KH 1-01
「記憶っていうのはさ、ただひとつひとつがカケラのように存在しているわけじゃあないんだよ」
彼女は目を閉じた。綴るように、一言一言を形にする。
わたしは手を止めるつもりはなかった。淡々と、最低限の思考を回し、所定の手順を繰り返す。
指先は冷たく、キーは軽い音を立てる。彼女の言葉はただのノイズだ。意味のないもの。価値がないもの。
「たとえば――――そう、とても唐突に昔のことを思い出すことってない?それは楽しい記憶でも、辛かった時のものでもいいけれど、そういうこと。
それってね、やっぱり記憶が繋がってるっていうことなんだと思う。運動会で紐付けられた国旗みたいな感じじゃなくって、もっと広く、多く」
しかし。
そうだな。
いいや。
だが。
――――そんな、まるで受け答えるような一語一語が思考の流れをかき乱す。
一度指を止め、嘆息する。
さぁ思い出せ。わたしと彼女の関係を。彼女にわたしは何をしようとしていて、その目的は。
状況把握――――完了。
目的確認――――終了。
その行動に曇りは、ない。
躊躇いは、ない。
彼女への執着も――――ない。
切っていた接続が繋がっているのかもしれない。彼女とわたしは長く繋がりすぎていた。忘れているとも限らない。
モニタリングされているコンディションを再度確認。全て正常値だ。異常ではない。なにも間違っていない。
であるなら、この衝動は、なんだ?
何かがざわめいている。思考の回転にノイズを与え、ミスのない行動に支障を来している。
これはなんだ。
何が起きっている。
――――おまえは、なにものだ。
「……私とあなたは、繋がっている。そうでしょう?」
「なるほど。この記憶に縛られるココロ……わたしにとって、おまえは、蜘蛛だったのか」
「そうかもね。あなたも、私も、この蜘蛛の糸にすがるしかないんだもの」
「……だまれ」
低く吐き捨てる。エンターキーを押す。
筐体が震える。ゆっくりと、彼女の姿を包み込み。
「……さよならだ。わたしの後生。二度と姿を見せてくれるな。遥か彼方の水平線まで飛んでいけ、潮の音と共に」
■作者メッセージ
今回投稿した小説「KH」はヒロさんが書いたKH二次小説で、許可を得て投稿してます。
原文そのまま(改行などで一部編集)です。感想あれば是非。
原文そのまま(改行などで一部編集)です。感想あれば是非。