番外 第三幕「クリスマスプレゼント後編」
無轟が赴いた異世界、そこは様々なスキルを備えた数多の職人たちが住まって生活している世界であった。
時間差の影響か、こちら側はまだ昼を上ったばかりである。無轟は『メルサータの時計』を忘れずに持ち、時間の確認をする。
もって6時間以内にプレゼントを用意しなければならない。
そこで、彼がめどとして当たったのが、この世界に住んでいるとある男。
「――で。俺にサンタ代わりのプレゼントを用意してくれってか」
しかし、男はこの世界から渡り来た旅人であった。此処の空気が馴染む為、居を構えたのだ。
男の出で立ちはこの世界で見かけられた職人とはかけ離れた風貌をしている。
素顔を包帯で隠し、はみ出た素肌の所々に刺青が刻まれている。怜悧な双眸は他者を竦める程の威圧を備えていた。
故にか、彼は賑わいの町の影の様な裏通りに表からは質素な工房に偽装している。
「ああ。色々と作ってくれたんだ、簡単だろう、伽藍?」
無轟はそんな鋭い視線も気にせず、話を進める様に問いかける。
男―――伽藍はやれやれと肩をすくめた。
「……作れと言われれば作るさ、だがなあ。お前の息子(こども)が望んだプレゼントを用意しろってのは、ちょいと難問だぜ。
俺は超能力者でもないからな。ただのモノづくりが好きな奇人変人でさあ」
「解っている。だからこそ、何か作ってくれればいいんだ」
『無轟、それは投げやり過ぎない?』
既に顕現していた炎産霊神は無轟の隣で気楽そうに座っており、彼の無茶な要求に呆れて注意する。
伽藍もその注意に同意する様に頷いて、呟く。
「自由は、不自由なんだぞ、おい……―――そうだな、いくつか質問させてくれ」
しかし、彼は仕事を断る気質は備えていない(無轟は知っていて頼み込んではいたが)のだった。
無轟はその質問に応じ始めた。
「その前に。名前はなんて言うんだったか」
「神無(かんな)だ」
何処か重みを込めて、名前を言うと伽藍は軽く請け負って質問を始める。
「わかった、神無ね。
―――まず一つ目、神無はキャラもののぬいぐるみとか、人形の玩具は好きか?」
「……そういったものは手元にはあまり無い。好き、の部類には入らんだろう」
「そうか」
そう一言応じて、伽藍は深く追及せずに続ける。
「二つ目、真剣そうにアニメとか、特撮番組とか気に入ってる作品はわかるか?」
「ふむ…」
神無と一緒にテレビで見ていたものを思い返す。
別段、自分や鏡華はアニメーション作品は特撮番組は好きでも嫌いでもない性格ゆえ、見るなとも言っていない。
子供向けの作品も、大人向けの作品も一緒に作品を見る事もある。―――話の流れはあまり親子揃って掴めないが。
『ノリがカオスなアニメとか、好きそうだけどね。神無って』
そうしている内に答えを言いあぐねている隣で、炎産霊神はキッパリと答えた。
伽藍がほう、と声を零し、無轟は小さく驚いた様子で炎産霊神を見た。
『僕も一緒に見る事があるよ? 無轟とかが出かけている時とか、暇だし』
言わなかったかな、と言わんばかりに意地悪に小首をかしげた。
「…まあ、一心同体というほどではないからな」
そう言って、無轟は嘆息交じりに言う。
契約し、炎産霊神の神霊核(コア)を自分の魂に癒着、宿す事で無轟は彼の炎を操る事が出来る。
ある程度互いの距離が、離れ離れになっても炎の力は衰えはない。
炎産霊神の単独行動も、無轟は咎めるつもりも無かった為、自由に任せていた。
「じゃあ、そのアニメで出てくるキャラで誰か気に入ってるヤツはいるのか? なんでもいいから、言ってくれると助かる」
質問の相手は無轟から炎産霊神に切り替わっていた。
しかし、適任ではある、と仕方なく彼に譲る。
そうして、質問を受けた彼は少しの黙考の末に口を開く。
『……たぶん、主人公よりも気に入っているキャラが一人いる』
「それはどんなキャラクターか、わかるか?」
「……」
息子の好意なキャラクターが気になるのか、無轟も聞き耳を立てるように関心を向く。
伽藍の追及に、炎産霊神はそのキャラの説明をする。
『えーっと、まず女性なんだけどね。でも、武人みたいな性格していて、主人公と何度も戦う因縁の敵って感じかな』
「もう少し他に特徴とかあるか? 技とか、武器でもいい」
『武器…そういえば、武器も技も僕たちと似たようなものが多かったかな』
「!」
その言葉に、聞いていた両者は想う事は異なるが同じ驚きを見せる。
「……よし、作る物が決まったわ。えーっと」
そして、得心したのか、伽藍は話を切り上げて時計を見やる。但し、無轟の持つメルサータ側の時間時計で。
数秒の思考計算の後、立ち上がった彼は二人に言う。
「残り時間も余裕が在るな、一時間ほど外で待っていてくれるか」
「随分と早くしあがるものなのか?」
「おう。コツは掴んでるんでな」
伽藍の不可解な言葉に、理解する間もないまま無轟と炎産霊神は彼の工房を出た。
時間を潰す為、無轟は表通りにあった喫茶店で休息する。
『何を作ってるんだろうね?』
人前で炎産霊神は物騒なために、彼の声は無轟の念話で済ませた。
(さあな。アイツはいつも期待以上のものを作ってくれる。今回もそうなるさ)
ひとまずコーヒーと、軽食のセットを頂いて、時間が過ぎるのを待った。
「―――そろそろ戻るか」
時間を見やると丁度、時間を迎えている。
頂いた分の料金を支払い、無轟は足早に彼の工房へと向かった。
その胸中は、期待に小さく胸を高鳴った。
「おう、待たせたな」
工房へと入り、彼のいる部屋に戻ってきた無轟を伽藍は作業のまま休憩の姿勢で出迎える。
その傍には横長(おおよそ40cm程度)の装丁された箱が在った。
「それが、プレゼントか?」
中身は何が入っているのか、と問いかけようと手を伸ばすと彼の手が阻むように遮る。
怪訝に思う無轟は黙して彼を見据えて、答えを求める。
「なーに、今の俺は『サンタさん』と同じ気分になった。このプレゼントは神無だけに……さ」
「―――そうか。なら、ありがとう。『サンタさん』よ」
「心籠って無えな…」
無轟のいつにも増した平淡な声に、伽藍は肩をがくりと落とすポーズをとって落胆を示す。
そして、プレゼントを受け取った無轟は工房の外へ出て、異空の扉を開ける。
見送りと、伽藍もついてきて、声をかけてきた。その顔には不安の色が在った。
「あれだな、神無が喜んでくれるか急に不安になって来た」
「……お前なあ」
作り主が急にそのように言われるとこっちまで不安になりかねない。
呆れかえった無轟に、炎産霊神が現れて、陽気に笑いながら言う。
『大丈夫だよ、伽藍の作ったものに問題ないのは確かだから』
「……」
二人は感極まって、無言で互いに目くばせした。
「―――それじゃあ、戻る。息子の枕元に置いておかないとな」
「おう。喜んでくれると信じてるぜ」
そうして、無轟たちは扉をくぐり、メルサータへと帰還した。
閉じた異空を見届け、ひとり伽藍は小さく笑みを零す。
「お前の息子は、親思いだなあ」
そう一人、誰に言うでもなく呟いて、工房に戻っていった。
翌朝、神無は引き摺る眠気に耐えながらも起き上がる。
今日はプレゼントが用意されているのだから、普段以上に頑張った。
「……あ!」
プレゼントと思わしきものをすぐに見つけ出す。
もう眠気も吹き飛んだ。目の前にあるプレゼントの中身が何なのか、直ぐに確かめたかった。
びりびりと装丁を引き剥がす。神無には解らないが、豪勢な黒い箱が顔を出す。
「―――よし」
黒い箱の漂う威圧に一瞬、息をのんだがそれでも好奇心、プレゼントの思いの勢いのまま、蓋を外した。
「―――――」
「お疲れ様、あなた」
リビングで無轟にお茶を用意して、言葉を添えた。無轟はそれを受け取り、
「何、気にすることもない。む」
かけてくる音に、無轟と鏡華はそちらへと振り向く。リビングの入口から駆け込んできたのは神無だった。
大慌てで、歓喜の表情に満ちた様子で二人へ声をかける。
「みて! プレゼントォ!」
「あら」
「―――」
神無が手に持つプレゼントに、鏡華は驚きの声を上げ、無轟は一瞬、瞠目して呆然とした。
手に持っているプレゼントの、名前を口にする。
「凛那?」
「リンナー!」
それは、自身の持つ愛刀『明王・凛那』を小太刀のサイズにしたような凛那だった。
息子はそれを無邪気に振りまくる。
「こら、危ないわよ」
妻は冷静に神無を諭すように叱り、素早く彼の傍に回り込んで手にもつ凛那を彼女は調べた。
「――刃物じゃあないわね」
「なに?」
無轟も歩み寄って、神無の持つ凛那の刀身を触れて調べる。刃の形はしているが切れ味は無い。
そういう素材を使っているのか、と納得していると。
「とうちゃん、これ!」
「?」
神無が空いた手で渡してきたそれは封筒であった。
それを受け取り、中身を取り出した。どうやら、手紙のようである。
妻はあえて覗き込まずに神無と戯れている。その間に読み切れ、と目線で命じられた。
「……」
急かされるまま、無轟は手紙に目を通す。
無轟へ。
これを読んでいる時、それは俺が死んでいるだろうという常套句は置いておく。
まず、プレゼントの中身を見て、驚いただろうと俺は思っている。これは確信をもって言えるな。
じゃあ、なぜ『凛那』に決めたのか、そこを説明する。
いくつか質問したが、その中で神無が気に入っている『炎を操る女剣士』と言うキャラについてが、このプレゼントの核心にあたるものだ。
炎産霊神が大雑把な説明でそのキャラの要所を言った時、無意識的に『無轟』の事だと思ったんだ。
子は親を見て、成長していくもんだろうからな。人間らしくなったってことだ。昔のお前と大違いだ。
で、そんなお前を象徴するものは、『明王・凛那』だ。他にもあるだろうが、それはこれからのアンタの仕事だ。
そして、神無が望んでいるもの、それが当たっていると俺はとても嬉しい。作ったのは俺だからな。
まあ、喜ぶ顔が見れないのは残念だが、それは親の特権だろうよ。独り身には眩しすぎる。
最後に。
刀身部分は特別な素材を使っている。切れ味も叩いてもダメージはない。安心して振り回してやれ。
サンタに代わって、伽藍より。
「―――神無、お前は剣が好きか?」
何でも屋なサンタの読み終えた無轟は、小さな笑みで息子へと問いかけた。
少々驚いている妻を横に、息子は眩しい笑顔で、
「すき!」
躊躇わず答えた。
それが何処か嬉しく思い、重ねて問うた。
「どうしてだ?」
「だって、とうちゃんがつかってるから!」
「……そうか」
「そうね…」
遊ぶ息子の笑顔と姿に無轟は妻の鏡華と目を合わせ、苦笑を交わした。
「……以上が、我が息子神無のクリスマスプレゼント秘話だ」
『おー…』
無轟は話を終え、一息つく。鏡華も含み笑いを噛み殺しながら、彼の茶碗に茶を注ぐ。
彼の周囲に居るのはツヴァイをはじめとした息子の、家族たちだ。
番外編では、キャラの接点がほぼ無い為、成長した孫の神月とヴァイも同席している。
そして、話のメインになっていた息子―――神無が顔を真っ赤にして、直ぐに机に突っ伏した。
「…………」
同時に呻く声を漏らすも、彼の家族はにやにやとしている。
「あなた、ホントお義父さんが好きよね」
「ツヴァイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーー!」
神無の悲鳴が、家族の笑い声が聖夜に響き渡った。
時間差の影響か、こちら側はまだ昼を上ったばかりである。無轟は『メルサータの時計』を忘れずに持ち、時間の確認をする。
もって6時間以内にプレゼントを用意しなければならない。
そこで、彼がめどとして当たったのが、この世界に住んでいるとある男。
「――で。俺にサンタ代わりのプレゼントを用意してくれってか」
しかし、男はこの世界から渡り来た旅人であった。此処の空気が馴染む為、居を構えたのだ。
男の出で立ちはこの世界で見かけられた職人とはかけ離れた風貌をしている。
素顔を包帯で隠し、はみ出た素肌の所々に刺青が刻まれている。怜悧な双眸は他者を竦める程の威圧を備えていた。
故にか、彼は賑わいの町の影の様な裏通りに表からは質素な工房に偽装している。
「ああ。色々と作ってくれたんだ、簡単だろう、伽藍?」
無轟はそんな鋭い視線も気にせず、話を進める様に問いかける。
男―――伽藍はやれやれと肩をすくめた。
「……作れと言われれば作るさ、だがなあ。お前の息子(こども)が望んだプレゼントを用意しろってのは、ちょいと難問だぜ。
俺は超能力者でもないからな。ただのモノづくりが好きな奇人変人でさあ」
「解っている。だからこそ、何か作ってくれればいいんだ」
『無轟、それは投げやり過ぎない?』
既に顕現していた炎産霊神は無轟の隣で気楽そうに座っており、彼の無茶な要求に呆れて注意する。
伽藍もその注意に同意する様に頷いて、呟く。
「自由は、不自由なんだぞ、おい……―――そうだな、いくつか質問させてくれ」
しかし、彼は仕事を断る気質は備えていない(無轟は知っていて頼み込んではいたが)のだった。
無轟はその質問に応じ始めた。
「その前に。名前はなんて言うんだったか」
「神無(かんな)だ」
何処か重みを込めて、名前を言うと伽藍は軽く請け負って質問を始める。
「わかった、神無ね。
―――まず一つ目、神無はキャラもののぬいぐるみとか、人形の玩具は好きか?」
「……そういったものは手元にはあまり無い。好き、の部類には入らんだろう」
「そうか」
そう一言応じて、伽藍は深く追及せずに続ける。
「二つ目、真剣そうにアニメとか、特撮番組とか気に入ってる作品はわかるか?」
「ふむ…」
神無と一緒にテレビで見ていたものを思い返す。
別段、自分や鏡華はアニメーション作品は特撮番組は好きでも嫌いでもない性格ゆえ、見るなとも言っていない。
子供向けの作品も、大人向けの作品も一緒に作品を見る事もある。―――話の流れはあまり親子揃って掴めないが。
『ノリがカオスなアニメとか、好きそうだけどね。神無って』
そうしている内に答えを言いあぐねている隣で、炎産霊神はキッパリと答えた。
伽藍がほう、と声を零し、無轟は小さく驚いた様子で炎産霊神を見た。
『僕も一緒に見る事があるよ? 無轟とかが出かけている時とか、暇だし』
言わなかったかな、と言わんばかりに意地悪に小首をかしげた。
「…まあ、一心同体というほどではないからな」
そう言って、無轟は嘆息交じりに言う。
契約し、炎産霊神の神霊核(コア)を自分の魂に癒着、宿す事で無轟は彼の炎を操る事が出来る。
ある程度互いの距離が、離れ離れになっても炎の力は衰えはない。
炎産霊神の単独行動も、無轟は咎めるつもりも無かった為、自由に任せていた。
「じゃあ、そのアニメで出てくるキャラで誰か気に入ってるヤツはいるのか? なんでもいいから、言ってくれると助かる」
質問の相手は無轟から炎産霊神に切り替わっていた。
しかし、適任ではある、と仕方なく彼に譲る。
そうして、質問を受けた彼は少しの黙考の末に口を開く。
『……たぶん、主人公よりも気に入っているキャラが一人いる』
「それはどんなキャラクターか、わかるか?」
「……」
息子の好意なキャラクターが気になるのか、無轟も聞き耳を立てるように関心を向く。
伽藍の追及に、炎産霊神はそのキャラの説明をする。
『えーっと、まず女性なんだけどね。でも、武人みたいな性格していて、主人公と何度も戦う因縁の敵って感じかな』
「もう少し他に特徴とかあるか? 技とか、武器でもいい」
『武器…そういえば、武器も技も僕たちと似たようなものが多かったかな』
「!」
その言葉に、聞いていた両者は想う事は異なるが同じ驚きを見せる。
「……よし、作る物が決まったわ。えーっと」
そして、得心したのか、伽藍は話を切り上げて時計を見やる。但し、無轟の持つメルサータ側の時間時計で。
数秒の思考計算の後、立ち上がった彼は二人に言う。
「残り時間も余裕が在るな、一時間ほど外で待っていてくれるか」
「随分と早くしあがるものなのか?」
「おう。コツは掴んでるんでな」
伽藍の不可解な言葉に、理解する間もないまま無轟と炎産霊神は彼の工房を出た。
時間を潰す為、無轟は表通りにあった喫茶店で休息する。
『何を作ってるんだろうね?』
人前で炎産霊神は物騒なために、彼の声は無轟の念話で済ませた。
(さあな。アイツはいつも期待以上のものを作ってくれる。今回もそうなるさ)
ひとまずコーヒーと、軽食のセットを頂いて、時間が過ぎるのを待った。
「―――そろそろ戻るか」
時間を見やると丁度、時間を迎えている。
頂いた分の料金を支払い、無轟は足早に彼の工房へと向かった。
その胸中は、期待に小さく胸を高鳴った。
「おう、待たせたな」
工房へと入り、彼のいる部屋に戻ってきた無轟を伽藍は作業のまま休憩の姿勢で出迎える。
その傍には横長(おおよそ40cm程度)の装丁された箱が在った。
「それが、プレゼントか?」
中身は何が入っているのか、と問いかけようと手を伸ばすと彼の手が阻むように遮る。
怪訝に思う無轟は黙して彼を見据えて、答えを求める。
「なーに、今の俺は『サンタさん』と同じ気分になった。このプレゼントは神無だけに……さ」
「―――そうか。なら、ありがとう。『サンタさん』よ」
「心籠って無えな…」
無轟のいつにも増した平淡な声に、伽藍は肩をがくりと落とすポーズをとって落胆を示す。
そして、プレゼントを受け取った無轟は工房の外へ出て、異空の扉を開ける。
見送りと、伽藍もついてきて、声をかけてきた。その顔には不安の色が在った。
「あれだな、神無が喜んでくれるか急に不安になって来た」
「……お前なあ」
作り主が急にそのように言われるとこっちまで不安になりかねない。
呆れかえった無轟に、炎産霊神が現れて、陽気に笑いながら言う。
『大丈夫だよ、伽藍の作ったものに問題ないのは確かだから』
「……」
二人は感極まって、無言で互いに目くばせした。
「―――それじゃあ、戻る。息子の枕元に置いておかないとな」
「おう。喜んでくれると信じてるぜ」
そうして、無轟たちは扉をくぐり、メルサータへと帰還した。
閉じた異空を見届け、ひとり伽藍は小さく笑みを零す。
「お前の息子は、親思いだなあ」
そう一人、誰に言うでもなく呟いて、工房に戻っていった。
翌朝、神無は引き摺る眠気に耐えながらも起き上がる。
今日はプレゼントが用意されているのだから、普段以上に頑張った。
「……あ!」
プレゼントと思わしきものをすぐに見つけ出す。
もう眠気も吹き飛んだ。目の前にあるプレゼントの中身が何なのか、直ぐに確かめたかった。
びりびりと装丁を引き剥がす。神無には解らないが、豪勢な黒い箱が顔を出す。
「―――よし」
黒い箱の漂う威圧に一瞬、息をのんだがそれでも好奇心、プレゼントの思いの勢いのまま、蓋を外した。
「―――――」
「お疲れ様、あなた」
リビングで無轟にお茶を用意して、言葉を添えた。無轟はそれを受け取り、
「何、気にすることもない。む」
かけてくる音に、無轟と鏡華はそちらへと振り向く。リビングの入口から駆け込んできたのは神無だった。
大慌てで、歓喜の表情に満ちた様子で二人へ声をかける。
「みて! プレゼントォ!」
「あら」
「―――」
神無が手に持つプレゼントに、鏡華は驚きの声を上げ、無轟は一瞬、瞠目して呆然とした。
手に持っているプレゼントの、名前を口にする。
「凛那?」
「リンナー!」
それは、自身の持つ愛刀『明王・凛那』を小太刀のサイズにしたような凛那だった。
息子はそれを無邪気に振りまくる。
「こら、危ないわよ」
妻は冷静に神無を諭すように叱り、素早く彼の傍に回り込んで手にもつ凛那を彼女は調べた。
「――刃物じゃあないわね」
「なに?」
無轟も歩み寄って、神無の持つ凛那の刀身を触れて調べる。刃の形はしているが切れ味は無い。
そういう素材を使っているのか、と納得していると。
「とうちゃん、これ!」
「?」
神無が空いた手で渡してきたそれは封筒であった。
それを受け取り、中身を取り出した。どうやら、手紙のようである。
妻はあえて覗き込まずに神無と戯れている。その間に読み切れ、と目線で命じられた。
「……」
急かされるまま、無轟は手紙に目を通す。
無轟へ。
これを読んでいる時、それは俺が死んでいるだろうという常套句は置いておく。
まず、プレゼントの中身を見て、驚いただろうと俺は思っている。これは確信をもって言えるな。
じゃあ、なぜ『凛那』に決めたのか、そこを説明する。
いくつか質問したが、その中で神無が気に入っている『炎を操る女剣士』と言うキャラについてが、このプレゼントの核心にあたるものだ。
炎産霊神が大雑把な説明でそのキャラの要所を言った時、無意識的に『無轟』の事だと思ったんだ。
子は親を見て、成長していくもんだろうからな。人間らしくなったってことだ。昔のお前と大違いだ。
で、そんなお前を象徴するものは、『明王・凛那』だ。他にもあるだろうが、それはこれからのアンタの仕事だ。
そして、神無が望んでいるもの、それが当たっていると俺はとても嬉しい。作ったのは俺だからな。
まあ、喜ぶ顔が見れないのは残念だが、それは親の特権だろうよ。独り身には眩しすぎる。
最後に。
刀身部分は特別な素材を使っている。切れ味も叩いてもダメージはない。安心して振り回してやれ。
サンタに代わって、伽藍より。
「―――神無、お前は剣が好きか?」
何でも屋なサンタの読み終えた無轟は、小さな笑みで息子へと問いかけた。
少々驚いている妻を横に、息子は眩しい笑顔で、
「すき!」
躊躇わず答えた。
それが何処か嬉しく思い、重ねて問うた。
「どうしてだ?」
「だって、とうちゃんがつかってるから!」
「……そうか」
「そうね…」
遊ぶ息子の笑顔と姿に無轟は妻の鏡華と目を合わせ、苦笑を交わした。
「……以上が、我が息子神無のクリスマスプレゼント秘話だ」
『おー…』
無轟は話を終え、一息つく。鏡華も含み笑いを噛み殺しながら、彼の茶碗に茶を注ぐ。
彼の周囲に居るのはツヴァイをはじめとした息子の、家族たちだ。
番外編では、キャラの接点がほぼ無い為、成長した孫の神月とヴァイも同席している。
そして、話のメインになっていた息子―――神無が顔を真っ赤にして、直ぐに机に突っ伏した。
「…………」
同時に呻く声を漏らすも、彼の家族はにやにやとしている。
「あなた、ホントお義父さんが好きよね」
「ツヴァイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーー!」
神無の悲鳴が、家族の笑い声が聖夜に響き渡った。
■作者メッセージ
神無
「…今回は珍しくイベント小説を投稿したんだな」
夢旅人
「当初のイベントの内容は、息子のプレゼントを手に入れるべく招かれた無轟とベロボーグが、
イリアドゥスの提示したルール。『デュエルで勝利せよ』と言う事で、遊戯王カードゲームでデュエルする感じでした」
無轟
「剣士にカードゲームというのは些かどうかと思うが…」
夢旅人
「剣を決闘盤(デュエルディスク)の様に扱う奴もいたし、問題ない問題ない」
無轟
「…話が変わってよかった気がした」
炎産霊神
「そこまで複雑な話が時間的に無理だったんだよねー?」
夢旅人
「気にするな!」
鏡華
「そういえば、伽藍の質問で出たアニメ関連の元ネタはあるの?」
夢旅人
「カオスなアニメは遊戯王とか、色々。アニメは多種多様だからねえ。
――神無が好きな炎操る女剣士は、凛那をイメージしていたんだけど……気が付いたら灼眼のシャナになっていた」
凛那
「すげ替えってレベルじゃあないわよ」
夢旅人
「まあ、無轟のキャラのインスピはるろ剣の志々雄真実、シャナとかだからね。仕方ないね」