights Reserved.
    CGI by まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.34c