番外第二幕
番外の新たな舞台は、古風な城の中に在る大広間。
外の闇を祓うように、絢爛なまでの明るさで満ちたこの場所で男女数組が招かれていた。
「――とどのつまり、夫婦な奴らを集めた……だと?」
招かれた面々は男―――神無の言葉通りの男女の夫婦キャラたち。
集った他の面々も、不審に思いながらも用意された豪勢な食事を肴に互いに会話に花を咲かせている。
「ええ。ネタも自給できない作者がNANA氏に乞うた所、この案が浮かんだと言う事で」
怜悧な微笑と、毒を込めて応じた黒衣黒髪の青年――アダム。
立場上は司会者ということで、と前置きに言ってから話を続ける。
「少し次の段階に準備がかかるのでそれまで此処にいる方々と楽しんで語らっていてくださいな」
応じる隙を見せずにアダムは一瞬でその姿を闇に消す。
呼び止め切れずに発しかけた口を閉じ、少々不機嫌にため息を零す。
「とりあえずは変な事にならないように祈るしかないわね」
妻のツヴァイも呆れ気味に、呟き、宥めながら彼の腕を組んでパーティの中へと飛び込んだ。
最初に彼女が、何の気兼ねなく声をかけたのは一番身近な夫婦たちが居てくれた事だった。
「月華さん、美月さん。こんばんわ」
「ツヴァイたちも来てたのね。急に何なのかしらねー」
「全くだよ。突然だったからね…」
身近な夫婦の一組、陽気に応じる黒髪の女性――月華と困った様子でワインを味わっているこげ茶の髪をした男性――美月がツヴァイらに気付いて応じる。
この夫婦は、月華がかつて神無に別れを告げられた事で傷心し、勢いあまって暴走する彼女が美月と出会い、その傷心を癒す中で愛し合うようになったのだ。
現在は娘の黄泉を儲け、家族仲も良い。更には娘は、恋人と言える青年の菜月と仲睦まじくしている。
「いやはや、菜月くんは個人的には認めていてもやっぱり不安だよ。若気の至り―――何て言葉もあるくらいだからねえ」
「ま、その時はその時で菜月くんとはゆっくり『話し合い』すればいいだけよ。孫の顔を見るってのもいいけど」
「ハハ。そっちも大変そうだな」
神無が苦笑交じりに肩を竦めて言うと、月華がにやりと笑みを深めて呟いた。
「神月くんも、紗那ちゃんとそろそろじゃあないのかしらー。あなたたちもそれくらいで出来たんだし」
「……ノーコメで」
少し顔を赤くしてツヴァイは言及を控えた。神無はさっきと変わらぬ様子で続ける。
「その時はその時だ。な、親父、お袋!」
「……神無、少しは考えたらどうなのだ?」
「―――曾孫の顔……ふふ、ちょっとだけ…いいかも」
神無が声をかけた二人―――両親であり、また、夫婦である父の無轟と母の鏡華――はそれぞれの態度で息子を嗜める。
この夫婦は、戦乱で孤独となった鏡華が嘗て持っていた能力が暴走していた所を、偶然通りかかった無轟が救い出し、行動を共にする中で愛し合うようになった。
現在は二人とも亡くなっているが、此処は番外の中、特に問題ない。二人の姿は丁度、若い頃の夫婦になったばかりの頃の容貌である。
一方、神無ら夫婦(美月夫婦らも)はRe:開闢時の年齢時の為、逆転している。
「しかし、夫婦だけというのも聊か謎ではあるな」
「そうだな。せいぜい、楽しむしかないみたいだぜ?」
無轟と思う所は同じであるが、こうなっては楽しむ方を選ぶしかない。神無はそう言って、母も頷いた。
「なら……そうしましょうか、ねえ。あなた」
「む……。神無、また後でな」
「おうよ」
クスクスと笑む鏡華に抵抗せずに引っ張られていく無轟を尻目に神無は他の夫婦に声をかける。
厳格な雰囲気漂う初老の男性と薄氷の若い女性の夫婦――ディアウスとプリティマ――であった。
この夫婦は旅人同士の夫婦で、偶然の出会いが切っ掛けで、互いの年の差を無視する勢いで結婚したのだ。
Re:開闢本編はカルマの操られた者たちとして神無らと敵対したが、今は、彼らのお陰で自由になっている。
「よお、お前らも夫婦だったのか」
「ああ、神無たちか。いかにも、夫婦としては少々年の差があるが、それは問題にはならんだろう?」
「ええ。愛し合う事に年の差なんて無意味、だから……ねっ」
「ふふふ…お暑いようで」
誇らしく言う夫に、赤が薄氷を染めて恥らうように、しかし、彼女も誇らしく言う様子にツヴァイはお手上げになった。
次に声をかけた夫婦は半神――アイネアスとサイキ――の夫婦であった。
この夫婦は対の半神として生まれ、瞬間的に夫婦だった。二人で世界を創りだす程には睦まじいのであった。現在は創り出した世界で平穏に暮らしている。
「神無たちも此処に招かれたのか」
「まあな。そっちもか」
「はい。お母様にも同行してもらおうと思ったのですが…」
『今はまだ私が動く時ではない』
「――と、自信満々な表情で断られました」
小さく肩を落としたサイキにアイネアスが宥めるように言う。
「まあ、二人で楽しんでいけとも行ってたじゃないか。今は言葉通り、そうしよう」
「なるほどね。アイツが来ていないなら、まあ、いいか」
神無は一先ずイリアドゥスが居ないと知って、少し胸を撫で下ろす。多かれ少なかれ、彼女が居るだけでカオスな状況を引き起こされるからだ。
そうして、次の夫婦に声をかけた。
「なんだ、お前らか」
「…チェル? 挨拶の一つも出来ないのかしら……こんばんわ、神無さん、ツヴァイさん。夫は相変わらずよ、もう」
夫たる赤交じりの黒髪の男性――チェル、妻たる金髪の女性――ウィシャスの夫婦である。
声をかけた二人を一瞥して、質素に応じた夫に、彼の妻が諌めるように言いながら、二人に応じた。
この夫婦はタルタロスでめぐり逢ったもの同士だが、最初は対決するほどには仲が悪かったが、次第に愛し合うようになった。
現在は、息子のシンクを儲け、夫の無愛想に対を成す妻の気風の良さが目立っている。
「にしても、ウィシャスさんよ。アンタもこんなぶっきら一匹狼と良く夫婦でいられるよな」
心底不思議に思ったのか神無はウィシャスにそう話し掛けると、その額に漆黒の銃口が向けられる。
「……風穴空けるぞ、酒乱野郎」
「そう、事実を言われて怒るなよ」
刺すような殺意を気にしないで銃口を下ろさせる。瞬間、チェルの背中へ妻の気合の張り手が叩き込まれる。
「――ッ!?」
「折角のパーティにそんな物騒なの出さないの! 神無さん、本当にごめんなさいね」
「本当に、あなたも悪乗りしないの」
「ハハハッ、別に構わないぜ。んー、やっぱりお似合いの夫婦だな」
「もう、お上手ねー」
チェル以外愉快に笑いあい、次なる夫婦へと声をかける。
半神に続いて、慮外な夫婦がそこにいた。
異形の角を生やした悪魔を髣髴する男性――アガレスと純白のドレスを着た白金の髪をした女性――ハゲンティ、黒髪の女性――フェミニアの3人であった。
この夫婦は元居た世界同士での夫婦で、フェミニアはアガレスとの因縁の為に、ハゲンティに憑依して、彼を葬ろうとしたが、彼は彼女もろとも切り捨てたが、それでも二人を愛するとフェミニアをも受け入れた。
現在は、二人を失いながらも、魂の結束の強さと彼の悪魔の能力によって限定だが3人と共に戦うことが出来る。
「マジかよ、一夫多妻は実在していたのか…!」
「そこまで愕然とする?」
どういう訳か、驚愕する夫に怪訝に言うツヴァイに3人はそれぞれに応じる。
「まあ、これを一夫多妻と言うのでしょうかね」
「あなた…フェミニアも愛すると言った以上、言い逃れはできないわよ」
「無論だ! お前とは殺し愛いなのだからな! ハハハハ!」
納得していない様子のアガレスに、認めろと冷静に言うハゲンティ、顔を真っ赤にしながら彼との愛を認めているフェミニアにツヴァイは頭を抱える。
「殺し愛い…? とりあえず睦まじいのならいいけど、なんというか……大変ね」
一先ず挨拶だけ交わして、残りの夫婦らへと声をかける。
最後の夫婦は夢旅人側の夫婦キャラではなかった。
NANA氏側のキャラクター、エンとスピカの在る意味最凶夫婦であった。
この夫婦は多くは伏せるが、お互いに愛し合い、子どもも儲けたが……。
「――それ以上はこの場には似合わないのでカットで」
無理やり話を切り上げ、エンは嘆息する。
「やれやれ、カルマに言われてやってきたのはいいが、まさか夫婦だけのパーティーとは」
「エン? まだあのカルマって女とよろしくしているの? いい加減にしないと私も激おこぷんぷん丸になるわよ」
嘆息する彼に異様なまでの殺気を持って言うスピカに神無らは引き気味に話し掛ける。
「…とりあえず、喧嘩はなしだぜ? 頼むから」
「そういえば、赤ちゃんはどうしたの? 預けているの?」
エンと声をかけられたスピカは一瞬で殺気を取り払って応じる。
「リヴァルのことか? ああ、どうあってもダメだと言われてな…この広間とは別の部屋で預かってもらっている」
「勿論、信頼できそうな人たちだったわよね。……へんてこな動物より何百倍も」
「お、おう。で、その信頼できそうな奴らって?」
「神月と紗那、後はヴァイ……お前の息子娘、その恋人とだ。
何か、別の用事で此処に来ていた様子だが…用事まで暇だからと任してもらった」
「あの子達が? そう、とりあえずは今日はよろしくね、お二人とも」